その無機質な音は、彼らの気まずさを象徴するかのように、無言の二人の間に響いた。
いつしか、繰り返されるその音の周期が短くなっていき…
ついに、エイミィの手が止まった。
「…あはは…クロノ君、やっぱりあたし…ちょっと、ダメかも」
俯き、それでもやはり振り返ることなく、エイミィが呟いた。
エイミィ、とクロノが呼びかけようとする前に、彼女が言葉を続ける。
「落ち着けって言い聞かせてるんだけど…さっきから、なんか頭の中、メチャクチャに
なっちゃって。手なんか震えちゃったりなんかして、タイプミスばっかりだし…
もー、何とも情けない限りですよ」
平静を装う口調は、震える声色と重なって、クロノの胸へと直接届いた。
「…神様も、随分とイジワルだよね…。あたしなんかの手に、世界の命運みたいなのを
預けちゃうなんて。なのはちゃんとかフェイトちゃんは凄いよ、あんなに小さいのに。
闇の書の時だって、失敗したら大変な事になってたのに、自分達の力を信じて、
全力でそれを乗り越えた。それに比べて、あたしは…
ホント、クロノ君の言った通りだね。全然、自覚が足りなかったよ…」
いつしか、エイミィの声には、小さな嗚咽のようなものが混じっていた。
「エイミィ…」
いつもよりずっと小さく見える彼女の背中に、クロノは恐る恐る手を添える。
―『思いを言葉で伝える事』―
いくつかの事件を通じ、なのは達がその大切さを教えてくれた。
途方もない重圧に、押しつぶされそうになっているエイミィに。
それでも、必死になって困難に向き合おうとしているエイミィに。
今こそ、僕がそれをやらなきゃいけないんだ。
クロノは、意を決して口を開く。
「…僕は…その………お礼を、言いに来たんだ」
「…お礼?」
初めて、エイミィがクロノに振り返った。目からは…涙が溢れている。
「気付いてたと思うけど、今の状況は…父さんの時に、よく似てる」
「うん…」
「小さい頃…あの事件のことを理解できるようになって…思ったんだ。
その、提督や、リーゼ達を恨むような感情は全くなかったけど…
『他に何か、何か方法があったんじゃないか』って…」
「クロノ君…」
「それが今、僕が同じような立場に…管理局の仲間を、撃たなきゃいけなくなって…
でも、君がいてくれたから…僕は他の方法を、選ぶことができる。
いや、今だけじゃないか。小さい頃から、僕は人付き合いがあんまり上手い方じゃ
ないのに、君はいつも、僕に明るく接してくれた。卒業して、執務官になってからも、
本当に、君には世話になりっぱなしなんだ。
だから、その………本当に、ありがとう…エイミィ」
こく、と小さく頭を下げる。自分の言葉が、何だか支離滅裂に感じ、恥ずかしかった。
数秒、沈黙が流れた後。
「クロノ君…!」
クロノの胸に…エイミィが抱きついた。