「………遅い」
空のペットボトルを右手でもてあそびながら、クロノが呟いた。
同時に、ミーティングを『入浴後』としてしまった自分の浅はかさにも呆れる。
彼が通信室に入って既に30分。エイミィの入浴時間は、とうに1時間を越えている。
『まあ、エイミィさんのお風呂は相当長いからね。しょうがないよ』
モニター画面から届く、ユーノの声。彼も、かれこれ10分以上待たされている。
「仕方ない、僕らだけで先に始めよう。君も相当忙しいだろうし、待たせるのも悪い」
『OK、それじゃあ』
画面の向こう側で、ユーノがボタンを操作する。
―映し出されたのは、あの長髪の魔導師。
ようやく判明したその名は、ディノ・ストライン。特Aクラスの捜査対象となった彼は、
既に『DS』という管理局統一の通称でそう呼ばれていた。
「さっき、本局の情報部から連絡があったよ。ミッドチルダの出身で、両親以外の
家族はなし。過去の犯罪歴もない。それ以外には、とりたてて特徴はなかったそうだ」
『シグナムさんが捕まえた剣士から、何か新しい情報は?』
「そちらもゼロだ。あの少年には、名前以外の素性を全く話していなかったらしい。
『知れば、君に迷惑がかかる』と言っていたようだ。…本当にそう考えていたか、
はぐらかしていただけなのかは、何ともいえないが」
『…僕は、本当にそう思ってたんだと思うな…なんとなく、だけど』
「…同感だ。あれだけの力を持っているのに、余りに回りくどいやり方ばかりだ。
何かしらの目的と、強い『意志』があるに違いない」
『前に3人で戦ったとき、あの人に言われたんだ。まったく偽善だ、世界を守ろうとでも?
って…なんか、妙にそれが頭に残っててさ』
「…難しいな。自分達こそが善だ、なんて言うつもりは毛頭ないけど、
少なくとも、貫くべき『意志』は、僕らにもあると思う。たとえ…偽善でも」
『クロノ…』
真剣な顔で語るクロノに、ユーノは口を噤んだ。慌てて、クロノは表情を緩める。
「すまない、気にしないでくれ。…それより、君の方では何か掴めたか?」
『時間はかかったけど、無限書庫になかなか興味深い記録が残ってたよ。
本局のデータベースに、何も残ってなかったのもうなづける』
ピ、とユーノが送ったデータを見て、クロノが驚く。
「これは…!」
『そう。15年近く前、2週間っていうごく短期間ではあるけど…あの魔導師、
時空管理局の外部協力者だったんだ。リーゼさん達みたいな、戦技教官としてね』