―刹那の邂逅。
一切の小細工なし。最短距離の真正面から、シグナムの懐に飛び込む。
自分の左脇腹をかすめていっただけの矢に、少年は勝利を確信した。
柄を握る手には、無駄な力は全くない。そして鞘を走る刀はいつも以上に軽い。
さながら永遠、とも言えるその停止した時の中。
少年は、真一文字に刀を振りぬいた。
キィイン…!
静寂を破ったその音は、やや無粋な耳障りを伴って、室内に反響する。
―折れた刃が、幾度か地面で弾んだ後…静寂の中に横たわった。
「そんな…武器…破壊…? あの一瞬で、僕じゃなく刀を狙ったなんて…」
彼の間合いそのままの距離に、呆然と立ち尽くす少年。
眼前で、レヴァンティンが剣と鞘に分かれ…シグナムが、それを腰に収める。
「同情は大嫌いだって、言ったはずなんですけどね…」
「こちらも言ったはずだ。『そうではない』」
俯く少年に、シグナムはゆっくりと答えた。
「古き友に言われた…『貫くべき思いがあるなら、消えるべきではない』と。
お前にも、私と同じ騎士としての誇りと思いがある…そう感じた」
「それでも、僕は負けた…僕の全てをかけた一撃だったのに…僕にはもう、何も…」
折れた刀を握り、少年は涙を流した。
「…すまない。うまく言えないのだが…たとえ倒れたとしても、
より強い思いを抱いて立ち上がれば…それは、敗北とはいわないような気がする。
お前の澄んだ太刀筋が、私にそれを教えてくれたのだが…」
顔を背け、言葉を紡ぐシグナム。こういう時、自分の口下手は何とももどかしい。
「もし、よければだが…その剣、より多くの者を守るために振るってくれないか。
愛すべき者達のために戦うのも…その、悪くないぞ」
―これでは、考えていることの半分も伝わらないな…
シグナムは少しだけ自嘲した。それでも、少しでも伝われば、と思った。
かつて、敵であった友が教えてくれた、『思いを伝える』ことの意味と意義。
今度は、自分がそれを。
「…まだ、僕を騎士と呼んでくれるんですね…」
「勿論だ。より速く、より強くなったお前と、もう一度戦いたい。何度でも。
また会おう、騎士ユウキ」
「…………ありがとう…………」
二人の周りに、局員達が近づいてくる。
涙とともに差し出された手を、シグナムは静かに握った。