―5時間後、ポイントC―
「ヴィータちゃんは?」
「ああ、さっき眠ったところだ。…昼間の事情聴取で、大分疲れたらしい」
「そっか…」
テントの中から出てきたシグナムが、シャマルの隣に座った。
「はい、おべんと。」
「これは…主はやてが?」
「うん。冷めても美味しいようにって、色々考えてくれたみたい」
「有難いな…いただこう」
「…また、考え事?」
「…まあな」
シャマルの問いかけに、シグナムは目線を合わせぬまま答えた。
「はやてちゃんに怒られちゃうわよ。『考えすぎるのは、シグナムの悪い癖やよ』って」
「ふっ…そうだな」
自嘲気味に笑うシグナムに、シャマルは諭すような口調で続ける。
「でも、なんとなく分かるわ。こういう静かな夜って、物思いにふけりたくなるもの」
夜空を見上げるシャマル。彼女たちの頭上には、皮肉なほど美しい星空が広がる。
「…昔は、こうやって夜空の下で眠ることも多かったわよね」
「ああ」
「それが、はやてちゃんがマスターになった日から変わったわ。私たち一人一人に、
暖かくて柔らかいベッドを用意してくれた。かわいいお洋服も、おいしい食事も。
昔の私たちには、信じられないくらい」
「…本当に、感謝している。いや、そのことだけではない。主の為とはいえ、我らは
勝手に事を起こし、多くの者を傷つけた。それ以前にも、数え切れぬ程の者に不幸を
もたらした。主はやては…それらを全て受け入れてくださった」
「シグナム…まだ、あの時自分たちも消えるべきだった、って思ってるの?」
シャマルが、哀しげに問いかける。
「以前ほど、強く思っている訳ではないがな…だが時折、ふと頭をよぎることがある」
「駄目よ。ハラオウン執務官も言ってたじゃない。罪は消えない。罪滅ぼしなんて
言うけど、それは綺麗事なのかもしれない。でも、今と未来を守ることは出来るって」
「…」
「はやてちゃんは、私達がいることを幸せだって言ってくれた。私の幸せには、
シグナム達が必要だって。なら、私達は守らなくちゃ。私達のマスターの幸せと、
この世界を」
「…主にも、多くを背負わせてしまった。幼いヴィータにも、申し訳ない思いでいる」
「ヴィータちゃんは、ああ見えて聡い子よ。闇の書のシステムの欠陥に気付いたのも、
ヴィータちゃんだけだったじゃない。…大丈夫、一緒に背負ってくれるわ。勿論、
私とザフィーラもね」
「…そうか」
瞳を閉じ、シグナムが微笑う。そうよ、とシャマルは微笑みを返した。
「知ってる、リーダー? 『夢』って、本当は眠ってる時に見るものなんだって。
不思議だと思わない? 私たちは、『眠って』いるときには、本当にただ眠っている
だけだった。それなのに、今こうして起きているときに、夢を見ていられる。
温かくて、素敵な夢を」
立ち上がったシャマルが、夜空を見上げて言った。
「…そうだな。本当に、温かい」
お弁当を一口口にすると、シグナムは静かに呟いた。