『Mugen 〜夢幻〜』(3)
「どうした、スパイク?せっかくお前の為に用意させたゲームだというのに、随分と浮かない顔をしているではないか」

コントロールできない現実世界の身体と、仮想現実世界の意識体を持て余し、冷たい汗をかいているスパイクに、ビシャスは嘲るような視線を向けながら愉快そうに言った。

スパイクは、自分が現在置かれている状況がどういったものなのか、理論的には全くわからずにいる。
だが、ビシャスの余裕ある態度を見れば、自分が絶対的に不利な立場にある事くらいは、容易に想像がついた。
罠だと薄々勘付いていながら、衝動を押さえる事ができずに、慣れないネットの海へとダイブしてきてしまった自分を、つくづく阿呆だと思う…毎度の事ながら。
スパイクは、自虐的な憤りと、自分を陥れた相手に対する憤りの両方が混在した眼差しを、目の前のビシャスに投げかけた。

「フン、まぁいい。お前が愉しめなくても…その分、俺がじっくりと愉しんでやろう」

スパイクの怒りの眼差しを鼻先で笑い飛ばし、ビシャスはゆっくりとスパイクに近づいてくる。

「寄るんじゃねぇっ!」

スパイクは、殺気を孕んだオッドアイでビシャスを睨み付けながら、低く唸るように叫んだ。
得意のジークンドーで先手を打ち、相手を叩き伏せてやりたい衝動に駆られるが、意に反して身体は全く言う事を聞かない。

「牙を無くした獣、か。無様だな」

スパイクの傍らに歩み寄ったビシャスは、成す術も無くその場に佇む事しかできない相手の顎を掴み、顔を寄せ、殺気にぎらつくオッドアイを、憎々しげに…しかし、この上無く眩しそうに覗き込んだ。

「だというのに、お前のその目は…何故こうも、俺を惹きつけてやまないのか」
「!?」

ビシャスの行動と言葉の裏側に在る意図を咄嗟に感じ取り、スパイクは表情を固くする。
ずっと昔…疑う事も、裏切る事も、何も知らなかったあの頃。
冷えた指先を温めようと、自分の両手を合わせるように肌と肌を重ねた、あの温もりを思い出して。

「は、離っ…、ん…!」

いきなり、唇を奪われる。
流れ行く年月の中で、忘れ始めていた…慣れた柔らかさが、そこには在った。

嫌悪・懐かしさ・怒り・戸惑い・罪悪感…。
様々な感情が、スパイクの中を駆け巡る。
自分ががんじがらめになっている、「過去」という名の鎖に、思い切り引っ張られたような気がした。
そこに居れば、いつかそのまま溶けていきそうな、あの暗闇の中に…二度と戻る事は無いと、戻るまいと誓ったあの頃に、引きずり戻されて行くような気がした。
腹の底から沸き上がって来る、恐怖に似た訳の解らない感情に、自分の心臓を握り潰されているような錯覚に陥る。

「んっ…ん、んっ!」

更に深く口付けられ、ぬめる舌で口腔をなぞられる。
あまりにリアルな、その感触。
最新のバーチャル・リアリティシステムは、スパイクの脳の中に在る記憶を確実に拾い出し、それを意識下に忠実に再現していた。
……成すが侭に、貪られる。
唾液の混ざり合う濡れた音が、蒼い空間の中にやけに響いた。

「っ、はっ…この、野郎…っ」

どれだけの間、そうされていたのか…息苦しさを感じる程、深く長い口付けからようやっと解放されて、スパイクは悪態をつく。

「生涯最後の交わりだ。存分に酔いしれるがいい」

この身を焼き尽くす程、恋焦がれ、求め、憎み続けたこの男に、自分の手で最後の快楽と死を与えてやれる。
途方も無い悦びに、ビシャスは口元を歪ませ、狂った笑みを浮かべた。
その笑みの中に、ビシャスの内に渦を巻く、氷のように冷え切った激情を見たような気がして、スパイクの背筋に冷たいものが走る。

「やめ…っ、ビシャス…っあ!」

抱き寄せられ、首筋に唇が這わされた。
深緑色の髪の毛を、まるで宥めるように慰撫されながら、ビシャスの唇はスパイクの首筋をゆっくりと登る。
やがてそれがスパイクの耳に到達すると、今度は温かく湿った舌で、ねっとりと愛撫される。

「ぅ、あっ」

ぞくり…と、全身がそそけ立った。
相手に対して、愛などと呼べるような感情も、抱かれたいと思うような気持ちも、これっぽっちも持ってはいないというのに。
脳内に在る記憶はそんな事はお構い無しで、スパイクの身体を確実に反応させていく。

ビシャスはスパイクの身体を、蒼く揺らめきながら鈍い光を湛える床に、横たえた。
与えられる愛撫に、じんわりと熱を帯び始める下肢の高ぶりを恥じ、ぎゅっと両目を閉じたスパイクの瞼に口付けを落とす。
そして、スパイクのジャケットを剥ぎ取り、クリーム色をした安っぽいシャツのボタンに手を掛けた。

「や、めろっ!」

怒気を孕んだ叫び声の中に、隠しきれぬ艶が見て取れる。
ビシャスは暗い笑みを浮かべながら、心底楽しそうに、シャツのボタンを一つ一つゆっくりと、全て外した。
シャツの胸元に、するりと右手を滑り込ませ、スパイクがよく感じる胸の突起を、指先で掠めてやる。

「っあ!」

びくり、と背を仰け反らせ、その刺激に応えるスパイクの身体。
触れた突起がキュッと固さを持ったのが、ビシャスの指先に伝わる。
ビシャスは右手の動きを休める事無く、左手でスパイクのシャツをはだけさせると、もう一方の胸の突起に唇を寄せ、舌を這わせた。

「くぅ、っ…」

口元をきつく結んで、喘ぎを押し殺すスパイク。
しかし、いくら声を殺しても、ビシャスの愛撫に合わせて、自分の意思とは関係無く自然と返る反応までは、押さえ込む事はかなわない。
刺激を与えられる度に、ぴくん、ぴくん…と小さく身体が震える。
敏感な反応。声、表情、吐息。
昔と変わらぬスパイクの反応が、何故か殊更扇情的に見えて、ビシャスの情欲をそそった。
ビシャスは一旦愛撫を止め、スパイクのスラックスに両手をかけて、下着と一緒に引き摺り下ろす。
あらわになったスパイクのそこは、既に熱を孕んで固く勃ち上がっていた。

「っ畜生、何しやが…っあ、あっ!」

何の前触れも無く、突然ビシャスの手の中に自身を包み込まれて、スパイクの腰が跳ね上がった。
途端に、先端の割れ目から透明な愛液がトロトロと溢れてくる。
ビシャスは、スパイクが一番感じる力加減で、そこを扱いてやった。

「は、あっ…はぁ…っ」

くちゅっ、くちゅっと、粘性のある水音と重なる、悩ましい吐息。
いいように嬲られている事に対する悔し涙を浮かべながらも、スパイクは目元を朱に染めている。
ビシャスは薄笑いを浮かべながら、まるで目で犯すかのように、その姿に視線を這わせる。

「ん、んっ…う、あっ…クソ、ッ…ふ、あぁっ」

もう二度と、コイツに抱かれる事なんて無いと思っていたのに。
スパイクは、快楽に飲み込まれそうになる意識の糸を必死で手繰り寄せながら、思い通りにならない身体を呪った。
知った感触が、知られている場所が、憎らしい。

「ジェット…とか言ったか、お前の今のパートナーは?」
「!!??」

突然、相棒の名を口にされて、スパイクは目を見開いた。

「お前の居場所を割り出したり、細工を仕掛ける為に色々と調べさせてもらった。
Bebopという名の船のオーナーで、元ISSPの賞金稼ぎだそうだな」
「何…が、言い、たい…っ!?」

自身に愛撫を与えられながら耳元に囁かれ、思わず悲鳴を上げそうになるのを必死で堪えながら、スパイクは切れ切れに問う。

「警察などという、頭が固い上に胡散臭い人種は好かぬと、言っていただろう?
マフィアより余程タチが悪いと、毛嫌いしていたではないか。
主旨変えか?それとも……よほど良いのか」
「っ!ち、違…っん、んぅっ…」

くくっと喉奥で笑う相手に、スパイクは抗議の声を上げようとしたが、またも唇を塞がれてそれは叶わなかった。

「んぅ、ん!くぅ…んぅっ!」

噛み付くような勢いで口内を貪られ、苦しげに呻くスパイクの口の端から、どちらのものともつかぬ唾液が滴り落ちる。

「どうだ」

つ…と、合わせていた唇を離し、荒い息をついている相手に向かって、ビシャスは言った。

「俺を、その男だと思えば、愉しめるのではないか?」
「な…にを、ふざ…けた、コトをっ…!」

からかうような嘲笑うような口調と、馬鹿らしい提案に、スパイクは強い憤りを覚えてビシャスを睨み付ける。

「今のお前の相棒は、お前をどう可愛がる?」
「いい加減に…っ」
「…こうか?」

ビシャスはスッと頭を下げ、スパイクの濡れた欲望の証へと口を近づけた。

「!!や、やめ…っあ、ああっ!」

そのままそこを、ビシャスの口内に含まれて、スパイクは切ない啼き声を上げる。
ビシャスは、相手の善がる場所を全て知り尽くした動きで、舌を這い回らせ、時折強く吸い上げながら、右手の中指をスパイクの後孔へと、ゆっくり捩じ込んだ。

「う、ああっ…。あ、はぁ…っ」

ゆっくりと解きほぐすように、内壁をなぞるビシャスの指。
スパイクは、ゾクゾクするような快楽の波が、背筋を登ってくるのを感じた。

(いっそ、思いきり乱暴に抱かれた方が、まだマシだ…!!)

心の中で、叫ぶ。
自分を無理矢理犯している、この憎むべき男は、まるで最後の晩餐をゆっくりと噛み締めて味わうかのように、優しく自分を抱く。
慣らされた身体は、否が応にも蕩かされ、快楽の中に引きずり込まれて行く。

「はっ…あ、あっ…ん、くぅ…んっ」

本人の意思とは無関係に、スパイクの身体はビクビクと跳ね上がり、艶めかしい喘ぎ声が唇から溢れ出る。
後孔の中で絶え間無く蠢かされるビシャスの指は、いつの間にか2本、3本と増やされ、確実にそこを解きほぐしていく。

(だ、ダメだっ、出ちまうっ!)

「や、やぁっ…やめろおぉっ!!」

半ば悲鳴に近い声で叫んだスパイクの腰が、ガクガクと痙攣する。
昇り詰め、欲望の証を解き放とうとする、その瞬間を見計らい。
ビシャスはスパイク自身を口から離し、左手でその根元をギュッと強く握り締めた。

「………!!あ…うああぁぁっ!!」

解放の直前で塞き止められた、そのあまりの辛さに、スパイクは仰け反った。
目の端から、意図せずポロポロと涙が零れ落ちる。
行き場の無い、限界まで達した快楽は、もはや苦痛でしか無い。

「良い声だ」

ビシャスは、全身を震わせながら悲鳴を上げたスパイクをうっとりと眺めながら、スパイク自身を強く握る左手はそのままに、後孔に挿れていた右手の指を引き抜いた。
ズボンの前を開け、固く張り詰めて脈を打つ己自身を取り出すと、スパイクの足を大きく開かせる。

「もっと、聞かせてもらうぞ」

柔らかく解きほぐされて桜色に色づき、更なる刺激を待ちわびるようにヒクヒクと蠢くスパイクのそこに、ビシャスは己を当てがい、ゆっくりと沈めていく。

「ふぁっ…あ、あぁーーーっ!!」

解放する事のままならぬ奔流を持て余しているところへ、更なる刺激で貫かれ、スパイクは再び叫び声を上げた。
快楽と苦痛にのたうつスパイクを見て、サディスティックな笑みを浮かべながら、ビシャスは律動を開始する……。


*          *          *          *


エドがビバップ号のメインコンピューターに向かい始めてから、1時間ほどが経過していた。
ソファにぐったりと沈み込んでいるスパイクの左足首を、アインが一生懸命舐めているのに気付いたジェットは、医療用具を薬箱から取り出して、噛み傷の手当てをしていた。
恐らく、ついこの前、ジェット自身がブレイン・ドリームを使用してスクラッチ信者になりかけた時と同じように、アインはスパイクを助けようとしてくれたのだろう。
いつもならエドにピッタリくっ付いて離れないアインだが、今はリビングテーブルの横にお座りをして、心配そうな面持ちでスパイクを見上げている。

「きっと、大丈夫だ」

傷の手当てを終えたジェットは、あまりに不安げなアインの表情を見て無理に笑顔を作り、優しく頭を撫でてやる。
「過去」を振り切る為なのか、「夢」から目覚める為なのか…率先して危険に飛び込んで行き、死線ギリギリで繰り広げられる修羅場を飄々と渡る相棒は、しょっちゅう痛々しい怪我を負いながらも、いつもここへ帰ってきた。
だから、今回だって、きっと。
そう信じていないと、ジェット自身がおかしくなりそうだった。

「…っあ」

不意に、スパイクの口から小さく声が漏れた。

「!スパイクっ?」

ジェットは慌ててスパイクの顔を覗き込む。
バイザーで表情が伺えないのがもどかしい。
固唾を飲んで見守っていると、スパイクは再び、小さく声を漏らした。

「…ビ…シャ、ス…」
「!!」

ジェットの表情が、凍り付く。

以前、レッドドラゴンのマオ・イェンライを捕まえる為に、独り抜け駆けして行ったフェイを、捕らえた男。
刀などという、アナログな武器を腰に携えた、鋭い眼光を持つ銀髪の青年。
そいつの名は、『ビシャス』……フェイからそう聞いた。
スパイクとは旧知の仲らしく、何やら因縁めいた会話をしていたと。

「スパイク、お前…?」

辛そうに、スパイクの息使いが乱れる。
ハッとして、視線をスパイクの下腹部に落とすと、細身のスラックスが、内からの高ぶりに張り詰めているのが見て取れた。

『あの男がスパイクを見る目、ちょっと普通じゃなかったわよ』

全身に包帯を巻き、ソファの上で昏々と眠り続けるスパイクを眺めながら、フェイが口にしたセリフ。

『憎しみに駆られた、酷く冷たい目のように見えたけど、それだけじゃなかったわ。
その奥に、もっと深くて激しいものがあった…。
まるで、可愛さ余って憎さ百倍みたいな。スパイクに恋焦がれて、前後不覚になってるみたいに見えた。
過去に、あの男とスパイクの間に何があったのかは知らないけど、これで終わるとは当然思えないわ。
またいつ、どんなちょっかいを掛けてくるか…』

「畜生っ!!何てこった!!」

ジェットは全てを理解し、勢いよくスパイクを抱き締めた。

「おい、このスットコドッコイ!いいか、よく聞きやがれ!
お前の居場所は、帰る場所はそっちじゃねぇ!
俺の傍に帰って来い、スパイク!俺以外の男の名前なんて、呼ぶんじゃねぇ!
そんな処に沈んでないで、サッサと戻って来やがれ、このバカヤロウがっ!!」


リビングの中の空気を震わせる程の怒鳴り声に、足下のアインがビクッと身体を震わせ、耳を伏せてキュゥンと小さく鳴いた。

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