爽やかな笑顔とは真逆、男が口にした単語に、ブリッジにいた全員が凍りついた。
一人、クロノを除いて。
「…残念だな。アースラのアルカンシェルは、ちょうど整備中でね」
その言葉に、ふぅ…と溜め息をつく魔導師。
「クロノ君…嘘をつくときのポイントってのは、『いかにそれが本当らしく聞こえるか』
ではなく、相手にいかに『嘘ではないと思わせるか』だ。機転が利くのは認めるが、
君は随分と正直者のようだね。嘘をつくのに慣れていない。
それとも、君の後ろにいるオペレーターの彼女に聞いたほうがいいかな?」
「何だと…!」
「クロノ! やめなさい!」
リンディの声がクロノを制する。
「これが発射キーです。受け取りなさい」
「…本物、でしょうね?」
投げられたキーを受け取ると、魔導師はリンディを見上げた。
「…撃ってみますか?」 リンディが相手を睨み返す。
「ふ…食えない人だねぇ。まぁいいさ。指示に従わなければどうなるかは、
私の口から言うまでもないようだし」
「クロノ君…」エイミィが小声で囁く。クロノには、答えることができなかった。
(甘かった…僕のミスだ。なぜ、気付かなかった…!)
艦に残っているのが自分一人ならいい。この魔導師もろとも、消えればいいだけだ。
…そう、父さんの様に。
でも今はダメだ。局員の仲間がいる。何より、母さんと…エイミィが。
頼む。奇跡でも運命でも、何だっていいさ。
代償が僕の命ってのは、ちょっと安いかもしれないけど…
皆を…彼女を、守ってくれないか?
クロノが、まだ痛みの残る拳を握り締めたその時。
―ブリッジに、桜色の風が一陣。
「A.C.S.起動! エクセリオンバスター!」
「く!」 バキィン! 受け止める魔導師だったが、突撃の勢いに押しこまれる。
その先には、アースラの転送ポートがあった。
「…エイミィさん!」
「了解!」 瞬時に反応したエイミィがそれを起動させ、2人の姿が消える。
「…艦長!」 「ええ!」
司令室を飛び出すクロノとリンディ。
「クロノ君!」 背中に、エイミィの声が届く。
(成る程ね…「運命」ってヤツも、意外と捨てたもんじゃないってことか)
その声にサムズアップして答えると、クロノは杖を起動させた。