私は、邪魔にならないように厨房を後にして、フロアーに目を移した。
バイトの人は私を一瞥して、横を通り過ぎた。そして、厨房に向かってたくさんの注文を
通した。美由希さんやなのはが次々にとってきた注文を厨房に通す。
奥から、桃子さんや士郎さんの返事が返ってくる。しばらくすると、注文を通した順番で
料理が出てくる。その間にも注文が入ってくるのを間違いなく捌いていく。
すごい…私は魅入っていた。それとともに私に出来るのだろうかという不安に襲われた。
感心してみている私を美由希さんが呼ぶ。
「フェイト。試しに一度注文を運んでみる?」わたしは一度躊躇したけども、
うんと頷いた。じゃあこれお願いねと料理の入ったトレイを渡され、
あそこのテーブルに運んでと場所を指された。歩き出そうとした時、
美由希さんの足に引っかかってこけてしまった。
そのせいで、トレイの中の物を全部ぶちまけてしまった。
「あーあ、しょうがないなあ。お母さん、10番テーブルのお客さんのもう一度用意して」
美由希さんが言うと、桃子さんが奥の方から出てきた。
「どうしたの?…あらあら。」桃子さんが手を差し出してきたので、私は咄嗟に目を閉じた。
「フェイトちゃん、立てる?」私は恥ずかしくなった。
母さんには何かある度に手を上げられていたので、叩かれると思い体が反応してしまっていた。
大丈夫と私は桃子さんの手を取って立ち上がる。そして、ごめんなさいと何回も謝った。
「良いのよ、それくらい。料理なんてまた作れば良いんだから」軽く私の頭を撫でて
厨房に戻っていった。結局、美由希さんが料理を持って行くことになった。
私は落とした料理の片づけをして、料理を運ぶのはまた今度として
今日はお客さんが帰った後の食器を下げるのを手伝うことになった。
夕飯時になって、お客さんも少なくなったところで私達は家に戻ることになった。
「なのは達は先に帰ってて、私はもう少し父さん達の手伝いをするから」と美由希さん。
私はもう一度桃子さんに謝って、なのはと翠屋を後にした。