静かになった通信室で、送られてきた過去の事件に関する書類に目を通していると。
「お待たせ〜クロノ君! さ、リフレッシュしたところで、始めますか♪」
ドアが開く音に続いて、エイミィの緊張感に欠けた声が聞こえてきた。
「…もう終わったよ。明日、ユーノもこっちに来るそうだ」
いささかトーンの低い声で応じるクロノ。
「あ、ホント? ゴメンね、ついいつもの癖でのんびり入っちゃって」
顔の前に手を置き、謝罪のポーズをとる。
…しかし、彼女のその明るい声は、クロノの神経を逆撫でした。
「のんびり、ね…非常時だってのに、随分と暢気なもんだな」
目を合わせぬまま、クロノは腕を組んで皮肉る。
「…うわ、なんか感じ悪っ」
流石のエイミィも、友人の予期せぬリアクションに態度を変えた。
「確かにあたしが悪いけど、ほかにもうちょっと言い方があるんじゃないの?
いきなりケンカ腰だなんて」
「…そういう問題じゃないだろう。僕は、君の執務官補佐としての自覚が足りないと
言ってるんだ、エイミィ」
「何それ!? 信っじらんない! 一回お風呂が長くなったくらいで、そういう言い方される
なんて、酷すぎると思うんですけど! クロノ執務官」
「君の方こそ、『一回くらい』って言葉が、十分それを表現してるだろ」
「そんなの、言葉のあやってやつじゃない! 男のクセに、細かいことねちねち言ってさ!
第一、普段から他の執務官よりもずっと多く仕事もってきてるのに、こんなときに
いきなり文句言ってくるなんてどーゆーつもりよ!?」
「それが僕の『仕事』だからさ! 文句があるなら、別の執務官についたらどうなんだ!」
「仕事仕事って…バッカみたい! 安っぽい正義感掲げちゃって、ヒーローにでもなった
つもりなわけ!?」
…最早、理論とも感情論ともつかないやりとり。
互いに売り言葉を買っては、次の言葉を売りつける。
不毛なオークションで高まっていくのは、二人の怒りのボルテージのみ。
終いには、引くに引けなくなった二人が、お互いを睨み合うだけの格好になった。
「…もういい。君に話してもムダみたいだ。休ませてもらうよ」
「あっそ! 勝手になさったらどーですか!? クロノ執務官殿!」
フン、と顔を背けるエイミィに、クロノは書類を手に立ち上がって近づく。
「…ユーノから送られてきた過去の事件資料だ。目を通すくらいは出来るだろ」
パン、とプリントの束をテーブルに置き、そのまま部屋を出て行く。
苛立ちを残したまま、廊下を歩くこと数秒。
『クロノ君の………ばかぁ!!!』
ドアの向こうから声が響き、同時に何かがぶつかる音。
恐らくは、渡したばかりのプリントを束ねたものだろう。
(…どっちがだよ!)
ちっ、と舌打ちをすると、クロノは足早に自分の部屋へと向かった。