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[290]76 2006/03/31(金) 02:29:16 ID:IRwrKXe7
[291]76 2006/03/31(金) 02:35:47 ID:IRwrKXe7
[292]76 2006/03/31(金) 02:37:02 ID:IRwrKXe7
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[295]76 2006/03/31(金) 02:38:38 ID:IRwrKXe7
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[299]76 2006/03/31(金) 02:44:23 ID:IRwrKXe7
[300]76 2006/03/31(金) 02:44:53 ID:IRwrKXe7

蒼穹の果ての戦場 ――A's COMBAT THE LYRICAL WAR――

 そして、地球標準時間にして丸一日が過ぎた。各々が準備と覚悟に時を費やし、そして作戦決行の時が訪れる。
 ドーム上に大きく開けた簡素な広場に、数多くの人影が集っていた。
 その多くは黒のバリアジャケットと管理局の標準装備であるストレージデバイスを構えた、屈強な男女達――――時空管理局の懐刀、武装隊の精鋭たる武装局員達である。
 そして整然と並び直立不動する彼らの前で言葉を放つのは、白亜のバリアジャケットと長大なインテリジェントデバイスで武装した、一人の少女。
 「――――これより艦内時間にして約三十分後に目標世界に接舷、アースラによる直接次元揚陸が行われます。私たちの任務は敵迎撃部隊に迎撃班が対処している間に敵拠点を特定、空間転送による強襲で対象施設を制圧するというものです」
 その年若さに似合わぬ堂の入った立ち振る舞いと弁で武装局員達に任務の概要を改めて説明する。その様は見ように拠れば滑稽ではあったが、それを笑うものは一人もいない。それだけの説得力が彼女の佇まいには存在していた。
 「対象である拠点は『銀の暁』の主要なアジトのひとつです。それゆえに任務の失敗は許されず、私たちにかけられた責任は重大。ですが、私達がその全力を持ってすれば、恐れるものは無いはずです」
 一息。彼女は視線を鋭くすると、眼前の戦士達に告げる。
 「がんばりましょう。私は共に切磋琢磨し、訓練の日々を過ごした皆さんとこうして同じ任務に就けることを嬉しく思います。一緒に、作戦を成功させましょう」
 その言葉を受けて、一斉に黒の人影らは敬礼を行う。それは一種儀式的にも見え、或いは女神に忠誠を誓う騎士のようでもあった。
 「――――大したものだな。随分と堂に入っていた」
 その様を見ていたザフィーラが演説を終えて戻ってきたなのはに声をかけた。その様は珍しく感銘を受けているという様子がありありと浮かんでいる。
 「えへへ、そうかなぁ。私こういう風なの初めてだったんだけど」
 照れるように笑う少女に、やはり感心するようにアルフが言う。
 「確か教導任務で魔法戦闘とか教えている教え子さんたちなんだっけ?」
 「教え子!? あれみんなお前の教え子なのかよ!」
 驚愕といった形容が相応しい表情でヴィータが叫んだ。それはそうだろうな、となのはは考える。
 この年で教え子がいるというだけで相当おかしいような気は本人も薄々していたが、第三者の率直な意見を受けてその思いはより明確なものになった。
 とはいえ、教導隊に入ってもう半年になろうかという時分では、最早開き直るしかない。訓練のときも既に年下の教導員を侮るものはいなくなっていた。全ては実力の賜物である。
 「皆ってわけじゃあないんだけど、たまたま私が教えた人たちが多く集められたらしいの」
 「ふむ、あの様では或いは志願したのかもしれんぞ? 王に礼を尽くす騎士たちさながらだったからな」
 「か、からかわないでくださいよ」
 シグナムの軽口に顔を真っ赤にして恥ずかしがるなのはを見て、傍らにいたユーノは思う。王という形容は似合いすぎるのではないだろうか、と。ただ一人彼女が武装局員に訓練を施している様を目撃したことのある彼ならではの感想だった。
 「…………それにしても、結構な大所帯よね。こんなに大勢で挑む任務って、初めてじゃあないかしら」
 ふと、待機していた武装局員を眺めていたシャマルが口を開いた。皆が視線で周囲を見れば、確かにこのホールの中には自身らを含めて百人程度の人員が転送に備え待機していた。
 考えてみれば、今までにこれだけの人員を投入するような任務は体験したことが無かったし、そもそもこうやってなのは達やヴォルケンリッターが同じ任務に就くことも極めて珍しいことではあった。
 「まぁでも相手が相手だし、仕方ないんじゃないかな」
 「うーん、確か『銀の暁』だったっけ」
 ユーノの言葉に記憶を探るように考えながらアルフが頷く。だがその回答にヴィータが不満げに口を尖らせ言葉を放った。
 「なー前々から思ってたんだけどよ、何なんだ? その銀の暁って奴等はさ。こんな大人数でやらかさなきゃなんねぇ奴等なのかよ」
 「ヴィータ……お前はブリーフィングでの説明を聞いていなかったのか」
 「き、聞いてたよ! あれだろ、『たじげんはんざいけっしゃ』なんだろ、でもそんだけじゃわけわかんねぇだろ!」
 シグナムの他意ある眼差しと言葉を受けて喚き散らすように激昂するヴィータ。それを見てユーノは慌ててなだめに入る。
 「そ、それはしょうがないよ! みんなには馴染みの薄い組織だからね」
 「ユーノ君は知ってるの?」
 小首を傾げながら尋ねるなのはに、この場での唯一のミッドチルダ出身者であるユーノはうん、と頷きながら答えた。言葉を選びながら、告げる。
 「ええと、銀の暁っていう結社はとても古い組織なんだ。魔法が技術として成立する前の、神秘と伝説で彩られていた時代からある魔法使い達の組織――――それが銀の暁」
 「それは――――随分と古いな」
 シグナムが驚嘆して呟く。その驚きは最もだ、とユーノは考えた。
 ロストロギア『闇の書』が作成された当時でも、融合型デバイスやアームドデバイス、ひいてはカートリッジシステムを開発するだけの技術力が存在する時代だったのだ。それ以前ともなれば、流石のシグナム達としても未知の領域である。
 「ホントかよ、嘘くせーな。そんな長い間、組織が瓦解しないなんてありえねー」
 半信半疑で言うヴィータにユーノは頷き、しかし否定の言葉を放った。
 「うん、その通りだよ。普通の組織ならいつかは崩壊する。だけどその結社にはある意味において普遍的な思想があって、そのせいで今になっても存在し続けていられる」
 彼はその言葉を苦々しげに、吐き捨てるように告げる。それは彼としても忌々しき思想であったからであった。否、正常な魔法技能者であれば絶対に手にしてはいけない考え方。
 それは、即ち。
 「銀の暁の掲げるのは、魔導師は選ばれしものであり――――それ以外のものを支配する権利を持つ、というものなんだ」
 「そ、そんな!?」
 叫んだのはなのはだった。その目には驚きと、そして憤りがある。その怒りの真っ直ぐさを喜ばしいと考えながらも、彼は言葉を続ける。
 「魔法は既に体系化されて、技術として使用されている普遍的なものだ。だけれども、その行使には術者の資質が大きく関わるのもまた事実」
 根本的に、ある程度の魔力がなければ魔法は扱えない。そしてその総量は基本的には天性の資質に左右されていた。
 「世の中には資質的にデバイスなんかの補助がないと魔法が使えない人のほうが大多数だし、そうすると――自身の能力に目が眩んでしまう輩が出てきてしまう」
 それは明確な区切りだった。何の器具の補助も要らず、単体で陸海空を征し、自身より巨大なものすら敵ではなく、多次元世界すら渡ってみせる――――そのような生命体が他の何処にいようか?
 それが行えるのは魔導師のみ。ある意味においてこれほどの超越者はいないだろう。これを選ばれていないと誰がいえようか。故に我らは魔力において劣る人々を導き、管理する権利がある――――。
 「そういう思想のやつらが集まって出来たのが、銀の暁という魔法結社なんだ」
 故に、その思想の普遍性に拠る形で、古来よりその組織は連綿と歴史の闇に蠢いてきのだ。
 「そういう組織の特性上構成員も魔導師が多くなるし、その被害も一般人や、力の弱い人々が受けやすい。だがら、是が非でも彼らを捕らえられる機会を逃したくない――そういう事情があるんだ、今回の動員には」
 説明が終わり、辺りに沈黙が下りる。周囲の武装局員達の喧騒だけが聞こえる中、強い意思を持ってヴィータは言葉を紡いだ。
 「――――成程。合点がいったぜ」
 強く拳を握りこみながら、力の限りの憤りをこめて言う。
 「絶対、叩き潰してやらねぇと」
 その様を見た朱色の騎士は、眩しげに目を細めて小さく笑みを作ると少女の頭に手を置いた。無造作に被った帽子ごとくしゃり、と頭を撫でる。
 「うわ! な、なにすんだよ急に!」
 「いやなに、偶には気が合うものだと思ってな」
 一方、なのははヴィータの言葉に深く頷くとレイジングハートを握りなおしながら言う。
 「ヴィータちゃんの言うとおりだよ。絶対負けられない、私たち」
 少女の決意の宣誓に皆が頷く。と、次の瞬間、劈くような警報音と共に、第一種戦闘態勢を告げるエイミィの声が艦内全域に対して放たれた。視線を上げ、待ちわびたといった表情でシグナムは言う。
 「――――来たか!」
 「――――繰り返す。総員、第一種戦闘態勢。本艦はこれより目標世界に対し次元揚陸を行う。全ての搭乗員は所定の位置に待機し、衝撃に備えよ。繰り返す――――」
 艦橋にて端末を操りながらエイミィが朗々と声を上げる。周囲にて同様に端末を操作するクルー達を上方の艦長席から見下ろすリンディは、鋭く前方に映る対象世界の情報に視線を送りながら、声を張り上げた。
 「次元揚陸準備!」
 「了解、次元揚陸準備!」
 その号令を受け、ブリッジに並ぶクルー達は一斉に声を上げて応じ、作業を開始する。
 「対次元障壁展開、発動機出力上昇」
 「出現予定空間に異常なし、空間座標入力開始。」
 「エーテライズ完了、次元軸同調開始。完全同調まで残り45」
 「全発動機出力安定。全て問題なし」
 次々に手順をこなし、危なげなくクルー達は準備を整えていく。
 既に幾つもの作戦を遂行し、何度も次元移動を繰り返しているアースラスタッフ達にとってはそれが強襲揚陸であっても平時と同じ程度の難度でしかない。彼らは年若くとも百戦錬磨の精鋭であった。
 「同調完了、エーテライズ良し、対次元障壁安定、空間座標入力完了!」
 そして、全てのシークエンスを終えたことを確認したエイミィの報告を受けたリンディは鷹揚に頷くと、一息。宣言するように告げた。
 「――――揚陸開始!」
 或いは、次元世界からアースラを眺めることが出来たならば、その艦影が輝きに包まれたのが確認できただろう。
 次元世界の隔てとは、視覚的に認識できる存在ではなく、また手に触れられるような物理性を持つものではない。
 それを越えるには通常物理域の外側に在る必要があり、それを行うには上方次元の物理域に属する力――例えば、魔力といったものが必要になってくる。
 次元航行艦船であるアースラは艦全体に魔力を通わせることにより通常物質を結霊(エーテライズ)し、擬似的に魔力存在となることで世界を覆う次元障壁と同質の次元に移動、それにより次元障壁を通過することで世界間の移動を可能としていた。

 民明書房刊『週刊 戦艦アースラを作る 第五号』より抜粋


 蒼穹があった。
 無限に広がる空と、見渡す限りの雲海。その青と白を凄まじいエネルギーの奔流が切り裂き、唸りを上げて空間を切り裂く。
 莫大な量の閃光が空を埋め尽くした次の瞬間、巨大な建造物が浮き上がるようにして大きく穴の穿たれた雲海の中心に現れた。
 やがて纏われていた輝きが消え去り、艦影を覆っていた半透明の障壁が失われるのを確認して、彼女は告げた。
 「――――空間座標固定、エーテライズ解除。指定空間への転移の完了を確認しました」
 それだけ言うと、エイミィはふう、と大きく息を吐き出した。幾度と無く経験しているとはいえ、やはり次元揚陸は最高峰の難事である。緊張も一塩と言ったところだ。
 だが、いつまでも気を抜いて入られなかった。即座に目の前の端末より警告音が鳴り響き、モニターには高速でアースラに接近する存在が複数の光点として示されている。
 「敵影を捕捉、距離120、数は6――データベースに適合する存在あり!」
 その敵影の情報を呼び出しながらも、当然のようにエイミィにはその正体は理解できていた。超音速で接近する機影のコードネームを叫ぶ。
 「ガーディアンです!」
 「来ましたね……」
 眉に力をこめながらリンディは呟く。敵は四番艦アンディーンを退かせた強力なロストロギアである。対処をしくじればこの艦ごと沈みかねない。
 「敵拠点の位置は?」
 「不明です! 恐らく強力な隠業結界によって此方の探知を無効化しているのだと思われます」
 「この辺り一帯に存在することは間違いありません。捜索魔法による座標特定急いで!」
 次々に指示を送るリンディに、オペレーターの一人から報告が放たれる。それは今回の作戦の本格的な発動を告げるものでもあった。
 「迎撃班、出撃準備完了しました!」
 真っ直ぐに続く鋼の通路。しかしそれは道などではなく、むしろ砲といった方が適切な存在だった。その中に一人立つ黒の人影――――クロノ・ハラオウンはやれやれといった体で肩をすくめると、ため息と共に言葉を吐いた。
 「やれやれ、まさか生身で電磁誘導カタパルトに立つ日がくるとは」
 言いながら眼前に手をかざせば、瞬くようにして一枚の札が現れる。
 表面に刻まれるその名は『デュランダル』。その名も高き管理局技術部の総力を結集して作り上げられた最新鋭ストレージデバイスである。
 彼は手にしたその札を正面に突き出すように構えると、刹那。閃光と共にその姿が少年の身の丈ほどもあろうかという青白い機杖へと変化した。
 その姿はかつて『闇の書の闇』と対決した折に見せた姿見とは異なり、四基の巨大な筒状の金属を装備している。
 その姿と内部機能に異常が無いことを確認した彼は念話にてブリッジに現状を報告した。
 「こちらクロノ・ハラオウン。準備は完了した」
 『了解、フェイトちゃんの方は?』
 対応したエイミィが声をかければ、一方。別の電磁誘導カタパルトで待機していた少女は片膝を突いてしゃがみこんでいた身を起こして立ち上がり、そして右の手の甲に左の掌を添える。
 同時、放たれた電光と共に現れたるは、黒金の戦斧――――その名をバルディッシュ・アサルト。彼女が一人前と恩師に認められてより此の方、ずっと共に戦い続けてきた彼女の戦友はやはり、その身に四基の鋼の筒を装着している。
 それを一振りして感触を確かめると、少女は頷いて念話を返した。
 「こちらフェイト・T・ハラオウン、問題ありません」
 『オーケイ、じゃあよろしく頼むね二人とも!』
 そう笑顔で労いの言葉をかけると、エイミィの通信は終了する。その様を待ってから、フェイトは彼に念話にて声をかけた。
 『――――クロノ』
 『……なんだ?』
 少女は大きく息を吸い込むと、念話である上で声に出して告げた。
 『がんばろう、一緒に』
 『……ああ。がんばろう、お互いに』
 それはいつに無い、落ち着いた声色だった。
 少年は考える。思い返せば、家族という間柄になる以前にはこうして気安く声を掛け合えていたという事を。お互いを気兼ねなく呼び合えていたという事を。
 少女は思う。考えてみれば、家族という言葉に囚われ、頑なになり過ぎていたかも知れない。相手を想うが余り、過剰に構えすぎていたかもしれない。
 そうだ、こうして心安らかに言葉を送れば、相手はそれに応じ安らいでくれる。それだけが今は重要なのであり、それだけで今は充分だ。
 少年と少女はどちらとも無く微笑を漏らす。この笑顔は相手には見えていないが、きっと伝わっている。そんな気が二人はしていた。
 『カタパルト展開、出撃準備よろし!』
 オペレーターの声が響き渡る。その報を受けて、二人は互いの相棒に声をかける。
 「デュランダル、やるぞ」
 『OK, Boss』
 「いこう、バルディッシュ」
 『Yes, sir.』
 その儀式が終わると同時、カタパルト内部の明かりが切り替わり、周囲が電磁場で満たされた。二人はプロテクションを展開して浮上すると、宣言するように叫んだ。
 「クロノ・ハラオウン、でるぞ!」
 「フェイト・T・ハラオウン、いきます!」
 同時、二人の携える機杖が唸りを上げ、そして同調するように言葉を紡ぐ。
 『『Acceleration Method』』
 ――――直後、大気を劈く衝撃音と共に、次元航行艦アースラより二つの雷光が放たれた。その迸る雷光は、白い軌跡を伴って真っ直ぐに蒼穹を駆ける。
 大空を貫く漆黒と黄金はつがいの鳥のように飛翔し、敵を迎え撃つべく戦場を目指した。
 最早自らに躊躇いなど存在しない――そう謳うかのように。

 風が重い。
 この感覚は高速で機動し戦う魔導師にとって慣れ親しんだ感覚である。自身が動く速度が高まれば高まるほど、その身に掛かる空気の抵抗は大きくなる。
 その身に纏わりつく風をいなし、押し返し、そして切り裂く。魔導師が戦うということはある意味において風と戦うということに他ならない。特に高速戦闘を手札とするフェイトにとって、風とは慣れ親しんだ好敵手のようなものだった。
 だが今正に彼女の痩躯に掛かる風の束縛は今までに体験したそれらを遥かに凌駕する形で彼女を押さえつけようと圧し掛かってきている。その圧力を撥ね退け飛翔するその様はまさしく空を穿つという形容が相応しかった。
 音速の壁を越えて飛ぶ彼女の視線の先に、やがて黒い機影が現れる。その数は全部で六――事前情報に間違いない、機械の鳥を模したガーディアンたちである。
 「バルディッシュ」
 心中で呟く。音速を超えた領域では音声は役に立たず、必然的にデバイスに対する指示は思考トリガーに頼らざるを得ない。だが彼女は己が相棒に絶対的な信頼を置いていた。故に迷う事無く戦いの準備を始める。
 『Delayed Plasma Lancer』
 同時、少女の周囲に雷色の光球が幾つも発生する。その発生と周囲に浮いたまま此方の速度にあわせてついてきている様を見やりながら、彼女はバルディッシュに装着されたレバーを引き絞り、装着された増槽を切り離した。
 これら四基の増槽とそれを接続する機械はいわば大型のカートリッジシステムとも呼べる存在であり、音速を超えて飛行する際に消費される膨大な魔力を肩代わりすることで航続距離を伸ばすために存在するものだった。
 だがいざ戦闘に入ればその大きさと重さは命取りとなるが故、戦闘距離に入る前に切り離す必要があった。視線を巡らせば、傍らで飛行するクロノもデュランダルから増槽を切り離した直後だった。
 後方に落ちていく黒の筒を見送る事無く、クロノは思念にて告げる。
 『無理はするな』
 『うん、クロノもがんばって』
 それは短いやり取りであったが、開戦を告げる戦鐘代わりとしては充分だった。互いを見やる事無く、更に加速する。
 互いに音速、二勢力の間合いはさして間を置かず重なった。
 『ウィザード1、ウィザード2、エンゲージ!』
 エイミィの念話が轟くと同時、敵影の機体上で閃光が瞬き、無数の光弾がフェイト目掛けて嵐のように放たれた。彼女はその掃射に身を捻るようにして回避すると、白い軌跡を描きながら上方へと舞い上がる。
 その攻撃は一撃一撃の威力は大したものではない。だが数多く、またこの超音速での戦闘において被弾したことによる失速は致命的な隙となりえた。
 だがそれは、相手も同じ条件下であるということに他ならない。そう思考して彼女は思考にてトリガーを引く。
 『Photon Lancer』
 バルディッシュが唱えるその名は、かつての愛用の魔法だった。カートリッジシステムにより強化された魔力によって放たれるそれは以前とは比較にならない数と速度を持ってして怒涛の如く放射される。
 威力を犠牲に弾数と速度を向上させたその攻撃はしかし、強引に身を起こして空を切る敵影の機動により回避された。だがそれが元よりの狙いである。
 「プラズマランサー!」
 『Fox-two』
 狙い澄ました一撃が放電と共に発射された。魔力消費を大幅に増加させその全てを追尾性能と速度に費やした、いわば魔力誘導式空対空光槍と呼べるプラズマランサーは回避運動により慣性を殺しきれない敵影に見事に突き刺さる。
 轟、と。聴こえざる爆発の音がその跡形と共に雲海に消えていく。
 その様子を見届けながら、フェイトは次の目標へと意識を向けた。
 視界の端に、光爆が見える。

 クロノの背後、追いすがるように飛翔する敵影より、三つの光弾が放たれる。
 それは親機である機械の鳥よりは小柄ながら、それでも全長を4m近い巨体を誇る鳥型の機動兵器の両翼から放たれた、エネルギーの弾頭だった。それらは追尾軌道を取りながら彼を目掛けて飛んでいく。
 それを認識した少年は心中で忌々しげに舌を打った。
 「全く……マジックミサイルとは古風なことだな!」
 最早士官学校の教本程度でしか目にすることの無い古い魔法を前に、だが彼は油断無く術式を思考する。古代に使われた化石のような魔法であるが、その威力までもが錆付いているということは無い。
 そう並列で思考しながら彼はあろうことか、音速で直進しながらその身をくるりと九十度回転させた。視界内に背後から追走する敵影が見える。それを確かに収めながら、彼は術式を解き放った。
 「スティンガースナイプ!」
 瞬間、五つの光条が音よりも速く迸った。その輝きは正確に三つの弾頭を貫いて爆散させると、返す刀で敵影を襲撃する。
 直撃を受けた巨体が破壊まで行かずとも充分に揺らいだ。それを満足げに確認したクロノは、締めの一手を打つ。
 「スティンガーブレイド!」
 氷結の杖より解き放たれた巨大な光の刃がその相対速度差をもってして迅速に鋼の鳥を切り裂いた。間髪をいれず、剣が諸共に機体を吹き飛ばす。それを確認した瞬間、少年の思考に声が割り込んできた。
 『クロノくん、後ろ!』
 その警告に即座に身を捻る。閃光がクロノのいた空間を薙いだのはその次の瞬間だった。強引に自身を横に滑らせて行けば、上空に確認できるのは長い砲身を構えた機鳥がある。その粒子加速砲の口には、更なる輝きが灯っていた。
 「ちっ!」
 舌打ちをしつつ、クロノは牽制のための光の弾丸を無数に放った。機鳥は回避軌道を取りながらなお砲撃を放つ。
 脇を掠めて眼下の雲海に落ちた閃光が、その場に大きな穴を開ける。その蒸発した雲を眺める余裕すらなく少年は光条と光剣を敵影に向けて放った。
 だがその長砲に似合わぬ機動力を見せて機影は縦軸の動きのみで攻撃を回避する。その脅威の機動性を目の当たりにしたクロノは、口の端を歪めて笑みを作った。
 言う。
 「意外と読みやすい動きだな、古代の守護者」
 刹那、雲海より飛び出すように表れた金と黒の少女がその速度と共に機鳥を正面より断ち割った。
 黄金の軌跡のみが機影に残り、そして――――。
 『Assault Form』
 大鎌の形状から基本形態に戻る鉄の動きと共に、大爆発が巻き起こった。
 どちらともなく、叫ぶ。
 「――――これで、3!」

 「――――凄まじいな、あの相対速度差で斬撃を合わせたのか」
 フェイト達が舞う戦場が映る空間モニター。それを待機室で観戦していたザフィーラは、その一撃の鋭さに驚嘆し呟いた。
 その様に頷きを合わせるように、傍らでモニターを見ていたシグナムが言葉を繋ぐ。
 「うむ、いつにない鋭さだな、彼女の動きは。判断も早く、クロノ執務官殿との連携も密だ。――――強力だな、彼女らは」
 そこまで言って、彼女は笑った。視線を同じく固唾を呑んでモニターを眺めていたなのはに向けて、告げる。
 「これは我らのおせっかいが功を奏したようだ」
 「はい、そうみたいですね」
 お互いに眼差しを合わせて笑みを作る。その様に気付いたヴィータが不審げに二人を問いただす。
 「何だよ、お前らなんかやったのか?」
 「さて、な」
 「ふふ、ひみつなの」
 「なんだよ意地悪するなよー教えろよー!」
 思わせぶりな二人の態度に口を尖らせて怒る少女に、傍らのシャマルが目を輝かせながら遠くを見つめるような表情で告げた。
 「まぁまぁヴィータちゃん、二人の間にもはや言葉はいらない……それだけで充分だと私は思うの」
 「凄い飛躍してますよ、それ……」
 「そうだよー念話で話してるんだろソレ? だったら私にだって出来るよ、使い魔だし!」
 「いや、そういう意味では……」
 シャマルの妄言とアルフの放言にユーノがげんなりと合いの手をいれた。気を取り直してモニターを見れば、後続のガーディアン三機がクロノらと交戦距離に入るところだった。
 誰にともなく、言う。
 「作戦では――そろそろですね」
 その言葉に頷いたシグナムは、視線をモニター越しに映る金と黒の少女に合わせると言葉を放った。
 「そう、ここからが――――本番だ。双方にとってのな」

 全天を把握する機械の知覚が、『それ』に接近する存在を伝え警告する。
 それらは数日前に撃破した鋼の船とは違い、小さく、脆く、しかし鋭く速かった。
 その大空を駆けて我が身に迫る存在を『それ』は知っていた。
 それは、自身が作られし時代より幾星霜の月日が流れても忘れえぬ者達。我が身が本来戦い払うべき存在。
 『それ』は自らが支配下に置く残る二機のしもべ達を操り、迎撃の指示を与える。
 機械である『それ』の身に何かを想う機能は存在しなかったが、しかしてこう想う状況であると『それ』は判断した。
 彼は知る。その想いの名は追憶。かつて幾度と無く相対し、大空を舞い共に踊った仇敵達の名を、彼はこう記憶していた。
 ――――魔導師と。
 故に『それ』は力を欲する。更なる力を、我が身をより戦いに適した形に組みかえるための力を。仇敵たちとダンスを踊るための、相応しい姿を。
 同時、『それ』の威容が大きく歪んだ――――。


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