「…妙ね」 時間にして数分の後、にわかに女性の手が止まった。
「何か不都合でも?」
「おかしいわ。確かに良く出来たウイルスだけど、私にしてみれば中の上くらい。
駆除されるって分かってて、これだけの数を送ってくるなんて。これじゃまるで…」
そこまで言いかけた所で、女性は表情を変え、別ウィンドウを開く。
「…『時間稼ぎ』、ですね?」
「ええ…なかなか大したもんだわ。駄目元でやってるんじゃなくて、本気で
メインプログラムの書き換えを狙ってる」
女性の言葉に、魔導師は複雑な笑みを浮かべた。
「そうか、それが君達の…」
モニター画面に映る艦の映像を見やり…そして振り切るかのように、再び視線を落とす。
頼みます―厳かに、彼は呟いた。
* * * * *
「!! 気付かれた!」
軽快にキーボードを叩いていたエイミィの表情が変わる。
「私が書き換えたプログラムを、更に上書きして修正してきてる」
「アウトか!?」
「ううん、ギリギリだけど、まだいける…!」
何とか攻勢を維持しようと、必死になるエイミィ。
(何てスピードなの…? ウイルスを駆除しながら、マルチタスクでこっちにも対応して
くるなんて、マジで同じ人間!?)
嫌が応にも押し寄せてくる、焦り。
(でも、トータルだとこっちの方が少し早い。ウイルスにもシステムダウンの機能を
持たせてあるから、向こうもこれが精一杯のはず。ウイルスが全て駆除されるまで
残り数十秒、その間にメインのコントロールを全て書き換えられれば…!
こっからは一つのミスも許されない。集中…集中!)
「エイミィ」
彼女に届いたのは―穏やかな声。
「休暇は…3日でいいか?」
「………1週間!」
エイミィに、笑顔が戻った。