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[397]名無しさん@ピンキー 2006/03/17(金) 00:50:36 ID:azBPrxc4
[398]名無しさん@ピンキー 2006/03/17(金) 00:51:18 ID:azBPrxc4
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[402]名無しさん@ピンキー 2006/03/17(金) 00:53:53 ID:azBPrxc4

魔法少女リリカルなのはA's+ 第十二話 「悲劇の輪廻」

アースラ内会議室。今、クロノを筆頭に全員が集合し部屋は少し手狭になっていた。
大きな画面には魔導師の顔とさまざまなデータが並んでいる。

「例のデバイスを解析した結果、ユーノと魔導師はこの座標に強制転送されていることがわかった。
どうやら緊急用の自動プログラムのようだ。しかし…」
クロノは少し厳しい表情で続けた。
「あの時の膨大な魔力の影響で発動が遅れたらしい。約3秒間、二人ともダメージはくらっているはずだ」
リンカーコアを直接利用する魔法を使っていたユーノが耐えれているかどうか。それが問題だった。
「大丈夫!ユーノは絶対生きてる。だから行こう!!」
「あたしも早く行きたくてしょうがないよ!あいつに迷子にされた礼をた〜っぷり返してやらないとね!!」
「わ、わたしだって!!!」
フェイトが力強く言い、アルフもそれに賛同した。なのはも負けじと意気込む。
「まあ落ち着け。こちらも万全の準備で行こう。また同じような仕掛けがあるかもしれないしな」
クロノが焦る少女達と使い魔を制止させた。
「決戦は三日後。それまでにみんなで準備を整えよう」
「「「「「おーーーー!!!!!」」」」
全員が一致団結した後、一時解散となった。
その部屋を出る途中、ふいにリィンフォースがはやてに話しかけてきた。
『あの…マイスターはやて。ちょっといいですか?』
言いづらそうに聞いてくるリィンフォース。
「なんや?どうしたん?」
不思議そうに尋ねるはやてにリィンフォースが恐る恐る言った。
『前から思っていたんですけど……あの魔導師、昔見たことあるような気がするんです……』
はやては少し考え込んだ。…見たことがある?今のリィンフォースは自分が生み出したのだから自分も知っているはずである。
もしかしたら前のリィンフォースの記憶かもしれない。
「前の主達と接点でもあったんやろか?」
はやてはシグナム達に聞こうかとも思ったが、今まで誰も言わなかったということはたぶん知らないのだろう。
(関係なければいいんやけど……)
はやては悲しみを背負い光の粒となった彼女を思い出しながら祈るように思った。

                 *

「僕は僕ではないといえるし、僕であるともいえる。哲学的な意味ではなくね」
魔導師は窓の外の麦畑を見ながらゆっくりと言った。
「二重人格…ということですか?」
ユーノが思いついたことを言った。
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。定義は人によって違うだろうね」
「…………」
ユーノは理解できずに眉を八の字にした。
「でも、確かなこともある。それは、君が会った“彼”と今君の前にいる“僕”の人格は非なるもの。
そう思うだろう?君も。…いや、ユーノ・スクライア司書長」
魔導師は振り向きユーノを見つめて言った。
「!?な、なんで僕の名前を?」
驚いた。魔導師には名乗った覚えもないし、自分は名前が有名なほど偉くもない。
「君だけではないよ。高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、クロノ・ハラオウン、そして……八神はやて。みんな知ってる」
はやての名前をあげる時だけ間をおき、魔導師は悲しいような、寂しいような、複雑な表情をした。
「…闇の書がなにか関係してるんですか?」
はやてといえば6年前の闇の書事件の中心人物だ。
「そうだね。あまり時間もないし、話そうか。僕と夜天の魔導書との因縁を……」
そう言って魔導師は再び窓の外に目を向けた。おだやかな風が魔導師の黒い髪をやさしくなでた。
                


──────それは遠い過去の話



「つい先ほど夜天の魔導書の破壊が確認された。次の転生先は、十中八九彼女だ」
「そんな……」
事実を聞かされた黒髪の少年は声をなくし、隣にいる少女は俯いた。
「でも!彼女に転生されると決まったわけじゃ…」
少年はそれでもまだ食い下がった。
「いや、彼女ほどの魔力と才能はおそらくどの次元にも存在しないだろう。それに、しばらく監視するだけだ。
そう慌てる必要もない」
そう言って提督は部屋をあとにした。
(夜天の魔導書は完成させてもさせなくても選ばれた主は死ぬんだから、どうしようもないじゃないか!!!)
少年が悔しそうに歯軋りすると、少女が優しく手を包み込んで言った。
「わたしは、大丈夫だから…」
そう言って微笑む彼女に少年は強いまなざしとともに言った。
「君は僕が守る。今までだってそうだった。君は僕の大切なパートナーなんだから…」
少年はぐっと手を握り返した。

この時代は時空管理局も発足してまもなく十分な体勢が敷けなかったのもあり、夜天の魔道書はさまざまな次元で猛威を振るっていた。
それでも、魔導書が魔法の資質が高い者を主に選び、しかも歴代の主はみな死んでいるという情報までは掴んでいた。
破壊しようとすると持ち主を飲み込んで転生してしまうという情報もあった。とにかく情報が錯綜し、確証がとれない。
主に選ばれればプログラムを改変する手立てもなく、リンカーコアを蒐集するか死ぬかの二択であった。
選ばれた主のほとんどが野望のために蒐集を選び、完成・発動後に闇の書の意志に肉体を奪われ、暴走により死亡している。
ヴォルケンリッターの騎士達はとても凶暴で手に負えるものではないとも聞かされていた。

(守ってみせる。絶対に……)

しかしその数ヵ月後、無情にも彼女の前に夜天の魔導書は姿を現した。

多くの局員の監視の下、彼女が主に選ばれる儀式が始まった。
「夜天の魔導書、開きます!!!!リンカーコア、コンバート開始!!!」
彼女から出てきたリンカーコアを魔導書が吸収しようとする。しかし、あらかじめ局員達が用意していた別のリンカーコアと
入れ替えるために、僕を含めた数人の結界魔導師達が魔法を発動した。
(代わりのリンカーコアは低知能の魔獣のもの…。これを魔導書が主と認識すれば、彼女は助かるはず!)
作戦を考えたのは僕だった。死に物狂いで情報を集めた結果、今の技術でとれる最善の策だった。
彼女のリンカーコアは一時的に別のものへと入れ替えられた。そして魔導書に吸収されるように近づいていく。

作戦は成功するかに見えた。次の瞬間、

「魔導書にエネルギー反応!!!こ…これは……防衛プログラム!?エネルギー体、この空間に出ます!!!!」

魔導書から出てきた光が瞬時に巨大な魔物となり、多くの局員を踏み潰しながらその姿を現した。
一瞬のうちにあたりは阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
僕も必死に逃げ、空高く飛び遠くからその様子を見ていた。
(そ、そうだ!)
主に選ばれるはずだった彼女はどうなったんだろうか?急いでその姿を探した。
すると、同じ高さに浮かびながらこちらをみている少女に気がついた。
(よかった……)

そう思い微笑んだ瞬間、

光の槍が彼女の心臓を貫いた。

(え……!?)
光景がスローモーションになる。彼女は口から血を流し、まっさかさまに落ちていった。
急いで助けに向かい、地面ギリギリでなんとか受け止めた。
「な、なんで!?だれがこんなことを!!!!」
僕は必死に治癒魔法を彼女に施しながら叫んだ。でもわかっていた。これほどの致命傷はもはや手遅れであることが。
「……ご…めん…ね…」
そう言いながら彼女は僕の頬に手を伸ばした。僕の頬にべっとりと血がつく。
そうだ、あの魔法。あの光の槍は僕の恩師である提督がいざという時にと教えてくれた殺傷能力の高い魔法だ。
すると、提督がすぐそばに立っているのに気がついた。
「き…きさまあああああぁぁぁ!!!!」
彼女を抱いたまま僕は怒りで叫んだ。
「周りを見てみろ」
悲しく、とてもつらそうに言う提督の言うとおり周りに目を向ける。
先ほど現れた巨大な魔物は姿を消していた。動かなくなった局員や怪我をした局員が廃墟と化した施設とともにいるのがわかった。
「彼女はこうなることも見越して私に頼んでいたのだ。みんなを巻き込むようなら自分を殺してくれと…」
彼女を見ると、僕を見て微笑んでいた。
「だ…だからって……どうして!?」
僕には理解できない。どんな理由があったって、理解なんてできない。
「あのまま魔物を放っておいたらみんな死んでいたんだぞ!!!契約するはずの主を契約中に失ったんだ。
魔導書はしばらく次元を彷徨うだろう。あと数百年はその姿をみることもあるまい…」
今の状況と怒りで頭が混乱し、僕はなにも考えられなかった。ただ、目の前で死にゆく彼女を見ていることしか出来ない。
すると彼女が最後の力をふりしぼって僕に囁いた。

「……わたしね……あなたのこと…ずっと前から…………」

最後に聞こえた言葉を耳にし、僕は絶叫にも似た叫び声をあげた。

                                  


「それから僕は時空管理局を離れ、たった一人で夜天の魔導書を探し続けた。……復讐を果たすためだけにね」
魔導師がこちらを見ていった。ユーノはあまりに壮絶な過去に言葉を失った。

しかし、一つ気にかかることがあった。いつの話なんだろうか。時空管理局の発足した時といえばとんでもなく昔だ。
ほとんど原始的な魔法しかないくらい昔。この人が今まで生きているはずがない。
あらためて魔導師の外見を見る。少なくとも20代後半か30代くらいだ。
その視線を感じて魔導師がゆっくりと話した。
「僕はね…何百年と転生と転移を繰り返す魔導書を追うために、ある方法を取るしかなかったんだ」
そういって手元にあった機械のボタンを押すと、重低音とともに目の前の古い民家風の壁が下がった。機械的な部屋がその奥にあった。
(!!!!!)
その部屋の両側には円柱状のケースが何本も立ち並び、中には裸の魔導師が何体も浮かんでいた。
そう、あれと同じようなものを昔見たことがあった。PT事件。あの時のアリシアが入っていたものにとても似ていた。
一番奥には棺桶ぐらいの大きさの装置があった。
「クローニングとコールドスリープ。これで僕は数百年にも及ぶ時を生きてきた。
そして、クローンの個体には僕の元となる記憶を植えつけ続けたんだ。その人格が“僕”。
だけど、度重なるクローンの影響で新たに人格が生まれたんだ。それが“彼”。彼は僕の負の一面である管理局を恨む感情を色濃く
受け継いでいるようだね。……いや、世界そのものを恨んでいるのかもしれない…」
(クローンの怨念の集合…?)
よくわからないがなんとなくユーノはそう思った。クローンにだって一人一人異なる人格があって当たり前だ。
(アリシアのことはよくわからないけど、フェイトは……フェイトなんだ)
ユーノはその場にいない少女を想い強く心の中で呟いた。

「僕は起きるたびに次元管理局や時空管理局に変身魔法で忍び込み、魔導書の情報を集め続けてきた。
17年前クライド・ハラオウンが死んだとき、僕は運悪くコールドスリープに入っていた。
最近になって細胞の劣化のせいか、長く起きていられないんだ。クローンとはいえ、行動させるのは一人と決めているしね。
何度かあったんだ。僕が活動してないときに魔導書が現れるときが。ただ、最大の不幸が数年前に起こった」
「闇の書事件の解決…」
ユーノが呟いた。
「僕は生きる目的を失った。だって、防衛プログラムはもうアルカンシェルで消し飛び、魔導書はたんなるデバイスになり下がったんだ」
魔導師は怒りに手を震えさせながら言った。数百年の苦労と彼女への想いが、全て無駄になったのだ。
「すると、僕の意識はどんどん希薄になっていき、いつしか“彼”が僕を動かすようになったんだ。
彼が起きているときは僕には意識があった。だから見ていたんだ。全部」
魔導師が面白そうに言った。まるで自分には関係ないことのように。
「だったら!なんで止めないんですか!!そいつは次元を消滅させるかもしれないんですよ!?」
ユーノはその無責任さに腹が立った。しかし魔導師はそれを全く意に介せず答えた。
「もう僕には関係ない。どうでもいいんだよ。彼女のいない世界に興味はないんだ。ただ、体は共通だし、僕が起きているときは
ちょっと協力してあげたりはしたけどね。さっきも管理局の会議に参加してきたんだ。魔導師とジュエルシードは虚数空間に落ちたから
もう探さなくていいよって言っておいた」
クスクスと笑いながら話す魔導師を見てユーノは理解した。

(この人は……壊れている……いや、とっくに壊れてたんだ。彼女が死んだその時から)

写真立てにあった少年と少女の写真を思い出した。
ふぅっと笑うのをやめ、魔導師はまた窓の外に目をやった。麦畑にさらさらと波が起きている。
ユーノが最後に質問した。
「なんで僕にこんなに話してくれたんですか?」
どうしても聞きたかった。魔導師に不利になる情報もかなり含まれていたからだ。
魔導師はユーノを見ずに嘆くように言った。

「君は、僕にとてもよく似ているからね。……見ていて悲しくなるくらい」

そう言って魔導師は目を閉じた。ユーノは、もうなにも言うことはできなかった。


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