「まったく…まぁだ戦力を隠してたとはね。つくづく、この船の連中には驚かされる」
転送先のトレーニングルームで、魔導師は服のほこりを払いながら笑った。
「なまじ防御力が高くなると、ついバリアで全てを受けようとしてしまう。悪い癖だよ。
よけるってことを忘れちゃうんだ。君たちも、覚えておいたほうがいい」
なのはとユーノを前に、魔導師はまだ余裕たっぷりに言った。
「エクセリオンバスターでも、ほとんどダメージ無し…?」
「大丈夫、とりあえずの目的は達したよ」
トレーニングルーム内部に張られた二重の結界を見て、ユーノが微笑む。
その隣に、クロノが駆けつけた。結界の外には、リンディの姿も。
「二人共、よく来てくれた」「うん!」
頷きあう三人。
「成る程…あの一瞬では、他の世界への強制転送はムリでも、艦内の移動くらいなら
できる。協奏結界を張れば、船を傷つけることなく戦闘も可能。
しかも、これだけの結界を一人で維持できるとは…艦長さんもやるじゃない。
美人なだけじゃなく、魔導師としての腕もたいしたもんだ」
「お世辞は結構。今すぐ武装を解いて、降参しなさい」
「まさか。自由に戦えるようになったのは、こっちも同じなんだ。彼らを倒せば、
結界を破るのはたやすい。状況はまだこっちに有利さ。君もそう思うだろ? クロノ君。
見たところ、優秀な部下を抱えてる半面、苦労も多いんじゃないかい?」
「…あいにくだけど、彼女たちの命令違反は、いい方向にしか働いたことがないんだ。
むしろ歓迎してるくらいさ」
「あはは、成る程! そういう『信頼』の形もあるか。いい指揮官だ」
場の緊張感におよそ相応しくない、魔導師の爽やかな笑い声。
「いや、すまない。しゃべりすぎるのも悪い癖なんだ。分かってはいるんだがね。
…さて、そろそろ始めようか。これ以上のんびり話してたら、
君たちの仲間が戻ってきてしまうからね」
魔導師の足元に、黄色の魔法陣が展開。
相手の強烈な魔力に気圧されそうになりながらも、3人は強く身構えた。