「…あきらめろ。今のキミじゃ、僕には勝てない。後ろには、4人の魔導師もいる」
地面に降り立ったクロノは、少年に向かって静かに言った。
「…言ったでしょ。僕には守るべきものなんてないって。守りたかったものは、
もうとっくに失ってしまってる。降参する必要なんてない!」
頑なにそう叫ぶ少年に、クロノは目線を落として語り始めた。
「…以前、君と同じように、失った『過去』を取り戻すため、ロストロギアを求めた
人がいた。彼女は不世出とまで言われた大魔導師だったが、不幸な事故で愛娘を
亡くしてしまった」
「クロノ…?」
自分の実の母、プレシア・テスタロッサの話を、何故今クロノが切り出したのかが
分からなかった。俯いたクロノの表情は、前髪に隠れて目元がよく見えない。
「…彼女は、もう一人の娘に擬似記憶を植え付け、ロストロギアを集めさせた。
健気で真っ直ぐなその子は、ただ母親のためを思って、犯罪行為に手を染めた。
結果、母親は失敗し、虚数空間へと消…いや、旅立った」
「…だから、僕にもやめておけ、と?」
少年はあざ笑うかの様に言った。
「黙って聞け。…残された娘は今、自分や母親のような悲しい人々を少しでも減らすよう
にと、自らを犠牲にして世界を守っている」
「フェイトちゃん…」
なのはは、フェイトの肩に触れると、優しく微笑んだ。
「うん…ありがとう」
フェイトも、微笑みを返した。