「・・・小学校から転校してきた高町なのはです。みんなと少しでも
早く仲良くなりたいです」
教室に響く明るい声。朝の日差しに負けないぐらいのその笑顔。
それを、
「ちっ・・・気に食わないねぇ」
真っ向から崩しにかかる。
「わっ!や、やめ!髪、ひっぱらないで・・・ぐっ」
騒ぐ小動物の空きっ腹に拳をくれてやる。
耳障りな呻き声は、暫く続いた。
「う・・・ぐすっ・・・・・・・・・な、なんで」
校舎から少し離れた女子トイレに、なのはの膝が地に落ちる。
「おらっ!立てよ、な・の・はちゃ〜ん」
髪をひっぱりなのは自身の足で無理やり立たせる。
暴力に縋るようなその姿に、なのはを囲む5人の少女が笑った。
「おい!両手をあげろ。さっさとあげろよ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
徐に両手をあげる。
「ははははははははははははは!!!!!!!!!!!
こ、こいつ、まだこんなガキっぽいパンツ穿いてるよ」
スカートを捲り、哄笑。
抵抗は無意味と悟った彼女はただ、よく分からない遠くを見た。
「・・・・・・ま、せんこーにちくらなかったらこの程度で済ませてやるからよ」
トイレから立ち去る少女達、その中の一人が振り返りもせず
「あーあ、なのはちゃんは大変だなー。あと4年もこんな事に耐えなきゃなら
ないんだからさぁ」
「はははははははははははは!!!!!ちげぇねぇ、ちげぇねぇ」
耳障りな鳴き声がなのはの耳に残留した。
完全に立ち去ったのを確認しながらも、体制を立て直すのを暫く
躊躇った。まだ、あの、耳障りなものが残っている。
立ち上がったなのはが最初に確認したのは制服の汚れだった。
新品を着た初日でポロポロになっていない事実に安堵する。
次に確認したのは、事の発端。
トイレに来て欲しい→そこに向かう→壁に叩きつけられる
→罵詈雑言→罵詈雑言→罵詈雑言→罵詈雑言→忘却
「分かった・・・わかったわかったわかったわかったわかった
わかったわかったわかったわかったわかったわかった
!!!!!!!!!!!!!
そうだ、私、きっと、何か、悪い事を、しちゃった、んだ」
うん、きっとそう。その言葉は言い聞かせるように何度も口にした。
「あ」
もう直授業だ。初日から遅刻なんて弛んでると思われてしまう。
確かな足取りで教室に向かうなのは。
言い聞かせたはずなのに、なのはは授業中止まらない涙を流した。
「てめーはひろすえか!WASABIじゃねーんだぞ!WASABIじゃ!」
教室の中、なのはの席を5人が囲む。
「はははは!!!そのネタ古過ぎてワカンネーよ」
言いながら、なのはの机を蹴る。
その机ごと、なのはが倒れる。
それを、さっきのように髪を引っ張り立たせる。
「つかみ易く二つに結びやかって。こいつMじゃね?」
「ちっ違」
言う前に後頭部を肘で打たれる。
「なめやがって。なぁ、今度此処に男連中連れてきて、こいつ、まわすか?」
「いいねいいね!こいつ、2桁ぐらいイっちゃうんじゃねぇの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
や、やだやだやだ!!!止めて、お願いします、止めてー!!!」
なのはの太股から、暖かい水が伝う。
「きったねぇ!漏らしやがったぜ、なのはちゃんがよー」
「白い制服がいい迷惑だな」
失禁しながらも涙を流し懇願する、それを。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
なのはを押し倒し、脇腹を蹴る。
「自惚れるな!誰がてめーなんかの為にそんな面倒くさい事をするかよ!!!
身の程を、わきまえろ!!!」
なお強く蹴る。
その絶望の中、思う。誰かが助けてくれる。
誰かが、ヤメロって言って、それで、助かる。
だが。
その思いに呼応しようとする者達は、少なくとも、ただ傍観する
連中の中にはいなかったらしい。
転校から何日目かの夜、なのはは明かりもつけず、一人きりの
寮にいた。
寮には本来、自分以外にもう一人居たらしいのだが、現在は旅行中なんだとか。
(そんな事、どうでもいい)
漆黒の寮、漆黒の部屋、漆黒の角、膝を抱えて、怯えていた。
今の彼女にとっての平穏は、この漆黒だった。
明かりをつけようと思っても、それをすることは無かった。
ここが見つかってはいけない、ここは見つかってはならない。
この平穏が、もし、あの少女達に蹂躙されたとしたら・・・。
それはきっと、彼女の理性が終わる時だ。
漆黒が晴れる。
それは、彼女の暗がりが払拭された、魔法じみた日になった。
つづく