雲の隙間から月光が漏れている。
私はその光景を窓から見上げていた。
左手にはワイングラス。
妖しく輝く真紅の月と同じ赤い液体。
それをくいと一気に飲み干すと、体中が火照り始める。
不思議な感覚が脳を巡り、私は違う自分になる。
後ろには人を待ち侘びている真っ赤なベッド。
赤は人を狂わせる。
血が滾るとか言うけれど。
真っ白だった部屋を真っ赤に染めた理由は、
愛し合える場所を情熱的に演出したかったし、
私自身赤に惹かれていたからだ。
彼と出会って今までの自分が全部消え失せて、生まれ変わったのだ。
忌み嫌っていた赤を好むようになるなんて……。
今、彼はシャワーを浴びている最中だ。
私は、とっくにシャワーを終え、白のバスローブに
ショールを纏って窓辺に佇んでいる。
お酒を飲んで、醜いことを思い描く。
たまには、彼を私が狂わせてみたいもの。
お酒の力を借りるなんて大胆になったものだ。
モラルを破り捨てることも怖くないのだから。
(これは最後の賭けよ。
体だけの関係から抜け出して微笑み合う恋人同士になりたい)
この辺で勝負に出てもいいだろう。
もし嫌われて終わりを告げられてもいい。
私から彼を求めたことが、心の記憶に残るならそれだけでいい。
バスルームから出てきた彼を振り返る。
「青……」
声を震わせて近づいてゆく。
微笑みかけた後、背伸びをして口づけた。
彼の首に腕を巻きつけて、唇を重ねる。
淡く、そして激しく口づける。
彼は一瞬だけ驚いた顔で目を見開いていたけど
やがてやがて口づけを返してきた。
こんな貴重な姿、二度と見られないわ。
私から舌を差し入れ絡め合わせる。
「せい……好き」
互いに舌を絡ませ口づけをしあっていると、
体の力が少しずつ抜けていくみたい。
私は何とか耐えて、彼のバスローブに手を伸ばす。
シュル……。
無造作に纏われていたそれは、簡単に床へと滑り落ちてしまう。
こんな大胆なことをしている自分に少し驚いた……。
それでもやめることはできない。
されるがままの彼が不思議。
鋭い視線に射抜かれるだけ。
私は誘われるように、バスローブの紐を振り解いた。
パサリ。裸身の二人が向き合う。
月光に照らされ浮かび上がる二人の肢体。
心だけどこかに置いてきてしまってる。
本能のままに彼を求めて。
彼の腕を引いてベッドへと導く。
ぐいと力を込めて、シーツへと沈ませた。
私はその上に覆いかぶさる。
淫らだということも忘れていた。
そっと耳朶に歯列を添わせ、甘噛みし、息を吹きかけて舐め上げる。
そうする度に表情を変えるのがたまらない……。
彼が私にしていることをそのまま返せばいい。
彼は、両手を私の胸に置いて揉み始めた。
卑猥な表情がまた色っぽい。
私が施す愛撫と、彼から施される愛撫の両方に、くらくらするよう。
程よくワインが回って何だか気分がいい。
彼の唇に私の唇を重ねる。
舌を差し入れ、絡ませて口づけ合う。
長い時間そうしていた。
息が出来ない……。
溶けてしまう。
首筋から鎖骨へとついばむような口づけの雨を降らせる。
これも彼が教えてくれた。
腕が背中に回され、抱きしめられる。
胸の頂を舐めて、両手を這わせて悪戯に触れてみた。
「う……」
気持ち良さそうな顔をして彼は背を反らせる。
こんなことで欲情を煽られるなんて……人の体は刺激に敏感ということか。
彼もいつも私に対して同じように感じていたのに違いない。
頂を口に含み、転がす。
引き千切るように噛んで放した。
彼の体が熱を帯びてくると、私の体も同じ熱が広がっていく。
口づけを下降させる。
彼は、私を抱きしめたまま瞳を閉じた。
私も横たわる彼の背に腕を回し、抱きしめあう。
隙間なく触れ合っている。
息が苦しいほどの口づけを続ける。
「ふぅ……」
艶かしく唾液が糸を引くその様がとてつもなく淫靡だった
彼が私の胸の頂を口に含み吸い上げる。
舌先で転がされ、舐めつくされて。
どうにもならないほどの快感に体が倒れ込みそうになる。
けれどそれじゃあ今までと同じ……。
私は足を思い切り開いた。
ゆっくりと、彼の熱い場所へと体を埋めてゆく。
「あぁ……っ」
圧迫感と息苦しさを感じながら、
腰を突き動かす。
彼を私の中へ誘う。
恍惚に顔を歪めた彼が強く胸を揉みしだいてくる。
気が遠くなりそう。
恐ろしいまでの快楽がこの身を襲っているの。
何度も背を後ろに反らせてしまう。
導かれた彼が動き出した。
私も同時に腰の動きを速める。
「あぁ……はぁん……っ」
首を反らせると汗が散る。
最奥まで彼が到達した。
熱の奔流が彼のそれとぶつかる。
「……あ……っん」
切ない声を上げて啼く。
混じり合ってゆくのがわかると恍惚が体を突き抜ける。
彼も同じく恍惚に身をよじっていた。
蕩けるような甘い表情を私にさらしている。
普段ならこんな表情を見る余裕などないが、今は違う。
「はぁ……はぁ……」
もう限界だった。
繋がったまま彼の方へと沈みこんだ。
ぐったりとした様子で彼にもたれかかる。
荒い呼吸を繰り返し、声にならない声で喘ぐ。
その時、ふいに下にいる彼が動くのを感じた。
「されるがままになっていると思うな」
挑発的な台詞。
彼は自身を引き抜く。
腕を引かれ、あっという間に体の位置が入れ替わる。
うつぶせになった私の上に彼がいる。
いきなり奥底まで貫かれた。
「……くぅっ……」
体が焼けるほどに熱い。
私は両手でシーツを掴んだ。
容赦なく律動が始まる。
知らず知らずのうちに腰が揺れ、浮いてしまう。
彼は腰を押さえこんで突き上げ続ける。
胸へと伸ばしている両手で、房を力強く掴んで指で頂を弄ぶ。
指の先で頂を転がされ、ふくらみ全体を揉みしだかれる。
声が自然と漏れる。
幸い酔いしれている顔は彼に見られずにすんでいるけれど。
両腕を胸へ置いたまま、腰を動かしている。
私の中で新たな熱が生まれ弾けようとしていた。
「青……」
名を呟く。
終わりの合図をする。
「沙矢」
「……ふっ」
彼の熱が私の中へと流れ込んでくる。
「あぁ……っ!」
私はそれきり気を失った。
奇妙な気分になりながら、意識を手放した彼女を抱いていた。
体をまた仰向けにし乱暴に胸を愛撫して、前後運動を止めず。
豊満な胸は、俺の手に丁度馴染む。
初めて沙矢を抱いた夜から感じていたことだが、華奢なのに胸は見事な大きさを誇っている。
あんなにも淫らな姿を見るのは初めてで、俺としたことが、
どうしていいか分からなくて、ただ身を任せてしまった。
女に攻められ、感じさせられるなんて信じ難い。
呆気に取られ、為すがままにされてしまうとは、貴重な夜だ。
だが、その分は存分に返してやるさ。
その肢体を蹂躙し味わいつくしてやる。
お前が俺にしたことへの報いだからな。
心して受け止めろ。
順番なんだからおかしくないだろう?
耳朶へと舌を這わせ吸い上げると
限界へ来ているはずの体はそれでも反応した。
鋭く跳ねる。
後ろへ回り、ざらりと舌で背を舐め上げる。
啄ばむような口づけを降らせ、時折噛みついた。
彼女はびくびくと背を反らせ、蜜を零す。
騎乗位の体勢を取らせ、のしかかる。
がしがしと胸を揉み、口へと含む。
舌先で転がし、吸っては放す。
乳房全部を口に含み、左右交互に吸い尽くす。
口から出すと胸が揺れた。
俺は胸を鷲掴んだ状態のまま、いきなり中へと入りこんだ。
自身を奥へと一気に進め、腰を動かす。
胸を掴んでいた手を腰へと移動させ今度はそこを掴む。
腰を引いたり突きあげたり、激しすぎる動きで彼女を翻弄する。
そして最奥まで刺し貫いた。
唸るような悲鳴が聞こえる。
馬乗りになった格好で繋がった。
崩れ落ちそうな彼女の腰を支え、腰を動かし出す。
円を描いて掻き回す。
次第に彼女の中が収縮し、きつくなってきた。
「う………うんっ」
瞳を閉じている彼女が呻く。
締めつけて俺を離そうとしない。
俺はもう一度最奥部を突き、全てを中で解き放った。
ぶるりと身を震わせ、彼女の中から抜け出る。
自分と彼女の事後処理をして、ごろりと横になった。
彼女の頭を抱いて引き寄せ、髪を撫でてやる。
寝息を立てる様子がとても可愛い。
女の色香を持ちながらも愛らしさを失わない。
俺は腕の中で眠る沙矢の額にくちづけた。
備えつけのサイドボードに置いてある煙草に火をつける。
紫煙を吐き、宙を見上げる。
「お前に会わなければこんな気持ちを知ることもなかったな」
左手で彼女の髪を梳きながら、呟いた。
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