(カンファレンスルーム…あそこか!)
既に一部で火災が発生している建物内の一室に、シグナムが飛び込む。
室内にいたその男は、僅かながら驚いた顔を見せ…体を向けた。
「…おいおい、もう来ちゃったのか? そろそろ本気になってくるだろうと思って、
傀儡兵を持ってきたってのに、こんなに早いんじゃ意味がない」
―長髪の魔導師が、やれやれと苦笑する。
「あいにくだが、貴様の戯言に付き合うつもりはない。
主の手を煩わせるわけにはいかんのでな。戦うか降参するか、早急に決めろ」
レヴァンティンの切先を向け、シグナムが言い放つ。
「凛々しいねえ。君、この前の遺跡の時にもいただろう? 見事な戦いぶりだった。
食事や紅茶なら是非ご一緒願いたいが、今は遠慮させてもらうよ」
そう言うと、再び魔導師はシグナムに背を向けた。
「逃がすか!」『Schlangeform!』
連結刃とかしたレヴァンティンが、その背中に迫る。
―キイィィン!
甲高い音が、室内に響き渡った。
「新手!?」 剣を引き戻し、身構えるシグナム。
「…先生、ここは僕が」
シグナムの攻撃を受けたのは少年、だった。背はクロノよりもやや高いが、
線の細いその体型は、およそ「戦士」という単語には相応しくない。
「すまんな。あとで例のポイントに来てくれ。転位魔法で迎えに行く」
背中からの声に、少年は振りぬかぬまま、はい、と答える。
「逃がさん!」 ギィン!
シグナムが切りかかるも、再び少年が間に飛び込み、それを防ぐ。
(…速い!)
「気をつけろよユウキ。彼女、相当の実力者だ」
「…『アレ』、使ってもいいですか?」
ユウキと呼ばれた少年が静かに尋ねた。
「…やむを得ないだろうな。本当は、ヒトを相手にそれを使わせたくはないんだが…」
「行って下さい、先生」
「すまんな…死ぬなよ、ユウキ」
「待て!」
シグナムの声もむなしく、魔導師は光の中に消えた。
「…すみませんが、相手してもらいますよ。追わせるわけにはいきませんから」
少年は独り言のようにそう呟くと、その細い剣の先をシグナムに向けた。