人の条件
○久
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「は? 今、なんとおっしゃったのです?」
鷹通はあまりにも意外な言葉に、頭が上手く反応しない。
「鷹通は可愛いね。」
「その後です。」
友雅は肩をすくめ、やれやれと呟いた。
「ではもう一度言うよ。泰明の前で、私と契らないか?」
その意味を理解し、鷹通はめまいを覚えた。
ここは友雅の自邸。友雅から連絡を受けた鷹通が部屋へ通されると、すでに先客がいた。
それはとても意外な人物。
稀代の陰陽師、安部晴明の一番弟子である泰明。同じ八葉ではあるが、人との付き合いを嫌う彼は単独行動が多い。きらびやかな席の似合う友雅とは対極の人物であるように見えた。
「ああ、来たね。」
鷹通を迎え入れる友雅の笑顔はいつもの通りだったし、無表情に会釈する泰明の態度もいつもの通りだった。
「急いで来たのだね。息が切れている…。本当に鷹通は可愛いね。」
友雅が鷹通の頬に手を伸ばした。
友雅と鷹通が「そういう関係」になっていることは、誰も知らないはずであったし、また、知られてはならないことだったから、鷹通は驚いて友雅の手を払った。
「やめて下さい。」
鷹通はきつい眼差しで友雅を見つめた。
「いいのだよ。泰明には話した。色々あって、君にも協力して欲しいことがある。
鷹通? 泰明の前で私と契らないか?」