「信じられない…あれほどの傷を、この短期間で…?」
騎士甲冑を纏ったシグナムの姿に、少年は驚きを隠せない。
「…我、守護騎士ヴォルケンリッター。守るべきもの、
そして『守りたい』ものの為ならば…この剣、何度でも手に取ろう」
シグナムが、静かに剣を構える。
「…そうですか。どういうトリックを使ったか知らないけど、吹っ切れましたよ。
今度こそ、貴方を斬る。もう…迷わない!」
少年が、刀に手をかけた。と同時に、その姿が残像に変わる。
『小手先の攻撃じゃ、貴方には勝てない…最初から、全力でいきます!』
少年の言葉が、シグナムの周囲全方位から響く。
薄暗い室内で、少年が刀に圧縮する魔力の光が、流星の様に室内を飛び交う。
その光の中、シグナムは…
(動かない…いや、動けないのか…?)
剣を構えたまま、微動だにしない。
(それなら…これで決める!)
シグナムの斜め後方。少年の刀が、鞘を走った。
―ヒュン!
「な!?」
風切り音が室内に響く。シグナムの身体には…脇腹に、僅かな傷があるのみ。
(かわされた!? まさか!)
再び、少年は閃光と共に駆ける。二度目の、一の太刀。
キイィィィン!
―今度はレヴァンティンが、刀を受け止めた。
激しく衝突した二つの魔力に、空気が震え、弾ける。
「くっ!」
衝撃をこらえ、距離をとる少年。一方、シグナムは最初の位置から動いていない。
「一度見ただけなのに…もう、見切ったっていうんですか…!?」
驚きに悔しさを重ねた表情で、少年が問いかける。
「…魔力を圧縮させながらの移動では、どうしても速度が落ちてしまう。
どんなに気配を絶っても、集めた魔力がお前の技の『出処』を教えてくれる。
何より…圧縮と撹乱に気を取られる余り、肝心の飛び込みの速度と、
斬撃の精度が落ちている。それでは、私を捉えることは出来ない。
こちらも同じように、魔力を剣に乗ずれば、捌く事も可能だ」
諭す様な口調でそう話すシグナムに、目を丸くする少年。
「それでも、僕にはこれしかない…! たとえ、敗れるとしても!」
鋭い目で、少年はもう一度、刀を鞘に収めた。