(さて…と。)
到着と同時に、クロノは通信機でエイミィに呼びかけた。しかし、応答はない。
(やはり、通信妨害か。この距離じゃ、当然念話も不可能だし…)
周囲を見渡すと、巨大な塔のような建物が目に入った。局員達の魔力反応も、
その塔から発せられている。
(あれか…また随分とあからさまだな)
突入するか、それとも一度離れてアースラに帰還するか…
瞬間的な判断を迫られたクロノだったが、彼は迷わずに判断を下した。
(突入だ)
デュランダルを再び起動させ、集中力を高める。
そうだ。スタンドアローンの戦闘は慣れている。リーゼ達も、そのために僕を育ててくれた。状況が悪化する前に、僕が止める。
塔へと向かい、扉に手を掛けようとした瞬間。
「―ッ!!」
小型の魔力弾が、扉を貫いて破壊してクロノに飛んできた。
「へぇ…随分と大物が現れたじゃないか」
銀髪に眼鏡をかけた少年が、広い部屋の壁に寄りかかっていた。
(子供…?いや、同い年くらいか)
爆煙を振り払い、クロノは杖を構えなおした。
「やるね。それだけ高性能の小型防御結界を随時展開させているなんて、流石はクロノ・ハラオウン執務官ってトコかな」
笑みを浮かべながら言う少年の声が、部屋の中で反響する。
「…僕を知っているのか」
「知ってるって言うか…自分で思っているよりも、君はおそらく有名だと思うよ。その年齢で時空管理局執務官なんて、そう簡単になれるものじゃない」
「目的は何だ? 5人を何処へやった? 事情を聞かせてもらえれば、君には弁護の機会が与えられる」
「せっかちだね…」
やれやれ、といった様子で少年は壁から身を離した。
「第一、僕が彼らを『拉致した』って結論づけるには、まだ早いんじゃない?」
「…通信妨害をしてるのにも関わらず、魔力探知のレーダーだけは反応を示していた。普通だったら気付かないはずがない。それで分かったんだ。わざと反応を残して、『誘い込んでる』って」
それに…少年の方へ歩きつつ、クロノは続けた。
「不意打ちを狙ってきた時点で、確定さ」
「ふーん…黒衣の魔導師の評判は間違ってないみたいだね。1人で乗り込んできたのも、ある意味で良い判断かもね。相手に気付かれずに制圧するには、単独潜入が一番良い。但し…」
少年が杖を構える。同時に、魔法陣が展開された。
「相手の力量が自分より遙かに低い場合にね。さっき局員の連中と相手したときは、大分力を抑えてたからさ。目論見が甘かったね!!」
大型の直射砲撃魔法が、クロノに向けて放たれた。