「…僕だって、分かってるさ。でも、今やらなきゃ…本局が『アルカンシェル』で沈む
かもしれない。そうなったら、世界は…!」
ミシ… 俯いたクロノが拳を握る音が、彼の本心を物語る。
「………で、でも、まだ何か、方法が…」
「…高速航行してる上に、転送ポートにもジャミングが掛けられてるだろう。転位して
乗り込むのは不可能だ。ましてや、今更、説得に応じるはずもない。こちらが躊躇えば、
逆に向こうの『アルカンシェル』の餌食になるんだぞっ…!」
なのはの細い声にも、クロノは頑として譲らなかった。
「…ほんとに、そうなの…? それしかないの、クロノ…?」
なのはの肩に手を添えながら、今度はフェイトが問いかける。
彼女の静かな声は、感情的になっている今のクロノには、逆に響いたようだった。
「………ああ、そうだ。それが考えうる限り、最も確実な」
「ちょっと待って」
クロノの声を遮ったのは… それまで沈黙を続けていた、エイミィだった。
「エイミィさん…」
「さっきから聞いてれば、何言ってるのよクロノ君。クロノ君程の状況判断力があれば、
もう一つの方法に、気付いてないワケないでしょ」
椅子に座ったまま、クロノの背中に向けて話すエイミィ。
「ホントですか、エイミィさん!」
なのは達の声が明るくなる。一方、クロノは表情を硬くしたままだ。
「もっちろん♪ ほらクロノ君、ちゃんと説明してあげなよ」
エイミィが笑顔で話を振ると、クロノはようやくそれを口にした。
「一言で言い切るなら…向こうと同じことをすればいい。そういうことだ」
「…あ、そっか!」
ユーノが納得した、とばかりに手を叩く。
「そーいうコト。相手の艦船にあたしがハッキング仕掛けて、システムを掌握できれば
こっちのもの。停止させれば、アルカンシェルも発射できなくなるし、逆に乗り込む
ことだってできる。その間に増援もくるだろうし、上手くいけば、これが最良の策でしょ?」
エイミィの笑顔と明るい声が、場の緊張感を解いた。
「さっすがエイミィ! もー、こんな簡単なことに気付かないなんて、クロノらしくないぞ」
アルフが、ぽんぽんとクロノの肩を叩く。
「それじゃあ、早速やりましょうよ」
「うーん、流石にそれはちょっと無理。次元航路内だから、もうちょっと近づいて
からじゃないと。私も、防壁破りのウイルスとか組み上げなきゃならないから、決行は
丁度合流する辺りかな。…だからさ、なのはちゃん達はここで降りてもらえるかな?」
え? と目を丸くする一同。
「今回は通信関連のあたしの専門。超優秀な魔導師たちをキケンに巻き込むってなると、
ちょっとプレッシャーになっちゃうからさ。だから、ゴメンね?」
謝罪のポーズをとり、いつもと同じ明るい声でエイミィが話す。
「…そういう、ことなら…」
互いに顔を見合わせながら、なのは達は頷いた。
「オッケー、あとはおねーさんに任せなさい! それじゃ、あたしは自分の部屋で
準備があるから、みんなは先に降りててね。明日、任務終了後に会いましょ♪」
やや早口でテンポよく言葉を並べると、エイミィはブリッジを後にした。
そして、後に残されたなのは達に向け、クロノがゆっくりと呟く。
「…少し、席を外す。みんなは、転送ポートで降りてくれ。僕は、少ししてから合流する。
艦長、すみませんが…彼女達の誘導をお願いします」
「…分かったわ。但し、艦長として当然、私も艦に残るわよ。いいわね、クロノ執務官?」
「…分かりました。それでは」
一人、最後まで表情を変えることのないまま…クロノも、ブリッジの外に消えた。