「えっ!?私が授業を」
驚くフェイトに斜丸先生は平然と答える。
「ええ。昨日の授業ではやてちゃんがやってた奴よ。
フェイトちゃんにも早くこの学校に慣れて欲しいから」
職員室に入るなりそんな事を言われた。
「でも、どんな授業をすれば・・・」
不安そうなフェイトに斜丸はにこっと笑って肩をぽんぽんと叩く。
「なんでもいいのよ。自分の趣味でも、主張したいことでも、なんでも。
兎に角、1時間しのげればそれでいいから」
「とりあえず、明日、よろしくー」
「無理です」
その一言で場が凍りつく。
「あははは。実話ね、今度それをやるべき子がたじんこ村に旅行しに
行くんだって。そのことをね、先生、すっかり忘れちゃってて」
てへーと笑いながら話を続ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「それでね。次の列の子に頼んだんだけど、その子も
八墓村に旅行でしょ、それでその次の子に頼んだら・・・・・・」
以後、似たような話がループする。
「と言う事で、みんなにフェイトちゃんのお手伝いをしてあげて欲しいの。
だれかやってくれる人はいない?」
フェイトが黒板の前で立っている。
(こっ、殺したい・・・)
殺気は限りなく、湧いていく。
顔をピクピクさせながらの笑顔は恐い。
そんな中で3人が挙手した。
昼休み。なのはの調子は余り良くなかった。
「なのは、ユーノ、それと、君は・・・」
集まってくれた人を確認する。
「月村すずか。よろしくね、フェイトちゃん」
互いに握手を交わし、互いに笑顔
「フェイト。さっそくだけど、なにを授業するのさ。僕は、フェレットの生態につい
てを講義したけど」
団子を片手にユーノは言うの。
「ユーノ、私、特に趣味が無いんだけど、何にしよう」
「そう言う時には、自分の得意な事でもいいのよ。
フェイトちゃん、何か特技と無いの?」
「・・・あなごくんの、ものまね」
一瞬の沈黙。
「ユーノちゃん。フェイトちゃんの得意な事って、何かな?」
「そう言う事は僕よりなのはの方が詳しいんじゃ無いかな?」
ねっ。となのはの方へ向くと、俯いて、気分を悪そうに
しているなのはがいた。
もっているハンバーガーには一口も食べていない。
「なのは様・・・」
その調子の悪さに、思わず、家の時だけの言い方になってしまう。
「あ、ああ。ごめんね.、ユーノちゃん。・・・ああ、フェイトちゃんの講義内容、だったっけ。
特に思いつかないなら、メダカの観察とかでいいんじゃない?」
「それはこの前B太ちゃんがやったわ」
そうか、と力なく答える。
「・・・・・・・・・」
その姿はフェイトを不安にさせた。
明るく、元気、それで少しイジワル。それが、フェイトの知るなのはだ。
それが、こうも崩れる。
「・・・・・・・・・フェイトちゃんて歩絵夢(ポエム)とか書かない?」
「あははは。そんなこっ恥ずかしいものをフェイトが綴っている訳が、って・・・」
振り向いたユーノは、フェイトの分かり易い驚きを見る。
「何故、ばれた!?」
勘よと笑顔ですずかは答える。
「で、それがどうしたの」
「それを、講義内容にするのはどうかしら」
「そっ、そんな事が講義になるはずが、」
否定しようとしたフェイトにユーノが答える。
「そんな事ないよ。やおいとかアニメとかモチとか、とにかく色んな講義があるんだ。
まあ、全部はやてがやったんだけどね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう、それしか無いのかなぁ?」
話し合いは更に過熱する。その中で、なのはは最後まで顔を俯いていた。
(月村・・・すずか)
なのはの頭に、その名が残留し続けた。
「おやすみ。ユーノ、なのは」
「おやすみー」
「また明日」
がちゃん、と扉が閉まる。
居間にはテレビを見ているユーノとなのはがいる。
あれから、なのはは水以外口にしなかった。
「なあ、ユーノ」
その言葉に、ユーノが顔を向ける。
「あの、月村すずかって奴・・・・・・いたか?」
「えっ?いたかって・・・月村すずかはクラスメイトですよ。
なのは様も必ず一度は顔をあわせているはずです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
その言葉になのははしかめ、考える。
「すずかは何か色っぽいですよね、僕もあんな女の子になりたいなーなんて」
てへへと照れるユーノ。
「お前も十分可愛いよ。そんなに色っぽくなりたいなら、もう少し髪を伸ばしたら?」
「う〜ん。面倒くさいのはいやだなぁ。もっといい方法とか、無いですか?」
「贅沢言うな!水色時代でも見てろ!」
そう言ってなのはは自分の部屋に戻った。
「・・・なのは様」
今立ち去ったのは、明らかに無理矢理だった。
可笑しい。明らかに今日のなのはが可笑しかった。
「あの日、かな?」
にも拘らず、ユーノは的外れな事を思った。
「君は翼で私は天使。
二人で一つのマイハート。ふれちゃあだめよこのココロ。
恋する誰かの秘密の箱。ふれてもいいよ貴方なら。
触れ合う肌の暖かさは天使のココロ。天に咲く花のように、
私と貴方はベッドイン☆☆☆」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「続きまして、私の心の初めてと体のはじ、」
「せ、先生、急に授業がしたくなっちゃったな〜!」
歩絵夢を読むフェイトを斜丸が止める。
あれから結局、フェイトは歩絵夢を読む事となった。
フェイトもヤケになっていたのかも知れない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
自分でも分かる程、フェイトは顔を真っ赤にして、席に戻る。
その中でもなのはの顔色は悪かった。
その頭の中には、矢張り。
(月村・・・すずか・・・)
このワード。
調子を悪くしたまま、一日はあっと言う間に過ぎる。
「なのは。トイレに行ってくるから少し待ってて」
教室に残ったなのはは適当にロッカーに背を預ける。
「ん?」
視線を適当に教室に這わせる。その途中、フェイトの机の中、
手紙らしきものが目に入った。
「ったく、どこにでもいるんだな、レズって」
からかうようにフェイトの机の中から手紙を取り出す。
そこには、
月村すずか
と、書いてあった。
それを見てすぐに封をあける。
「放課後、理科室で待っています・・・・・・・ちょうどいい、奴とは
話たい事が沢山ある」
教室を後にして、理科室に向かう。
理科室に入る。
そこには、夕日を背にしたすずかがいた。
「私はフェイトを呼んだはずなんだが・・・まぁいいや」
「あんた、何者だ?」
疑問をすずかにぶつける。
それににやりと、不気味に笑う。
「!!!」
その笑顔がトリガーだった。頭が割れるような痛みが走る。
脳天にナイフを穿ち、掻き回し、逆さにして、ワインを入れるようなその痛み。
幻想が紅い。いや、紅い幻想か。頭の中にナイフの鉄分が入る、それが、偶然、
記憶だった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
熱い、痛い、紅い、痛い、辛い、以下ループ。
その衝撃になのはの体が倒れる。
そう思った時、誰かが体を支えてくれた。
「フェイトちゃ、」
そう呟いたのに、彼女はいなかった。
ついに頭が壊れたのか、支えてくれたのは
「大丈夫?なのはちゃん」
目の前にいるはずの月村すずかだった。
駄目だった。すずかが二人に見える。
前と後ろ。
その幻想を見比べて、静かに意識を閉じた。
「さーちあうと!愚か者が蔓延るこの町〜ここんとこの俺の職場さ〜♪
ユーノー俺は真面目な天使だから〜誰かが傷ついてしまう前に〜♪
愛と言う名の偶像崇拝主義を、
叩き、つぶぅ〜す♪」
歌いながら、教室の扉を開ける。
そこになのはは居なかった。
「なのは・・・先に帰っちゃったかな?」
その階の教室を一通り見て、なのはがいないのを確認して、帰路についた。
その夜、なのはは昏睡状態で帰ってきた。
つづく