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[108]名無しさん@ピンキー 2006/03/26(日) 00:43:05 ID:TGMh0l8E
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[117]名無しさん@ピンキー 2006/03/26(日) 00:49:25 ID:TGMh0l8E

魔法少女リリカルなのはA's+ 第十四話 「たった一つの強き願い」

ユーノを中心に光の柱が立ち、暗雲に円状の穴があく。


「あぅ!!」
ユーノを抱えていたリーゼロッテはその衝撃で弾き飛ばされた。

「な、なんだこれは?」
クロノは呆然とその光の柱を見た。
「ユーノ!?」
「ユーノくん!!」
フェイトとなのはもなにが起こったのかわからずにユーノの名を叫ぶ。
「この魔力……」
魔導師は目を見開いてその光の柱を見た。

ゴゥッ!と再びあたりに衝撃波が起こり光の柱が消える。

暗雲にあいた穴から光が差し込み、辺りを明るく照らす。

消えた柱の中心に光の剣を手にしたユーノが浮かんでいた。
「なんやあれ…?」
はやてはその信じられない光景にただ見ていることしかできなかった。

「お前は絶対に許さない!!!!」

剣先を魔導師に向けながらユーノが叫んだ。
次の瞬間、ジグザグに光の速さではるか上空に上っていった。まるで下から雷が突き上げていくようだ。
全員がそれを追うように真上を見あげた。目で追うのがやっとの速さだ。

「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

そして怒声とともに猛スピードで魔導師の入った赤い球に向かって突っ込み、光の剣を振り下ろす。

光の剣と強固な防壁の間にはげしい火花が散った。

「ぐぅ!!!!!!!!」

魔導師はその衝撃に必死に耐える。

「貴様!その力、ジュエルシードだな!?不完全なお前のリンカーコアが負荷に耐えられると思っているのか!!!!」

魔導師は叫んだ。この威力、複数のリンカーコアを使っているとはいえ防壁が持つかわからない。

「かまうもんかあああああああああああ!!!!!!!」

叫びながらさらに力を込める。剣がどんどん輝きを増していく。ユーノの願いに呼応するかのように。

「うぐっ!おおおおおおお!!!!!」

魔導師も対抗するように集中する。ここでこの魔法を解くわけにはいかない。破られれば負け、持ちこたえればこちらの勝ちだ。

その様子を全員が呆然と見ていた。何が起こっているのかわからない。
しかし、先ほどまでまったく魔力を感じなかったユーノがあれだけ膨大な魔力を行使しているのだ。
きっとユーノは……。そうみなが予感した瞬間なのはが叫んだ。

「お願い!!もうやめてえええええええええええええ!!!!!」

そのつんざくような叫びに魔導師がなのはの顔を見る。
一瞬、自分が愛し、恋焦がれてやまなかった少女の顔とダブって見えた。

ドクン!!!

人格が混ざる。復讐を果たすためだけに生き続けた“僕”と、そこから生まれた怨念である“彼”。
その時、魔導師の集中は途切れ、囲っていた血文字が少しだけ薄れた。

「しまっ!?」

それをユーノは見逃さなかった。

「切り裂けえええええええええ!!!!!!!!!!!」

今までで最大の輝きを剣が発した。

赤い球の全体にひびが入り、まるで氷が割れるように弾け飛ぶ。

キラキラと赤い文字はその形を失い、辺りに散っていく。ユーノは勢い任せにそのまま剣を振りぬいた。

「ぐああぁあぁ!!!!」

魔導師が肩から腰にかけて切り裂かれる。ブシャッと血が舞った。
魔導師の周りを回っていた6個のジュエルシードは回転をやめ、今まで貯めた魔力を不完全なまま解放する。


辺りは一瞬にして光で包まれ、爆音と共に衝撃波が全員を襲う。


「うわっ!!」
「きゃああああ!!!!」
「フェイトーーー!!!」

シールドを張ったにもかかわらずクロノとフェイトは吹き飛ばされ、アルフがそれを追いかけた。
「うぐっ!!!!!」
なのははプロテクションパワードでなんとか持ちこたえる。
「すげー威力だぞこれ!」
「これがジュエルシードの力か…」
はやてを囲むように騎士達が強力な結界を作る。

麦畑は吹き飛ばされ、円状に地面がその姿を晒した。
白い二階建ての民家はほとんどが吹き飛び、廃墟となる。
あたりは静寂が舞い降り、暗雲にあいた円状の穴から差し込む光が中心にいる一人の少年と横たわる魔導師を照らし出す。

「がはっ!!」
ユーノは血を吐き光の剣を地面に突き立て自分を支えた。はげしい負荷に体もボロボロになっていた。
そしてキラキラと光の剣が塵となり、空気中に消えていく。
「ユーノくん!!!」
なのはが飛んできて急いでユーノを支える。ユーノの荒い息遣いが聞こえる。

「……わ…私の……負けだ……」
横たわった魔導師がヒューヒューと苦しそうに息をしながらユーノを見上げて言った。
「どうやら…お前の願いが……私の願いを……上回った…ようだな……」
ユーノはなのはに支えられながらじっとその顔を見つめていた。クローンの最後。それは、過去に縛られたあの魔導師の最後でもある。
全員がユーノと魔導師の元に集まる。今この瞬間、魔導師の野望は潰えたのだ。
シャマルがユーノに治癒魔法を施す。しかし、ユーノの顔はどんどん青ざめていった。
「ユーノくん!!!!」
「ユーノ!!!」
なのはとフェイトが悲痛の叫びをあげる。
「おい!どういうことだよ!」
ヴィータがシャマルに叫んだ。
「わ、わからないわよ!!体の傷はちゃんと治ってるはずだわ!!」
シャマルが答えると、魔導師が静かに言った。
「……こ、これを…使え……」
震える手を掲げ、その指を開いた。その中から一つの結晶が光と共に飛び出る。
「ジュエルシード!?」
クロノが驚きをあらわにした。
「不発に終わった分だ。も…もともと、6個のジュエルシードが淡い願いにより少年を守っていたのだ。
……おそらく、強き願いでその力を全て使い、少年のリンカーコアを完全に修復させるだろう……」
ゴフッと血を吐きながら魔導師が言った。
「と、とりあえずあなたも回復します!」
シャマルが魔導師にかけよった。クロノも頷く。この魔導師を逮捕するのが目的であり、命まで奪うつもりは元々なかった。
しかし、それを遮るように魔導師が言った。
「む…無駄だ…。わ、私のリンカーコアは…もう修復は不可能だ…。そ、それに…度重なるクローニングで…細胞もすでに限界なのだ…」
スッと魔導師が目を閉じる。次に開いた瞬間、とても穏やかな目つきに変わる。
ユーノは人格が変わったことを悟った。
「…ユーノくん…止めてくれて……ありがとう…。ああ、僕も…ようやく君の所へ……」
魔導師が片手を天にむかってかざす。その瞳には、自分の愛した少女が映っていた。その少女はにっこりと微笑み魔導師の手をにぎる。
魔導師の顔にも笑みが浮かぶ。数百年ぶりの、心からの笑顔だ。

ドサッ

魔導師の手が地面に落ち、最後を遂げたと同時になのはに支えられていたユーノも地面に仰向けで倒れこんだ。
「ユーノくん!!」
「ユーノ!!!」
なのはとフェイトが駆け寄る。
呼吸が完全に停止していて、鼓動はいまにも止まりそうなくらい弱弱しい。
「ど、どうすればいいんや!?」
はやてが慌ててクロノに尋ねる。
『強き願いでジュエルシードは起動するわ!今は緊急事態です。使用を許可します!!』
様子を見ていたリンディが叫ぶように言った。
「フェイトちゃん」
「うん!!」
なのはとフェイトはお互いを見て頷き、浮かんでいるジュエルシードを二人で握った。
全員がユーノとなのはとフェイトを中心に囲む。

(まだ死ぬな!…妹を泣かせる気か!!)
クロノが目を閉じる。
(あなたにはまだやるべきことがあるでしょう…)
(ユーノ…このままなんて悲しすぎるよ…)
リーゼ姉妹がそれぞれの思いを胸に抱く。
(みんなユーノくんが必要なんや!!)
はやてもぎゅっと目を閉じて祈る。
(ユーノ…お前はまだ生きねば…)
(ここで死んだら無責任やろーってことで一生恨むからな!)
(ユーノくん…お願い…死なないで)
(ユーノ…死ぬには早すぎるぞ…)
騎士達が静かに目を閉じる。
(ユーノ…あたしはフェイトに泣いて欲しくないよぉ…)
アルフが手を組み祈るように掲げた。

(ユーノくん……わたしね……わかったんだ。わたし、ユーノくんのこと……)
(絶対死なせない!アリサとすずかに約束したんだ!!それに、わたしは……)
なのはとフェイトが強くジュエルシードを握る。
すると、指の隙間から光が漏れ出ししだいに強くなる。




そしてあたりはまばゆい光に包まれた。




──────数日後




『マイスターはやて!みなさん到着のようですよ!!』
半透明の少女が青い本を片手にはやてに話しかける。
「おっせーな!何分待たせたと思ってんだよ!!」
「ヴィータ、喪服探しにあれだけ付き合せておいたお前が言うか」
ヴィータが愚痴を言い、シグナムが静かに言った。
「あたし達がちょっと早くに来すぎたようやな」
黒いスーツに花束を持ったはやてが騎士達に答えた。
「まったく、君は休んでいろと言った筈だ!」
「いいだろ!もう検査したらなんともなかったんだから!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「兄さん、ユーノを虐めたら怒りますよ」
全員が喪服に身を包み転移魔法陣から姿をあらわす。エイミィとリンディも一緒だ。

白い家の廃墟とまばらに残る麦畑。その中央に黒い十字架の墓が立っていた。
天気は晴天で、心地よい風がみなを包むように吹いた。

はやてが静かにその墓に花束を置く。その墓に名前は彫られていない。その代わり、少年と少女の写真が取り付けられていた。

そして全員が手を合わせて黙祷の意をささげる。全ての事情は回復したユーノから聞かされていた。
彼もまた、闇の書の悲劇の被害者であった。

(終わったんやろうか。これで全て…)

はやてが誰に聞くでもなく心の中で呟いた。目を開けるとリィンフォースが悲しそうにこちらを見ていた。

(どんなことがあってもあたしは負けへん。この子とともに……それが彼女との約束や)

スッと立ち上がる。強い日差しに目を細めた。

「そういえば、彼はどうやって復讐を果たすつもりだったんだろうか…」
ユーノが呟いた。無限の転生と転移を繰り返す夜天の魔導書。それをどうするつもりだったのかユーノにはわからなかった。
「ああ。これは本人に聞けなかったからあくまで推測の域を出ないんだが…」
クロノが立ち上がりながらみんなを見て言った。
「例の巨大デバイスは一定の空間にいる対象の転移を妨害、または意のままに転移させることができるものだった。
そしてあのデバイスから少し離れたところにトンネルが掘られていて、地下にはマグマがあった。
おそらくやつは、魔導書をその中に放り込んで無限の再生と死を繰り返させるつもりだったんだろう…」
クロノが墓についている写真に目をやった。写真の中の少女は微笑んでいた。そんなことをしても、彼女が生き返るわけではない。
それがわかっていても、彼は魔導書を追い続けた。途中で考えることをやめてしまったんだろう。
「あたしも質問があるんだけどいいかい?」
窮屈そうに喪服を直しながらアルフが言った。
「ん?どうした?」
クロノがアルフを見た。フェイトも突然の自分の使い魔の質問に首をかしげる。
「ユーノの中に6個のジュエルシードが入ってたけど、あれは誰の願いがかなったんだい?」
純粋な瞳で聞くアルフ。たしかに、誰かの願いをうけてジュエルシードは力を発揮する。6個も起動したということは
余程強い願いだったようだ。あのユーノが消えた時、最初にユーノの意志に気づいた人と言えば……。
全員の目がクロノを見つめる。
「ん?」
クロノはよくわからずにきょろきょろと全員の顔を見る。そして二つの闘気を肌に感じた。
「クロノくん………!!」
「兄さんまで………!!」
なのはとフェイトがじりじりとクロノにつめよる。
「レイジングハート!」
『Yes, my master.』
「バルディッシュ!」
『Yes, sir.』
二人はクロノにデバイスを構える。
「え?…え!?えええええぇぇぇぇ!?」
クロノはわけもわからず飛んで逃げ出した。それを逃がすまいとなのはとフェイトが追いかける。
「クロノくん、そんな趣味があったんか……。ちょっとショックやな〜」
はやてが小さく嘆いた。
「あれ?はやてちゃん、もしかしてクロノくんのこと…」
それを聞いたエイミィが少し焦り気味に言った。
「この次元、けっこう居心地いーな!」
「そういえばあっちにお洒落な町があったわよ」
「この服ではいけまい。あとで着替えるか。なっ!?ザフィーラがすでに子犬フォームに!?」
「問題ない。行くぞ」
騎士達は相変わらず楽しげに会話を弾ませる。
リンディは微笑みながらみんなの様子を眺めていた。


ユーノは墓の前に静かに立った。

────君は、僕にとてもよく似ているからね。……見ていて悲しくなるくらい

────…ユーノくん…止めてくれて……ありがとう…。

魔導師の言葉を思い出す。やはり彼は心の奥底では誰かに止めて欲しかったんだ。

「僕は、あなたの分まで生きます」


そう言うと強く風が吹き、花束の花びらが散って上空へとのぼっていった。


まるでユーノの言葉に答えるように。


墓に飾られた写真の中で、少年と少女は幸せそうに微笑んでいた。そう、とても幸せそうに……。





              Fine.





魔法少女リリカルなのはA's+    完


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