突然の悲鳴。
「な…なんだ!?」
突然のことに飛び起きるユーノ。
目の前にはこちらを指差したまま震えているはやて。
「どうしたのはやて!何かあったの!?」
駆け寄ろうとするユーノ。
しかし、ベットに手を突いたときの違和感に気づく。
(ん?…このやわらかい感触は?)
ムニュっとユーノの手のひらにやわらかい感触が伝わってくる。
「…んあ?…」
自分の横から聞こえる声に気づくユーノ。
(昨日僕は一人で寝たはずだよね?…)
恐る恐る手の方を見る。
そこにはあどけない顔で眠るヴィータ。
そしてユーノの手はお約束、ヴィータの小さい胸に………
「うひゃぁ!?」
急いで手をどけるユーノ。
その際ベットから落ちるユーノ、頭から仰向けになるように落ちる。
「いてっ!」
その際ベットの掛け布団を巻き込みヴィータもベットから落ちる。
このとき、ヴィータのズボンが脱げているがまだ誰も気づいていない。
「いってぇ…」
ヴィータも起きたようだ。
まだ眠いのか目をこすっている、が自分の主を見つけると。
「………おはよう、はやて………」
驚愕しているのに気づいていないのか、はやてに挨拶するヴィータ。
「ん!あ…あぁ…おはようヴィータ…あぁ!!」
そこで初めてヴィータがズボンを履いていないことに気づく。
「ユーノくん!!これはどういう事やの!!」
今日は朝から大変だな、そうぼんやり思うユーノだった。
結局のところ寝ぼけたヴィータがユーノのベットに潜り込んだだけだった。
「なんや〜、ごめんな〜」
今はユーノの部屋で三人で朝食を食べている。
朝食ははやてが作ったものだ。
「でもユーノくん…何でヴィータはズボン履いてへんかったの?」
顔は笑顔のまま、しかし声に感情が無くそれが逆に怖く感じられる。
「しかもヴィータの………」
はやての箸が悲鳴を上げはじめる。
ヴィータにいたってはフォークでいつでもユーノを刺せるように構えている。
「僕にもわからないよ…」
ユーノの顔にはもはや疲労の色が出ている。
昨日の今日でまた扉の向こうには職員達が非番だと言うのに集まっているようだ。
もはやユーノ淫獣説がいきわたっているころだろう。
「ごめん」
ユーノに出来ることは素直に謝ることだけだった。
「………どないする?ヴィータ………」
はやてはヴィータに答えを求める。
「………ゆるしてやるよ………」
ヴィータはそう呟くと黙々と料理を食べはじめる。
はやてもヴィータが許したことにとりあえず納得したのか、それ以上は何も言わなかった。
数十分後、朝食は片付けられ、はやてとヴィータは帰り支度を始めている。
「それじゃあ、ユーノくんありがとね」
「…ありがと…」
そう言うと二人は手を繋いで部屋を出て行く。
「ふぅ…」
一人になった部屋でユーノはため息をつく。
今日、この後のことを考えるとため息もつきたくなる。
司書としてのユーノは今日は非番だ、しかし結界魔導師としてのユーノに非番はない。
緊急で呼び出されることなどよくある事だった。
(昨日、今日のことみんなになんて言われるか………)
そんなことを考えているうちに眠くなってきた。
もう少しで眠りそう、そんなときに誰かが部屋に入ってくる。
「…ユーノ…」
控えめに声をかけてきたのは、ヴィータだった。
「どうしたの?なにか忘れ物?」
ヴィータは恥ずかしそうにうつむく。
「あの…さ、また来ても良いか?」
日本語教えてもらいに、消えそうな声でそう呟く。
「うん、かまわないよ」
ヴィータは走ってはやての所まで戻ってきた。
ユーノの部屋に忘れ物をした、と言ってまっててもらったのだ。
「ヴィータ、忘れ物みつかった?………?」
ヴィータの顔は真っ赤だった、走ってきたせいもあるだろう。
しかしそれとはまた違う感じの赤さもある。
「ヴィータどないしたの?顔真っ赤やで?」
「なんでもない………」
ヴィータは早足で歩きだす。
(まさか…)
はやての脳裏にある言葉が浮かぶ。
しかし自分の考えを否定する。
一ヵ月後、毎週ユーノが休みの時に日本語を教えてもらうようになった。
三ヶ月後、日本語以外の勉強なども見てもらうようになった。
それまで勉強をしたことの無かったヴィータにとってはじめてのことだった。
四ヵ月後、小学生、なのは達と同じ位の勉強は出来るようになっていた。
五ヵ月後、ユーノとヴィータは二人で出かけるようになっていた。
そんな中、事件がおきる。
「ロストロギアですか?」
ユーノとその日遊びに来ていたヴィータはリンディに呼ばれアースラのブリッジにいた。
「ええ、そうなの、なのはさん達の世界にあるらしいの」
リンディの顔は険しい。
「A級指定物品のきわめて危険性の高い物だ」
クロノが続ける。
「ロストロギア、創夢の絵本、契約者の魔法資質に関係なく契約でき、契約者の精神を蝕みながら契約者の想像をあるていど現実にフィードバックする」
ブリッジのモニターに映像が移しだされる。
そこには本屋などでよく見かける薄い絵本に似たものが映っている。
「しかもこいつには闇の書、夜天の書同様に転生機能がついているんだ」
転生機能、破壊しても転生する。
契約者以外がシステムにアクセスしようとすると持ち主を飲み込んで転生してしまう。
はっきり言って封印のしようがない、が。
「転生機能と言ってもこいつのは不完全で契約者が生きている限りは転生しない」
契約者を抑えてしまえば行動を制限できるのだ。
つまり契約者を監視下に置く必要があるのだが。
「契約者は学校関係者?」
契約者らしき反応が学校で確認されている事。
妨害魔法のせいで詳しくはわからないらしい事がクロノよって説明される。
「…で?結局あたし達にどうしろって?」
痺れをきらせたのかヴィータがクロノに問いかける。
「まさか…」
頭の良いユーノは直ぐに気づく。
「お前の考えているとおりだ、学校に潜入してくれ」
「がんばれユーノ」
ヴィータは口の端を持ち上げるように笑うが…
「あら、ヴィータちゃんも一緒によ?」
リンディの言葉でヴィータの動きが止まる。
「もう手続きは終わってるから」
リンディの満面の笑顔、それはもはや決定している事をあらわしていた。
「ハーイ今日は皆さんに新しいお友達を紹介しまーす」
小学校の先生独特の間の伸びた紹介。
教壇の横には二人の子供。
ユーノとヴィータが立っていた。
教室の中には見知った顔もある。
知っている人と同じ教室になるのはせめてもの救いだった。
「えー今日からみんなと一緒に勉強する八神ヴィータちゃんとそのお兄さんの八神ユーノくんです、それとお姉さんの八神はやてちゃんです。」
なのは、フェイト、アリサ、スズカは驚いている。
当たり前だ、本当は兄弟などではない三人がどうして兄弟にされているかコレには理由があった。
「兄弟として入学!?」
「そうだ、こんな半端な時期に何人も転校してきたら怪しまれるだろう」
しかもそれに乗じてはやても一緒に入学でき、得なのだ。
兄弟ということなら三人でも怪しまれる可能性は低い。
そのための策なのだが…
「はぁ…」
子供らしからぬ深いため息。
そのことが知れたときの職員の会話が気になっているのだ。
『え?ユーノくんヴィータちゃんと兄弟になったの?』
『じゃあユーノくんはやてちゃん達と同棲?』
『プレイボーイだね…』
兄弟なら同じ家でなければ怪しい、ということで今日からはやての家に住むことになっている。
「はぁ…」
結局この日ユーノは一日ため息をついていた。
帰り、なのは達もはやての家に行きたい、という事で一緒に帰っている。
「ユーノくん、今日からうちに住むんよ」
と、はやてが言ったためだ。
なのはは気にせず笑っている、アリサは軽蔑のまなざし、それぞれみなユーノを見ている。
そんな重苦しい視線に耐えようやく八神家についた。
「ただいま〜」
「ただいま」
「おじゃまします」
「「「「おじゃましま〜す」」」」
みなが家に上がろうとしたとき。
「ユーノくん、今日からここが家なんやからただいまやろ?」
とはやてに言われるユーノ。
「で、でもやっぱし…ねぇ?」
「ユーノくん?」
感情の読めない笑顔の重圧、胃に鉛を流し込まれたかの様な心地悪さ。
コレを解決するのに一つしか方法が無いことを彼は知っている。
「………ただいま………」
「おかえり〜」
素直に言うことを聞くことだ。
チョンチョンっと袖を引っ張られる、ヴィータが控えめに引っ張っていた。
「前のこと、シャマルに昨日話してたから、今日は大変だと思うぜ」
と、ヴィータが囁きかけてくる。
前のこと、ヴィータがユーノと一緒に寝てたことだ。
「は、はは…」
もはや乾いた笑いしか出てこないユーノだった。
その時。
「ヴィータちゃん!その淫獣から離れて!!」
「「「「淫獣?」」」」
穴があったら入りたい気分になるユーノだった。