sinfulrelations


tobecontinued




 私達はまたここから始まり、続いてゆく。
 お互いに堕ちたあの日から、
 縺れ合い、つかず離れずの関係を二人止められずにここまで来た。
 純粋に恋人とは呼べない関係……
 体を繋ぐだけの日々を過ごしていた。
 私は青を、青は私を求めていることは嘘偽りもなく確かなことだ。
 今まで愛してると言ってくれたのは抱き合っているその時だけだった。
 でも、今日は、素直なあなたに会える気がするの。
 そう、さっきから何も言わず静かに見つめているあなた。
 切なく優しい眼差しで、私だけを見ている。
 そんなあなたを何も言わずに私も見つめ返すの。
 最後まで保っていた距離を縮める言葉を投げかけるのは
 果たしてどっちなのだろうか。

 とても待ち遠しい瞬間が訪れる。

 華やかな微笑をたたえ、沙矢が俺を見つめていた。
 今まで幾度傷つけて泣かせたのだろうか。
 会った夜の数と同じだけ抱いて、傷をつけた。
 俺の前では泣かなかったことは、彼女のプライドだったに違いない。
 俺に従うだけの女ではなかった。決して。
 言いなりになってされるがままの女だったとしたら、
 すぐに醒めていた。まあ、そういう女がほとんどかもしれないが。

 使い捨てが効く都合のいい女なんてたくさんだ。

 誰にも見せられなかった弱い所もいつしか見せてしまっていて、
 癒されていたのだ、彼女という存在に。
 俺が癒されるほどに彼女は傷を作り泣いたんだろうな。
 謝罪の言葉をいくら並べ立てても足りないくらい、酷いことばかりしていた。
 決して涙を見せない彼女の強さに、惹かれてゆく自分。
 その気持ちを誤魔化すように、身勝手さを
 振りかざし、ぞんざいに扱っていた。
 体以外求めないのに、独占欲だけは人並み以上にあって笑えたものだ。
 結局、何歳上だろうが、俺の方がガキだったのだ。
 受け入れてくれる彼女に甘えていただけで、
 俺が包み込んでいたわけでもない。
 気づいた時、妙におかしくて破顔した。
 柄でもないのに……。
 こんなにも長い間一緒にいたのは、沙矢しかいない。
 抱いた女は多くても深い感情を伴って、
 付き合ったのは彼女以外いないのだ。
 虚しい夜を埋めるだけの存在ではなく、
 居場所となったのは沙矢一人で。
 素直に自分の気持ちを告げようと決意してからというもの、
 彼女が愛しくて仕方がなくなった。
 誤魔化してきた気持ちを抑えられなくなった。
 さあ、曖昧な関係に別れを告げようか。

 紅茶を口に運びながら、沙矢はカップ越しに青を見つめた。
「青……私達、何度同じ夜を過ごしたかしら」
 ぽつりと呟く。
「会った数に比例しているだろうな」
 淡い微笑が融ける。
「そうよね。私達はそうだった」
 淡々と言い、カップに口づける。
 私達は同じ場所をどれだけ長い間迷っていたの?
 気が遠くなるほどの時を彷徨っていたわ。
「沙矢」
「なに?」
 とくんと心臓が跳ね上がった。
 今までにないくらい、優しい声と瞳の青にどきりとする。
 もう出会った頃のような子どもではないのに、頬さえ赤くなってしまう。
「一緒に暮らさないか」
 青の低音が静寂の中に響く。
「え」
 驚いた。
 彼から、放たれた言葉に驚愕した。
 それが答えなのね。
 信じて良いのよね。
 迷いを振り切り、数瞬の後、
「うん」
 そう答えた。

 離れられないことなんてとっくに自覚していたけど、
 彼から別れを切り出されることが怖くて、束縛できなくて、
 保ち続けた一定の距離。むやみに干渉しないことを胸に課していた。
 ようやく立ちはだかっていた鎖がゆるやかに解けて、
 同じ位置に立てた。青に誰よりも近づけたんだ。
 今度は互いを繋ぐ真実の絆を結びたい。
 私は満たされた微笑を浮かべた


 安堵した顔。ひどく無防備で幸せな顔。
 何て綺麗なんだろう。
 これまでに見たこともないほどに……。
 俺がこの表情を潰していた。
 こんなに綺麗に笑える彼女を殺して。
 満開の笑顔なんてちゃんと見たことなかった。
 いや、俺のせいで笑えなかったんだな。
 これからは一人にしないから、もっとその笑顔を見せてくれ。
 笑みを刻んだままに涙を落し始めた沙矢をきつく抱き寄せた。
 気持ちが揺るがないものという証拠。
「青……」
 涙で震える声で名を呼ぶ。
 大切な恋人の名前を。
「沙矢」
 細くしなやかな体を抱きすくめる。

 万感の想いを互いに告げよう。

「お前を愛している……沙矢」
「青、私もあなたを愛してる」
 俺の肩に頬を埋める沙矢の背中を抱く腕に力を込めた。
 二人の瞳に生まれる情熱の欠片。
 恋人としては初めて生まれた想いがそこにあった。
「お前が欲しい」
 あの時の薄っぺらな感情ではない言葉。
 たくさんの想いが一言に集約されている。
「私も貴方が欲しい」
「抱いて……」
 不安が滲んだ声音だったが、主張するために、腕を強く握ってきたのが印象的だ。
 ああ、抱いてやるよ。
 お前が飽きないよういつも新しい悦びを与えてやる。
 俺は彼女の腕を引いて立ち上がる。
 愛しい女を誘い廊下を歩く。
 寝室を目指して。


 ここは彼の部屋だ。
 新たな始まりにふさわしい場所だと思う。
 私の部屋よりも大きくて広いベッドは、黒を貴重とした
 コーディネイト。彼に相応しいなとつくづく思う。
 部屋へと身を滑り込ませると、頭の中に想い出が過ぎる。
 この部屋に来たことは数えるほどだが、
 色んな場所で愛し合ったんだなと感慨深かった。
 痛みだけを連れて来る記憶にならなくて良かったと
 心の底から思う。
 腕を引く青の瞳に偽りの色は見えない。

 すとんとベッドに腰を下ろして向かい合う。
 まっすぐ射抜くこの眼差しが、あの日、一瞬で私をがんじがらめにした。
 忘れられるはずもないあの夜。彼に初めて抱かれた日。
 文字通り初めてだったけれど、気付けば甘すぎる誘惑に堕とされ、
 切ない胸の痛みを感じて目覚めた。
 ずきずきと体の芯の熱が疼く症状の意味など分からず、
 戸惑い、余韻に浸り。
 やがて抱かれた後、毎度のように起きる現象ということに気づいた
 時には、恥ずかしさが込み上げた。
 体の中に熱の証が欲しいという欲望だったのだ。
 もっとあなたで私を満たして欲しいという渇望。

 彼が欲しくて自分から求めたりもした。
 彼を狂わせるくらいの魅力的な女性になる為に
 努力して、お酒を飲んで酔った振りをして誘った。
 本当は酔ってなんてなかったのよ。あなたは知っていた?
 私はあなたを愛しているの。
 もっと激しく抱いて。
 何もかも焼き尽して!
 感情が暴走していった。
 抑えていた物を爆発させることを躊躇わなかった。
 あの時彼が冷めてしまう恐れは既になかった。
 冷めるならとっくに冷めてるはず。
 嫌なら捨てて、私の元を去っていたはず。
 でも、彼は私の所以外どこへもいかなくて
 一定の距離間を保って側にいてくれた。
 だったらもういいじゃない。
 私を全て晒しても受け入れてくれるはず。
 奇妙な自信が胸を染めていた。

 そして真実、赤い月の夜から何かが変わったのだ。
 彼は忙しくても毎日のように電話をくれるようになった。
 クリスマスイヴの夜に約束のかけらをくれて、
 信じてもいいか迷っていたけれどすぐにまた会う約束を交わした。
 まるで夢と見紛う奇跡だね。
 七か月と少し、ジェットコースターのような勢いで
 私をさらった恋が、今日本物になる。

「何を考えている?」
 彼が髪に手を伸ばし梳き始めた。
 綺麗な手の動き、空気に溶ける低音。
 全てが彼なのだ。
 藤城青という人そのもの。
「今日まで色々あったなって」
「濃密な日々がな」
 彼の眼差しに艶が灯る。
 瞬時に心が融かされてゆく。
 彼の動きに合わせてさらさらと髪が揺れる。
「青……」
「黙れ」
 ふいに大きな手が、頬を包み込んで、顎を掴み、
「……ん」
 唇が塞がれて、すぐに熱を持った物がねじ込まれる。
 この激しさが好きだ。
 もたらされる毒が私を制する。
 ドクンドクン。
 自分が発する動悸の音が、聞こえてきた。
 沸き起こる新鮮な気持ち。
 ようやく本当の意味で結ばれるのだ。
   私からも熱を返して、奪い合う。
 びりびりと麻痺してゆく身体。
 与えられる刺激には慣れきっているけれど、
 この痺れる感覚はいつでも共にあって離れたことはない。
 少しずつ身体の力が抜けてゆく。
 ふわりと軽くなる。
 互いの中へ堕ちる。
 高い場所へ行くのではなく、底へ底へと沈むのだ。
 私と青の場合は……。

 びくんと小さく背が跳ねる。
 感じさせて。
 私達は知っている。
 言葉よりも相手に自分を伝える確かな方法を
 出会った時から知っていた。
「あ……」
 ドスン。
 脱がされながら、ベッドへと押し倒された。
 羽織っていた衣服を床に投げ捨て、覆い被さってくる彼。
 ベッドサイドランプのスイッチがオフになる。
 私は彼の肩を掴む。
 大胆に口づけは繰り返される。
 啄ばむだけの軽いものから舌を絡めた濃厚な口づけへ。
 彼は懐かしいあの香りを纏っていた。
 再会の夜、私を酔わせたあのコロンを。
 ふわりと鼻につく香りは煙草の匂いと混じり、私の身体に染みこむ。
 耳朶を噛まれる。
 千切れるかと思うくらいに強すぎる力で。
「……あ……ん」
 と思ったら、対照的な柔らかい仕草で舐められた。
 ざらりとした感触が、火をつける。
 耳朶に触れた指先が円を描く。凄まじい色香だ。
 首筋から、鎖骨へと口づけが移り、紅い痕を刻む。
 吸い上げられ、点々と鬱血は増える。
 彼の色が私を染めていく……。

「大好き……せい」
 自然と口にしていた。
 クスと笑われて、
「……何を今更。そんな言葉で表せるほど
 お互い軽い気持ちじゃないだろう?」
 返された言葉にぞくっとした。
 そうね……。
 行為よりも強く感じさせられ、身体が反応する。
 背中が弧を描き反った。
 ふくらみに両の手と唇で触れられる。
 頂を避けて、外側から中心へと円を描く。
 やんわりと撫でられた後、激しく揉みしだかれる。
 広がる快楽を止めることは出来ない。
 手と同時に、唇で右のふくらみを愛撫される。
 頂には触れずに、中心から外側へと口づけをついばむ。
 触れて欲しい場所にわざと触れずに、さり気なく私を焦らしている。
 悔しいほど翻弄されてしまう。

 その時、ふと口づけが唇へと戻り、
「あ……っん」
 声にならない声が漏れた。



 敢えて口づけを繰り返すのはより感じさせてやろうと思ったからだ。
 ゆっくりと快楽の海へと導いて、溺れさせてやる。
 まだまだこれからだ。
 せいぜい身をもたせろよ。
 楽しめないじゃないか。
 なあ、沙矢、本当のお前を見せろ。
 幾度も夜を過ごし、体を重ねながらも自分を失わなかった
 沙矢という希少な存在が自分の腕の中にいることが
 こんなにも、嬉しく幸せなことだなんて。
 彼女に出会えて本当に良かったと素直に思う。
 沙矢とならば灰になったっていい。
 燃え尽きるまで共にいたいという願いが生まれてしまった。
 一緒に暮らす=結婚だとは考えてもいないが、
 いずれはそういう方向へ俺とお前は進むのだろうか。
 その未来を想像すると心が浮足立った。

 首にかけたチョーカーが、沙矢の肌に触れた。
 動くたびに纏わりつき、音を立てる。
 いつか、お前がくれたものだったな。
 俺がこれを肌身離さずつけていたことに気付いていたか?
 霞んだ瞳で、うっすらと見つめていたのだろうな。
 身につけて離さなかったのは、気まぐれからだったんだが、
 いつしか離せぬ程重い物となっていた。
 このチョーカーを外したらお前がいなくなってしまうのではないか。
 俺は馬鹿か。そんなわけあるはずないのにな。
 何か絆のように感じていたのだ。
 このチョーカーを媒介にして、お前と繋がっていると。
 夢見がちの女でもないのにな、不思議とそう思ってた。
 口で好きと伝えるなら簡単だが、もしそれよりも
 相手に深く伝えられる方法があったとしたら、
 言葉などいらない。
 体を通して想いを届けられるのならば、無駄な言葉などいらないのだ。
 俺は昔からそう思っている。
 好きだったら抱けばいい。
 抱き合えば、相手と一体になって何もかも感じられるし
 どこまでも行ける。
 相性も良ければ、いうことはないが。
 肉体面において沙矢は俺にピタリと吸いつくような抜群の相性だ。
 勿論、精神的な相性も悪くない。
 持ち合わせた性質が反対であるから、上手くやっていける。
 一緒にいて苦痛どころか、穏やかな気分になれる。
 心の中の苛立ちが和らぐ。

 胸の頂を口に含むと、
 沙矢は、首を反らして反応し、背を寝台に打ち付ける。
「あ……んっ」
 淫らなお前も綺麗だ。
 もっと艶やかな姿を晒せばいい。
 口づけていた胸から唇を離す。
 両の手で胸を荒々しく揉みしだくと、潤んだ瞳が視界に映った。
 まだイクことは許さないからな。
 お前の啼き声を思い切り聞くまでは、終れない。
 身体がヒートアップして来ても、わざとじわじわと攻めてゆく。
 焦る必要などないのだから。
 時間はたっぷりあるのだ。
 唇で挟んできつく噛んで頂を弄ぶと、嬌声が上がった。
 悲鳴に似た声がたまらない。
 感情のまま体が暴走する。
 愛し過ぎてしまった。
 表現方法はいささか手荒だけれど、好きだから
 こんな衝動が起きてしまう。
 俺という男はこういう奴だと思って諦めろ。
 お前を逃がすつもりはないからな。
 らしいだろう?
 愛しているよ……。

 冷え切っていた体は、炎で焼かれ色が赤から
 青へと変わろうとしていた。
 頭の中に何かが過ぎり、名残惜しくも俺は沙矢の体から離れた。
 ベッドのサイドテーブルの上に置いてある
 ブランデーをボトルから、口に直接流し込む。
 唇から零れ体に伝い落ちる液体が妙にいやらしい。
 強いアルコールに喉がじんじんと焼かれる熱さを感じた。
 暗闇の中に、妖しい微笑が浮かぶ。
 沙矢の唇を口づけで塞いだ。
 全部飲み込まず、注ぎ込んでゆく。
「ああっ……熱い」
 とろりと注がれる琥珀色の液体が、
 彼女の唇から零れるから、舌で舐め取った。
「ん……くっん」
 必死に飲み込もうとする姿が痛々しく、けれど美しかった。
 恍惚とした表情は俺を急かせる。
 自らの唇に滴った液体を腕で乱暴に拭い、また沙矢に覆い被さった。
 体中隅々に口づけを落とし、紅い痕を刻みつける。
 声なき声で喘ぐ沙矢。
 投げ出していた両腕を背中に回させた。
 ここからが本番。
 プロローグは終わりを告げた。

 紅の痕をなぞるように指を滑らせる。
 沙矢の口は薄く開いていた。
 与えて欲しいのか。
 構わず、うつ伏せに体を反転させ、愛撫をし始めた。
 紅い痕のない白い背を色づける。
 啄ばみ、強く吸う。
 背中のくぼみを指ですっと上から下へ、下から上へ辿る。
 何気ない仕草でも過剰な反応を返してくる。
 体を震わせ、腰を浮かせて。
 体重をかけて重なると、ベッドがぎしぎしと軋む音がした。
 己の体の下で身じろぎする体。
 どうにかしてやりたい。
 早く連れて行きたい。
 沙矢の体を仰向けにさせた。
「あっ……ああ……ん……」
 秘所に指を一気に入れると、高い声が上がった。
 体の下に左手を差し入れ、胸を揉み解す。
 指で頂を押さえ、掌で包みこみ捏ねる。
 右腕は腰に手を回し、支えて。
 指を出し入れするたび溢れる蜜が、シーツに滴った。
 秘所から溢れ出る蜜を、その場所に擦りつけると、
「ひゃあぁぁ……」
 卑猥な声が耳に届いた。
 指の出し入れを繰り返し、内側の部分に円を描いて掻き回すと
 ぴちゃぴちゃという湿った妖しい音が、寝室に木霊する。
「……っ……あぁん」
 喘ぎは止まることを知らない。
 甘い声に扇情され、行為は限界を超えるのだ。
 指を秘所から素早く引き抜き、鋭利な凶器をあてがう。
 直に触れ合うことは、ピルを飲んでいることを知っているからできるのだ。
 旅行に行って以来随分大胆になったものだと思う。
 今日もそのまま繋がりたかった。
 すぐに入れずに入り口を擦り、叩く。
「や……あん」
 耳を塞ぎたくなる奇妙な音。
 声を上げて沙矢は狂う。大きく足を開き、欲しいと強請る。
 容赦なく奥まで貫いた。
 しばらくその状態のまま停止して動かない。
「あっ……はぁ……」
 苦しげな声。
 与えられた絆を繋ぐ為の……俺自身の強烈さに
 途切れがちの喘ぎを繰り返す。
 淫らな姿ををさらすお前はとてつもなく綺麗で可愛らしいから、
 どんどん苛めてやりたくなるんだ。
 これは俺のせいじゃないからな。
 お前がそうさせる……。
 いきなり動き出し内部を掻き混ぜた。
「あぁぁぁ……っ!」
 一段と高い嬌声が上がる。
 片方の腕で胸を抑え、掴み上げて、片方は顎を掴み、
 口づけで塞いだ。ねっとりと舌を縺れ合わせる。
 胸を鷲掴みにし、律動を開始した。
 ゆっくりと、時に早く、動きを変えて、揺さぶる。
 触れ合う体と唇。どこまでも濃厚に絡む。

 濃密な夜は、過ぎて行く。
 こんな風に抱きあえる夜だって永遠ではないから、
 貴重な時は有意義に使わなければ勿体無い。
 己を叩きつける。
「くっ」
 きつくなる締めつけに思わず声が漏れた。
 口づけを止め、手で愛撫していた胸へと唇を移し、ふくらみごと含む。
「あぁ……はぁ……ん」
 舌で頂を舐めつくし、歯列で挟んで噛む。
 下では前後運動を繰り返していた。
 両の手は寝台へと伸ばし、激し過ぎる行為をする体を支えている。
 彼女の中に入り込んでは抜け出て、再度潜り込む。
 痛みよりも快楽を与えたいから、衝動が抑えられない。
「せ……い」
 声ともつかぬ声で沙矢は俺を呼ぶ。
 限界か。
 これ以上無理はさせられないだろう。
 最奥まで貫いた。
 一度、引き抜き、もう一度埋めこんで、突く。
「ああ……せい……せい」
「沙矢……」
 吐息が混ざり合う。
 俺と沙矢の熱い物が、繋がった部分を通じて
 双方で弾けたのを感じた。
 互いの名を呼び、絶頂に達した。

 波が尾を引き始め、心をざわつかせる。
 まだ、求め合いたい、混ざり合いたいと体が叫ぶ。
 貪欲な感情が彼女を強請るが、体に言う事を聞かせる。
 制御くらいできないでどうする。
 剥き出しの欲を悪戯にぶちまけるような子どもではない。
 これから何度でも、夜を過ごせるのだ。
 無茶をして痛みを引き摺らせて嫌な想いなど残させる程
 愚かな馬鹿ではない。
 水無月沙矢の全てが愛しくて仕方なかった。
 穢れのない笑みも妖艶な姿も俺の物だ。

 これからもずっと一緒に過ごそう。

 温かい彼女の中を抜け出さずに隣に横たわった。
 手を伸ばし、黒髪を指に絡め、巻きつける。
 髪は汗で肌に貼りついてしまっていた。
 肩で荒く息をしている。
 俺の背に腕を回し、しがみついてくる沙矢。
 未だ繋がっている部分が高温の炎を発しているのを感じ、
 苦笑した。抱いても良いのだろうか。
 いや、さすがにこれ以上負担をかけるのはよくない。
 とうに限界は来ているのだから。
 クスと笑い、軽く口づけた。
 瞳を閉じた沙矢が腕の中で身じろぎをする。
「最初から嫌いじゃなかったんだよ。
 惹かれたから抱いた。中々自分を認められなかったけれど。
 一目で好きになっていたことを信じたくなくて
 冷たい素振りを取り、あと腐れなく別れようとしたのに。
 お前は、時が経つほどに思いを募らせ綺麗になっていた」
 信じられなかった。
 こんな俺を一途に想い続けていたなんて。
 沙矢の気持ちが重いと感じるより前に、彼女以外見えなくなっていた。
 まんまと罠にはまってしまったのだ。
 最初に、好きになったのは俺の方だったのだから、
 堕ちたのも俺なんだよ。お前じゃなく。
 お前は俺の罠に堕ちたと思っていたのかもしれないな。

 沙矢の中から抜け出て、彼女の背を抱きしめた。
 柔らかな温もりに包まれて、安堵する。
 黒い髪ごと掻き抱くと寂しさが消えてゆく。
 いつだってストレートに想いを伝えよう。
 こみ上げる気持ちは塞き止められない。
 逃げようとしたら引きずり戻すから、覚悟しておけよ。
 離れられないよう俺を刻みつけて、
 捕まえていてやるから心配ないと思うが。


モドル ススム モクジ


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