深呼吸をするエイミィ。斜め後ろに立つクロノが、その肩に手を置く。
「流石に、緊張してきちゃったよ」 苦笑いを見せるエイミィに、
「いい傾向だよ」と彼は笑顔を返した。
「エイミィ、変に聞こえるかもしれないが、『集中しよう』とするな。そこに意識が
向きすぎた時点で、それはもう本当の集中じゃない。自分の中にある緊張感を、
客観的に感じ取るんだ。適度な緊張感と冷静さがあってこそ、最高の集中力が生まれる。
…そう、『窮時にこそ』」
「『冷静さが最大の友』でしょ? OK、任せて」
そして、二人のやり取りを、少し後ろから見つめる魔導師達。
(もう、お兄ちゃんたら。一言『頑張れ』って言ってあげれば、それで十分なのに)
(でも、クロノ君らしいアドバイスだと思うな、とっても)
(うん。エイミィさんも、リラックスできてるみたいだし)
(アタシらは信じるだけさ。絶対大丈夫だってね。そーだろみんな?)
言葉も、頷きも必要ない。思いは一つだった。レーダーに映る二つの艦の座標が、
点滅しながら次第にその距離を縮めていく。
「それじゃ、いくよ………スタート!」
―5番艦、『フェンリル』―
警告音に、女性がキーボードを打ち始める。
「ふーん…撃ってくる気配が全然ないと思ったら、こういう事なのね」
「ウイルスですか?」 魔導師―ディノは、落ち着いた声で尋ねた。
「ええ。複数のウイルスを、ご丁寧に亜種付きで送ってきてるわ」
「大丈夫、と考えても?」 「勿論よ」
全く慌てる素振りを見せず、女性は修正プログラムを構成していく。