―同時刻、5番艦『フェンリル』―
「いやはや、見事な腕ですねぇ。見たところ、相当な防壁が用意されていたみたいですが」
ブリッジに、魔導師の落ち着いた声が反響する。
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
彼の前、通信士の席に座る女性は、キーボードを叩きながら答えた。
「といいますと?」
「こういう仕事やってると、クライアントの殆どは仕事の『結果』だけで判断しちゃう
のよね。『過程』がどんなに大変だったかなんて関係ナシ。反対にコッチにしてみれば
楽勝な仕事だったのに、バカみたいに褒められたりとかもするのよ」
「成る程、そういうことですか」
彼はふふ、と小さく笑った。
「それにしても、管理局もマヌケね。奪われた艦船にまで、奪還命令送信するなんて」
「…私たちへの警告を兼ねてるつもりなのさ。『降伏しろ、さもなくば』ってね」
不意に、魔導師は声色を低くする。表情も、心なしか真剣味を増したようだった。
「だが、確かに思慮不足かな。『管理局の艦船をジャックする』なんて馬鹿げたことを、
二度も仕掛けてくるような奴が、自分の命を惜しいと考えるとでも思ったのかねえ?」
複雑な笑みを浮かべながら、彼は言葉を続ける。
「それで、対策の方は大丈夫なんですか? せっかく乗り込んだのに、『アルカンシェル』
でいきなり蒸発なんてのは、ちょっと勘弁してほしいんですが」
「問題ないわ。今、新しく防壁ユニットを組み上げるついでに、発射プログラムも把握
したつもり。相手の艦が追ってきても、発射シークエンスの間に割り込み可能よ」
得意げな表情で、女性が振り返った。
「頼りになりますね。お礼を言わせてもらいますよ」
「そんなのは要らないわ。これが私のビジネスだし、貴方のように命を賭けるつもりも
毛頭ないから」
「…失礼ですが、世の中にはお金で手に入らないものも、あると思いますよ」
「知ってるわ、そんな事。ただ、買えるものの方がちょっとだけ多いのよ」
「クス…これはまた、一本取られたかな」
相手の冷めたコメントに、彼は苦笑した。
―同じく、8番艦『アースラ』―
「そんな…だって、その船には、他の管理局の人たちが乗ってるんでしょ!?」
なのはが悲しげに叫ぶ。フェイトとアルフが、それに賛同した。
「クロノ…私も、反対だよ…合流までには、まだ3時間くらいあるんでしょ? それまで、
みんなで一緒に考えれば、きっといい案が…」
「そーだぞ! アタシらはいっつも、そーやって乗り切ってきたじゃんか!」
「…」
彼女達の言葉にも、クロノは俯いたまま答えない。
「いいの、クロノ…? 君が、その…」
ユーノが辛そうに話しかける。全てを話さずとも、その意図は容易に伝わった。
今の状況は…他ならぬ、『あの場面』に酷似したものだ。
12年の歳月を超え、今度は彼と彼の母親が、逆の立場に回る…
こんな皮肉なことが、あっていいのか? ブリッジにいた誰もが、その思いを抱いていた。