―艦船アースラ―
シグナム、敗北―。
クロノから告げられたあまりに衝撃的なニュースに、メンバーは言葉を失った。
「そんな…シグナムさんが…?」
口元に両手をそえ、震えるなのはを、ユーノが支える。
「大丈夫、なんですよね…?」
「今、本局で手術中なの。魔力ダメージよりも、物理的肉体ダメージのほうが酷くて…
楽観的とはいえない、って…」
そう答えるエイミィからも、いつもの軽妙なノリはすっかり消えてしまっている。
「…戦闘の映像が残っていた。音声は入ってないが…見るかい?」
クロノの問いかけに、なのは達は恐る恐る頷いた。エイミィ、とクロノが促す。
映像は、魔導師が逃げる直前の場面から流れ始めた。
何事か言葉を交わし、シグナムが仕掛けたところで…現れる、もう一人の少年。
「まさか、このヒトが…?」
「ああ。…信じ難いが、僕と同い年くらいのこの少年だ」
単独犯、と睨んでいたクロノも、流石に驚いたらしかった。
「でも、シグナムさんの方が、ずっと押してるのに…?」
「…ここからだよ」
不思議そうに画面を見つめるユーノに、クロノが真剣な表情で告げる。
少年が剣を収め、魔力を集め始めた。
数秒後、正に「目にも留まらぬ速さ」で少年がシグナムに近づき―
―彼女のバリアを、そして剣を、シグナムの身体ごと斬り裂いた。
「…っ!!」
鮮血に、思わず目を背けるなのはとユーノ。
駆け寄ったはやて達が転位魔法で逃げると、少年も画面から消えた。
クロノが、そこで映像を止める。
「…収めた剣に極限まで魔力を圧縮させ、最高の速度で接近して、斬る。
このスピードじゃ、回避どころか防御も不可能だ。単純だが、実に理にかなってる」
「クロノ君」
エイミィが、クロノをたしなめる。
彼女が目で合図した先には…無言のまま立ち尽くす、フェイトの姿が。
「す、すまない、フェイト。…軽率な言葉だった」
「ううん、気にしないで、クロノ」
そういって手を振るフェイトだったが…彼女が一番ショックを受けているのは、
誰の目にも明らかだった。友であり、最高の好敵手でもあるシグナムの…崩れる姿。
フェイトは踵を返すと、バルディッシュを手にドアのほうに向かっていく。
「フェイト! どうする気だ!?」
その腕を取って、引き止めるクロノ。
「…現場に行きます。もしかしたら、なにか痕跡が残ってるかもしれない」
「担当の局員が、もう十分に調べたんだ。君が行ったところで、どうしようもない」
「でも!」
「落ち着け!」
クロノが、強引にフェイトを振り向かせる。力なくうなだれる彼女の目には…涙。
「フェイト…」 「フェイトちゃん…」
「…今、僕らにできることをやろう。彼女が、戻ってきたときのために」
執務官として、そして兄として話すクロノの胸に、フェイトが抱きつく。
「…お兄ちゃん…シグナム、帰ってくるよね…?」
小さく、嗚咽が漏れた。大丈夫、などという気休めを言う代わりに…
フェイトを抱きしめると、クロノは決意の眼差しで、なのは達を見渡した。