―5番艦、『フェンリル』―
ふぅ…と溜息をつくと、女性は背もたれに身体を預けた。
「ゴメンナサイ、やられたわ。…結構プレッシャーかけたつもりだったんだけど」
「仕方ないさ。また尻尾巻いて逃げるってのは、シャクだがね」
彼の足元に現れる魔法陣。
「報酬は、キャッシュでも?」
「冗談でしょ。貰うわけにはいかないわ」
「構いませんよ。代わりに、いいものを見させてもらった」
肉眼でも確認できるほどに接近しているアースラを見やって、彼は呟く。
「このメール、管理局本局に送ってもらえますか? アースラの連中にはこっちを」
携帯用のデバイスを取り出す魔導師。画面に映る文章に、女性が驚いて顔を上げる。
「これ…死ぬ気?」 「…」
女性の声にも、彼は薄く微笑んだまま答えない。
「…残念ね。せっかく、面白い男に会えたと思ったんだけど。
自分のやってる事を『馬鹿げた事』って言い切りながら、心の中には
信じて疑わぬ信念がある。なかなか出来るもんじゃないわ」
「…誉め言葉として、受け取っておきます」
二人の周囲に、幾つかの魔法陣が展開された。
「彼らが来たようだ。一応、ちゃんとつかまってて下さい。
…長距離転送は、精神的にいまひとつ苦手でね」