目の前の状況に、思考停止。
そして3秒後、クロノは急転直下の大パニックに襲われていた。
(こ、これって、やっぱり…いや、まてクロノ。いつものエイミィの冗談の可能性だって
こともある。というかさっき、僕は仮眠をとったじゃないか。だとすればこれは夢だ。
そう、夢。夢だな。夢夢夢。)
「…クロノ君…んー。」
エイミィの静かな声に、再び思考が吹き飛ばされ、唇が引き寄せられる…
「…」「…」
二人の唇が、今にも重なろうという…その瞬間。
パシュ、という乾いた音とともに、明るい声が届いた。
「クロノ、エイミィ、お疲れ様〜♪ 交代に、って…あら」
「か、母さ…じゃなくて艦長!?」
慌てて顔を離すクロノだったが、時すでに遅し。リンディは、自分の世界に入って
しまっていた。
「あなた…クロノも大人になりました。女手一つで育ててきて、優しい子には
なってくれたんだけど、どーにも生真面目すぎるというか、そういう所があって…」
「…艦長」
「でも、良かったわ。エイミィもとってもいい娘だし、心配ないわね」
「…艦長!」
「あ、ゴメンナサイね二人とも。私は部屋に戻るから、ごゆっくり♪」
そそくさと退散しようとするリンディ。ドアの前でもう一度、二人の方に体を向けた。
「…エイミィ。クロノはちょっと難しくて神経質な子だけど、きっと貴方のことを
大切にしてくれるわ。これから、どうぞ宜しくお願いします」
深々とお辞儀をすると、リンディは扉の向こうに消えた。
…そして、その場に取り残され、茫然自失の二人。
「…あ、あははは…どーしよっか、クロノ君?」
「…どーするもこーするもないだろう…今すぐ誤解を解きに行く」
「だよねぇ… 艦長、なんか目元に光るものがあったし」
「…君のせいだぞ、エイミィ」
「はーいはい、ちゃんと責任とってご挨拶に伺いますよ」
「…そういう表現も勘弁してくれ」
クスクス、と笑いながら、エイミィがドアの方に歩き出す。
「あ、そうだクロノ君。さっき、ホントにキスしようとした?」
「そ、それは…」
「あはは♪ 私はいつでも待ってるからね〜♪」
とびきりの笑顔を向けると、エイミィも司令室をあとにした。
はぁ…と大きくため息をつくと、ドサッとイスに腰掛けるクロノ。
(まったく…エイミィには敵わないな)
そう思いつつも、心地良い高鳴りが、胸の中に残っていた。
同時に、奇妙な力が、自分に生まれてくるのを感じる。
まだ痛みの残る手を握り、クロノは真剣な表情になった。
(さあ…そろそろ、仕事の時間だ)