―翌日、艦船アースラ―
「…」
「…」
ブリッジに沈黙が流れる中、各々が淡々と仕事をこなしている。
(…ね、ねぇ、フェイトちゃん…これって…)
(…わ、わたしにも、よくわからないんだけど、朝からずっと、こんな感じで…
ユーノ、何か知ってる?)
(原因はなんとなく察しがつくけど…現場を見ていない以上、なんとも…)
殺伐とした空気が漂う中で、いつものメンバーは念話でかろうじて意思疎通。
(よぉし、ここは一発アタシが解決したげるとするか!)
(だぁめだよアルフ! 今はそっとしておかないと!)
意気揚々と二人に近づこうとするアルフを、ご主人様が必死に制する。
当の本人達はといえば。
「エイミィ。報告書No.SSC992G0778についてなんだが。本局の情報部に資料閲覧の
申請をしてもらえるか」
背中を向けたまま、クロノがエイミィに声をかけるものの。
「…あいにくですけど、自分の仕事だけで手一杯でして。すいません」
…同じく背中を向けたまま、いつもと全く異なる口調で応じるエイミィ。
「…そうか。もっと優秀だと思っていたが、随分と腕が落ちたみたいだな」
「ええ、おかげさまで。クロノ執務官こそ、『その程度のお仕事』、たまには
ご自分でなさったらどーですか?」
(…こ、怖いよ〜、フェイトちゃ〜ん…)
(とてもじゃないけど、入り込める雰囲気じゃないよ…)
(二人共、僕たちより年上だからね…僕らが何か言ったら、余計こじれちゃうかも…)
(そ、そっか…リンディさ〜ん、どーしましょう?)
すがるような思いで、艦長席を見上げる魔導師達。
視線の先には、困った表情でコーヒーを口にするリンディの姿。
(う〜ん、この二人、時々こうやってケンカするのよねぇ。大抵はウチのクロノが
ふっかけちゃうのよ。困ったものだわ)
ふぅ…と溜め息をつくその表情は、母親としてのそれだった。
(しかも、今回は随分と深刻みたいだわね… 何もこんなときにやらなくても…)
(いいんですか? 放っておいて…)
苦笑いのリンディに、なのはが尋ねる。
(とりあえず、今日のところは様子をみましょう。夜までこのままだったら、
私の方から二人に話をしてみるわ。ゴメンナサイねみんな。気を使わせちゃって)
謝罪するリンディ。3人はいえ、と首を振った。
(でも、こんな時に限って、事件っておこるものなのよね…)
一人そんなことを思いつつ、今度は艦長としての表情で、リンディは溜め息をついた。