「ん…ぅ…」
くちゅくちゅと、二人の唾液が混ざり合う濡れた音が部屋に響き、時折スパイクの小さな声がそれに混ざる。
息継ぎをするように幾度か唇を離し、また重ね合わせ…蕩けるような口付けを繰り返し、スパイクはそれだけで身体の芯がじんわりと甘く痺れていくような感覚に陥った。
「は…ぁ」
ようやくお互いに唇を離して、スパイクは潤んだ瞳でジェットを見上げる。
「アンタのキス…すげ、気持ちイイ。嫌な事全部、忘れちまいそうだ…」
「ならもっと、忘れられるようにしてやるよ」
額に、瞼に、頬に、首筋に。
優しいキスの雨を降らされるその感触に、スパイクはうっとりと酔いしれる。
スパイクの背を撫でるジェットの右手が、やがて脇腹や腹筋に這わされ始めると、スパイクは甘い吐息を吐いた。
暖かい…ジェットに触れられる部分が、触れている部分が、全て心地良い。
こんな穏やかな気持ちになれるのは…ジェット、アンタの傍だけだ…。
これが、「居場所」ってヤツなんだな、きっと。
「ジェット…オレを絶対、見失わないでくれ…どんな事があっても…」
「…あぁ。お前は自分の信じた空を、自由に飛べばいいさ。お前が望む限り、俺は何処へだってお前を迎えに行ってやるよ」
「っあ…、嬉し…っん、ジェット…愛してる…ぅ」
左手の義手で、軽く押し潰すように胸の突起を弄びながら、立ち上がりかけた中心を右手で包み込まれて、スパイクの腰が震えた。
ジェットは、強くもなく弱くもない力加減でそこを扱き、時折そっと撫でるように掌を裏側に滑らせたり、奥にある二つの袋を優しく揉みしだいたりして、スパイクに刺激を与えてやる。
「あ、あぁ、っっ…ジェットぉ…」
足に力が入らなくて、ジェットの首に必死でしがみ付く。
与えられる切ない刺激に、冷え切っていたスパイクの体温は、内側からの熱にどんどん上昇してゆく。
頬を桜色に染め、成すがままに快楽を貪るその姿に、ジェットも知らず息が荒ぐ。
「ふ…あぁ…ん、あっ!」
「っ、と」
かくんっ、と、不意にスパイクの膝が力を失って折れ、ジェットは慌てて相手の身体を抱き止める。
「立って…らんねぇ。アンタ、うますぎだ…ぜ」
「そうか?別に普通だと思うが」
腕の中で切れ切れに言われて、ジェットは首を傾げながら、スパイクの身体をベッドに横たえた。
そう言われてみれば、ジェットは経験豊富で遊び慣れているという訳でも無いし、愛撫が他人と比べて特別に卓越しているという訳でも無い。
ただいつも、ひたすら優しく丁寧に、自分を慈しむだけで。
自分の上に覆い被さってくる相手の重みに、この上無い安堵と心地よさを感じながら、スパイクはそう思った。
「っあ!ん…くぅっ」
胸の突起に舌を這わされ、ぞくりと背筋を上ってきた快感に、思わず喉元を反らせる。
そうされながら、固く張り詰めた中心を再び扱かれて、身体がびくびくと跳ね上がった。
(普通…か。なのに何で、こんなに気持ちいいんだろうな…)
快楽でぼおっとしてくる頭の片隅で、ぼんやり考える。
(……やっぱ、『愛』か?)
「あ、あっ…く、くくくくっ…ん、ぅあ…っ、あははははっ!」
「???何だ、どうした???」
喘ぎ声混じりに、突然笑い出したスパイクを、ジェットは顔を上げてキョトンと見た。
コイツが声を上げて笑うなんて、珍しい事もあるもんだ…。
「っくっくっく…いや、悪ィ。気にすんな」
「気にするなったって、気になるだろうが」
ジェットの憮然とした表情に、更に笑いが込み上げてきてしまいそうになるのを、スパイクはかろうじて堪える。
「嬉しいんだよ、アンタに抱かれるのが」
「それで、何で笑うんだ?」
「嬉しいから、笑うんだよ」
スパイクは穏やかに微笑み、まだ納得できずに眉間に皺を寄せているジェットの顔を両手で引き寄せて、深く口付けた。
ジェットの口内に舌を滑り込ませて、相手の舌を絡め取る。
そう。オレは『嬉しい』んだ。
『愛』なんていう、陳腐でストレートなセリフを、自分の頭の中に思い浮かべられる事が。
そして、その相手がアンタだって言う事が。
(そうやってお前は、事ある毎に話をはぐらかそうとする)
スパイクの心の内を思うように覗けない事に、ジェットはもどかしいような苛立つような気分になるが、煽るよう自分の口内を蠢く、スパイクの淫猥な舌使いに根負けして、その感触に意識を委ねた。
熱い吐息混じりに舌を貪り合いながら、ジェットは自分の服を脱ぎ捨てる。
そして、スパイクの下肢に自分の下肢を密着させ、腰を動かしてお互いの脈打つ中心を擦り合わせた。
「あ、あっ、あ、はぁっ」
ぬちゅっ、ぬちゅっと、粘性のある水音がする度に、スパイクの口から切ない啼き声が零れる。
スパイクの張り詰めたそこが、刺激によって更に固さを増してくるのが、擦り合わせるジェットの中心から伝わってくる。
「ん、あっ…ダメだっ、も、ヤメ…ッ、そんなに、したら…」
「イけよ、何度でも」
限界を感じて静止を乞うスパイクに、宥めるようなキスをして、ジェットは更に強く中心を擦り合わせる。
「っあ!あっ、ジェット…っ、ん、あっ、あ…ああぁッッ!!」
スパイクの下肢がガクガクと大きく震え、先端から熱いものが迸って、腹腔に飛び散った。
達する時の、スパイクの恍惚とした扇情的な表情に、思わずジェットも欲望のたけを放ってしまいそうになるのを堪え、解放したばかりでピクピクと痙攣しているスパイク自身へと唇を寄せ、こびり付いている白色の体液をゆっくりと舐め取る。
「……!!」
スパイクの身体が弓なりに反り、萎えかけていた中心は、あっという間に固さを取り戻した。
ジェットは、スパイク自身をそっと口内に含んで、まだ精管の中に残っている体液も、少し強く吸い出すようにして飲み干す。
そして、頭を上下させながら、時折舌先で先端の割れ目を刺激してやる。
「ああっ、ジェ、ット、おッ!!」
スパイクは目の端にうっすらと涙を浮かべながら、喘ぎを漏らした。
一度解放した後で敏感になっているそこを愛撫されると、苦しいくらいの快感が全身に走り抜ける。
ジェットは、スパイクの腹腔に飛び散っている体液を右手に絡め取ると、スパイクの後孔に中指を押し当てて、ゆっくりと埋め込んだ。
「ふあ…っ!ああぁ…!」
ぞくぞくと、下肢から身体中に快楽の波が広がって、スパイクの全身が粟立つ。
一番感じる部分を、指の腹で擦るように刺激されながら、中心を口で愛撫されて、スパイクはあまりの快感に身悶えた。
「あっ、くぅっ…ジェットぉ、も、それイヤだ…アンタの、欲し…っ」
「…大丈夫か?まだあんまり慣らしてねぇが…」
スパイク自身から口を離し、心配そうに問うジェットに、スパイクは小さく微笑んで見せる。
「ん、平気だ…早くアンタと、繋がりたいんだ…」
その言葉にジェットも微笑み返し、スパイクの深緑色の柔らかな前髪をかき上げて、額に優しく口付ける。
そして、スパイクの中から指を引き抜いて膝を開かせ、その場所へと自身を当てがった。
「力抜いて、息吐け…」
「…はぁ……っ」
スパイクが大きく息を吐くのと同時に、ジェットはスパイクの中へとゆっくり己を埋没させた。
「あぁーーっっ…ジェ…ッ…」
ぎっしりと中を埋め尽くす熱に、息が詰まる。
あまりよく解きほぐさなかったそこは、やはり僅かに痛みを伴った。
しかしそれ以上に、自分の中に満ちる相手の存在が、スパイクにとって大きな歓びを与えた。
他の誰も入り込む隙間など無いくらい、自分の中をジェットで全て満たされたかった。
「あっ、あっ、あっ、ああっ!」
内壁を擦り上げるようにスパイクを貫くジェットの熱は、徐々にその律動を早め、打ち込まれる力強さが増されてゆく。
最初に感じた僅かな痛みなど、寄せ来る快感の波にあっという間に押し流され、スパイクの両手が縋るものを探すように、ジェットの背を切なく彷徨った。
「ああっ、ジェットっ…あっ、あ…ジェットぉ…!」
スパイクは、幾度も幾度も相手の名を呼んだ。
まるで、自分の愛する者がそこに居る事を確かめるかのように。
「スパイク…」
その呼び掛けに、ジェットは優しく応え、スパイクの唇に自分の唇を重ねる。
夢中で舌を絡み付かせてくるスパイクの頭を、そっと撫でてやりながら、スパイクの最奥を大きくかき混ぜるように腰を動かす。
「ふあああんっ!!ジェット、やぁ…っ!ダメ…っ、ああぁぁ…っ!!」
「…スパイク…っ!!」
お互いが同時に昂ぶるのが、はっきりと解った。
スパイクの身体がビクビクと痙攣し、先端から白い欲望の証が、幾度にも分けて迸る。
自分を受け入れているスパイクのそこが、きゅうっと強く締め付けてくる感触に、ジェットも思いのたけの全てを中に放つ。
「あ…あぁ…」
「…っく…」
互いの身体を強く抱き締め合いながら、快楽の波に耽溺する。
…
…
…
数秒の沈黙の後、ジェットの背に回っていたスパイクの両腕が、ぱたりとシーツの上に落ちた。
「……スパイク……?」
ジェットは顔を上げて相手を見たが、スパイクは両目を閉じたまま、くたりとして動かない。
どうやら、気を失ってしまったようだ。
「……」
ジェットは穏やかに微笑み、スパイクの鼻先に軽くキスをした。
受け入れていたそこから、ゆっくり自身を引き抜くと、スパイクの眉根が微かに寄せられ、唇から小さく息が零れる。
さっき床の上に置いた、汗を拭いた後のタオルを取り上げて、スパイクの腹腔に飛び散っているものを拭ってやり、これ以上身体が冷えないように毛布をかけてやる。
…ジェットはスパイクの隣に身体を横たわらせて頬杖を付きながら、相手の寝顔を覗き込んだ。
まるで遊び疲れて眠ってしまった子供のように無垢なその表情を眺めながら、静かに想いを巡らせる。
もしも今この時が、お前の見ている『夢』なのだとしたら。
きっと、お前が望めばいつだって、俺はお前の傍に居る。
もし今この時が、俺の見ている『夢』なのだとしたら。
きっと、俺が望めばいつだって、お前は俺の傍に居る。
しかし厄介な事に、これは夢でも幻でも無く、『現実』だ。
望んでも手に入らないものがある。
失いたくないものを失う事もある。
だからこうして、手探りで相手の温もりを探す。
相手がそこに居る事を、しつこいくらいに確かめ合う。
暖かな居場所と、忘れたくない何かを、その身や心に刻み込む為に。
それが、現実を生きてるって事じゃないのか?
「……俺と一緒に、生きろ。スパイク」
相手への深い情と、愛しさに満ちた囁き。
その中に、胸を内を焦がすような痛みの響きが孕まれていた事を、ジェットは自分で聞かぬ振りをした。
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