―2時間後、艦船『アースラ』―
「みんな、ちょっと集まってもらえるかしら? …緊急事態よ」
ブリッジの扉が開き、リンディが神妙な面持ちで現れた。
「今、本局の方から各艦船の艦長に直接の命令が届いたわ。内容がこれよ」
ピ、とモニターに映された文字に、なのは達の表情が一変した。
「そんな…」
「あんにゃろ… また同じコトしてくるなんて、どーゆーつもりだ…!」
「くそ、信じられない… 管理局の艦船にクラッキングだなんて」
最も悔しそうな顔をしたのは、そう話したクロノだった。
「…1時間程前、ミッドチルダ近くの次元航路を航行中の5番艦に、DSがクラッキング
を仕掛けてきたらしいわ。オペレーター達が対応したんだけど、15分後には艦内シス
テムが完全にダウン。復旧前に、停止中の艦船に転位魔法で直接乗り込んできたそうよ。
乗り込んできたのはDSのほかにもう一人いて、クラッキングはおそらくその人間によ
るものだそうだけれど…正直、私も信じられないわ。闇の書のときのリーゼ達のように、
管理局内部の人間ならともかく、外部から個人でやってのけるなんて、正に特Aクラス
のハッカーだわ」
両腕を組み、リンディが視線を鋭くする。
「それで、本局の方に向かってるっていうのも、ホントなんですか…?」
「ええ、そうみたいよ。このままの速度なら、6時間後に到着するわ」
6時間―余りに短すぎるその時間に、魔導師達は表情を曇らせる。
「…艦長。この命令が実行可能なのは、僕たちアースラ以外に、他に何隻ですか」
静かな声で、クロノが口を開いた。
「…現在位置から考えて、相手の本局到達前に進路に割り込めるのはアースラだけよ。
他の艦は、間に合ってもギリギリ本部直上ってところかしら。本部で整備中の船も、
大至急作業しているようだけど…間に合いそうにないわ」
リンディが辛そうに答える。
「…やるしか、ないって事ですね…」
「クロノ!」「クロノ君!」
皆に名前を呼ばれた若き指揮官は…無機質な命令の最後の一文を、じっと見つめていた。
―尚、五番艦の奪還は困難を極めると予想される。因って艦長には、
各館搭載の『アルカンシェル』の発射を許可する―