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猫伝 第ニ話

大きな建物の中は塔のような構造になっており、ご主人の家はその一角にあった。
我輩は部屋に連れ込まれると、いきなり水桶の中に放り込まれた。
そして妙な液体をつけてゴシゴシと擦られ、全身が泡まみれになってしまった。
正直言って気持ち悪いのだが……空腹で逃げる気力も湧かない。
にゃっ!? ご主人、何処を触ってるんだにゃ!?

「ほんと可愛いわね。思わず食べちゃいたくなるわ。」

ご主人が嫣然と微笑んだ。
我輩は空腹で肉付きも悪いから、食べても美味しくないと思うが……。
我輩の腹の虫がグーと鳴る。いざとなったら逆にご主人を喰ってみようか……。

「ふぅ。これで大分綺麗になったかしら。」

どうやらゴシゴシはお終いらしい。我輩は水から出されると体を揺さぶって水滴を飛ばした。
周囲を見渡して探す。何か食べ物は無いだろうか……?
それを見て取ったのか、ご主人が金庫の中から肉塊とミルクを取り出してくれた。
我輩はそれに夢中でがっつく。やはり満腹に勝る幸せは無い。たちまち皿は空になった。
そういえば『武士は食わねど高楊枝』とかいう言葉があるらしい。
お侍にだけは為りたくないものである。

「速いわね……。まだ少しあるから、食べる?」

ご主人が金庫から更に肉を出してくれた。我輩はそれを……待てよ? なんで金庫に肉が!?
もしかして新手の冷蔵庫なのかと思ったが、中を覗くと指輪やら装身具やらが入っていた。
よくみると服や鎧まで……。色々なものが雑然と放り込まれている。
一体これは何なのだろうか?
……よもや猫族に伝わる伝説の秘宝『ヨジゲンぽけっと』ではあるまい。

だがご主人はその金庫(?)にも疑問を抱かず、今度は自分の身繕いを始めた。
鏡を見ながら何やら顔に塗りたくってる。見るとご主人の横に白い液体の入った小瓶があった。
ミルク、他にも残ってたのかにゃ?
我輩は腹は膨れたが喉はまだ渇いてる。それを少し頂戴しようと前足を伸ばしてみた。

「こらっ、駄目よ。」

むむ……くれないのか、ケチめ。食べ物を粗末にしてはならぬと習わなかったのだろうか?
顔に塗りつけるなんて言語道断である。
そんなことに使うくらいなら渡してくれても良さそうなものを。

「これは飲み物じゃないわ、乳液よ。
 G&M製薬の[Destiny]って言って、『お肌っゃっゃ』になるって評判なんだから。」

よく解らんが……『miss』しそうな商品名だな。とりあえずそれを聞いて諦めることにした。



「それじゃユキトラ、おやすみ〜。」

ご主人は寝巻きに着替えるとベッドの中に潜り込んだ。我輩はその上に登って体を丸めた。
こうして、ご主人と我輩の最初の一日は終わりを告げ……

「サーチに掛かった!」

ガバッ!
突然、ご主人が跳ね起きたにゃ!

その手にはMADE IN □eと書かれた通信端末が握られている。
冒険者の動向はこれで逐一監視されているらしく、またそれは他人の居場所の把握などにも使えるとの事。
ストーカーに最適。この世界にプライバシーの概念は無いのだろうか。

ご主人は金庫から鎧と斧を取り出して装備し始めた。
そんなに急いで一体何を……。

「ユキトラ、行くよ!」

慌ててその後を追うと、ご主人はチョコボ厩舎へ駆け込んでいく。
我輩は遅れないように、ご主人の借りたチョコボのお尻に跳びついた。

二匹の猫を乗せたチョコボは走り出す。夜の荒野へと……

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小さな妖精の散歩

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