「でもさ、わざわざ剣を鞘に収めてからもう一回抜いて切るなんて、
なんかムダじゃない? 技のスピードとか、落ちちゃうと思うんだけど」
アルフが、素朴な疑問を口にする。
彼女にもたれるように座っているフェイトも、大分落ち着いたようだった。
「やっぱり、魔力圧縮の補助じゃないのかな。実際に集めやすくなるし、
『〜の中』って、イメージもしやすくなるから」
「剣を抜く時間を犠牲にしても、チャージタイムの高速化を計ったってところか」
「…ちがう。あれは、『居合い』…」
再び対策を議論する中、なのはが口を開いた。
「イアイ?」
「知ってるの、なのは?」
一同の視線が、なのはに集中する。
「う、うん。あの武器も、『刀』っていう、わたしの世界の、わたしの国の武器。
『居合い』っていうのは、刀を鞘に収めた状態から攻撃を繰り出して、もう一度
鞘に収めるまでの、一連の流れ」
「…成る程。剣を抜く動作も、技の内ってことか。ますます厄介だな。
エイミィ、本局に連絡。なのはの世界、特に彼女の国を中心に、検索の絞込みを」
「了解」
エイミィが、軽快にキーボードをたたく。
「でも、変じゃないかな。その『居合い』って技以外の攻撃は、見ててかなり粗末だし…」
「相手を油断させるため、とか?」
「今にも、相手の仲間が来るかもしれないのに?」
「そっかぁ。う〜ん…」
ユーノとアルフがやり取りを交わす。そこへ、クロノが割り込んだ。
「…おそらく、防御や他の要素を捨てて、徹底的にこの技を鍛えてきたんだろう。
こと1対1における、戦闘のプロフェッショナルだ」
「万能型のクロノ君、こういうタイプって苦手だもんね〜」
そういって苦笑いするエイミィを、クロノが軽く小突いた。
―同時刻、ミッドチルダ某所―
キイィィンという音と共に、少年の前に展開された魔法陣。
「…おかえりなさい、先生」
読んでいた本を閉じると、少年は魔導師に言った。
「ご苦労さまだったな、ユウキ。今頃、管理局の連中は驚いてるだろ。
単独犯のハズが、思わぬ伏兵の登場ってね」
ソファに腰掛けながら、魔導師は機嫌よさそうに笑った。
「どうだった、あの美人の女剣士さんは?」
「…強かったです、凄く。あこがれます」
「そうか。だが、君はそれを退けた。それは、君が『強い』ことの証明にはならないのか?」
「…僕のは、ただの『力』です。不器用で、一つのことしかできない。
先生やあの人は、何ていうか…自分の『思い』を貫き通すための『強さ』を持ってる。
僕とは、全然違います」
刀を手に取りながら、彼は自虐的に呟いた。
「…君は、『強さ』の本質が何であるかを知ってる。強くなるさ、君も。間違いなくね」
「…はい、ありがとうございます。先生」
少年は、少しだけ表情を緩ませた。