―艦船『アースラ』司令室―
「…うーん、ユーノ君おしぃ!! もう一押しだったね〜♪」
司令室で一人、ディスプレイを眺めていた(というか凝視していた)エイミィが、
ぷはぁと息を吐き出して言った。ジュースを飲もうと、手をのばす。
「あれ?」
右手が空を切った。あるはずの場所に、コップがない。
振り向くと…そこにはオレンジジュースを持ったクロノの姿が。
「…何 が お し い ん だ ? エイミィ」
「あ、あはは…クロノ君、気配を感じさせずに背中を取るとは…腕をあげたねぇ。
確か、1時間ほど仮眠をとるんじゃなかったっけ?」
「緊張感で寝付けなくてね。それに、最近は休んでばかりだから」
「…腕の調子、どう?」
「問題ない。魔力ダメージに、物理的ダメージも加わってたから、治りが遅かったけど」
そう話すクロノだったが、いつもと同じ手袋をしているため、その手元は見えない。
「ウソばっかり。いくらクロノ君とはいえ、あれだけの怪我をそんなに簡単に治せる
ワケない。それなのに、『後から転送ポートで駆けつける』なんて言っちゃって…」
「…僕が後ろにいることで、みんなの不安が少しでも解消されるなら、
張り子の虎だってなんだってやるさ」
「もう…相変わらず、無理しちゃって」
呆れ顔のエイミィだったが、表情は柔らかかった。
「…ところでだエイミィ。微妙〜に話を逸らそうとしてるね?」
「うぐ」 バレたか、とエイミィは誤魔化し笑いを浮かべる。
「当たり前だ…何年顔をつきあわせてると思ってるんだ。まったく、君ってやつは…」
「はーいはい、お説教はストップ。ちゃーんと反省してます」
「…全っ然その様子が感じられないのは、僕の気のせいか?」
「してるってば。第一、クロノ君だって悪いんだからね!」
「ちょっと待て! 何でそこで僕のせいになる!?」
呆れて笑い出すクロノに、エイミィは少し不機嫌そうに答えた。
「だぁってさぁ…最近ずーっと任務ばっかりだったし、休暇もずっととってないし。
しかもクロノ君は怪我しちゃうし。せっかく哨戒任務でゆっくり出来ると思ったのに、
独自行動で犯人捕らえるって言い出すしさっ」
「そ…それは、すまないと思ってるけど…」
「第一この3日間、クロノ君の報告書とか通常勤務、全部私がやってあげたんだよ。
ちょーっとくらい、感謝してくれてもいいんじゃないの?」
「う…」 いつの間にか、劣勢に立たされるクロノ。
一方のエイミィは、ぐーっと顔を近づけ、ニヤニヤと笑う。勝負アリ。