刹那、シグナムには、「何が」起こったのか理解できなかった。
脳裏にあったのは、『疾い』という一語のみ。
痛みは全く感じなかった。だからこそ、目の前にいる少年に、直ぐに反撃を試みた。
しかし、攻撃を受け止めたはずの愛刀は…いつもの長さの半分にも満たない。
そして次の瞬間―自分の肩口・胸から吹き出す鮮血に、シグナムは意識を失った。
「シグナム…?」
部屋にはやて達が駆けつけたとき、目の前には信じがたい光景が起こっていた。
魔導師ではなく、一人の少年の剣が…シグナムの身体をバリアごと「斬った」のだ。
「シグナム!!」
「くそっ!」 『Schwalbefliegen!』
ヴィータが弾丸を放つ。それを避けると、少年は4人から距離をとった。
ザフィーラとシャマルがシグナムに駆け寄り、瞬時に結界を展開する。
「…傷が深すぎる。わたしだけじゃ、治療は…!」
シャマルが、落ち着かない様子で言う。
「…テメエェェッ!」
「ヴィータ、あかん!!」
目の色を変え、少年に飛びかからんとするヴィータを、はやてが止める。
「…撤退や。もう、魔導師もおらん」
「でもっ!! アイツが!!」
「ヴィータっ!」
躍起になるヴィータに、はやてが涙目で叫ぶ。その声に、ヴィータは武器を収めた。
「撤退ですか…助かりますよ。4対1じゃ、とても敵いそうにないですし」
「…シグナムにもしもの事があったら、わたしらが絶対許さへん。絶対に…!」
転位用の魔法陣の中で、はやて達は少年を鋭く睨み付けた。