欲しがる人々 2 「ちょい、タイム……休憩」 「やなこった」 「っ……おい!!!」 停戦の訴えも空しく、サンジは伏せていた身体を力任せにひっくり返されると、圧し掛かってくる男に無理矢理横向きにされた。はぐっと耳を甘噛みされ、ぬるっと生暖かい感触が耳の奥へと入ってくる。耳が弱いことを自覚してるが故、一応、「やめろー」と叫びながら覆いかぶさっている背中を叩いてみたが、無意味だった。むしろ、弱いとわかっているからこそ、相手は嬉々としてそこばかりを攻めているらしい。顔を背けようと努力はしてみたが、がっちりと挟まれてどうにも動かせない。 その間も、舌はサンジの耳の中から裏側まで丹念に舐めていく。厭らしい音が鼓膜に届くたびに、身体が意図せずびくびく震えた。 暫く身体を固くしながら黙ってそれに耐えていると、ゴツゴツした手の平が背中を撫でてきた。固くなった身体を解すようにされ、時折、背骨の中心を太い指でなぞられる。その度にむず痒さに身体が小さく跳ねた。 耳は未だに攻められ、背中を指が行き来する度に身体が仰け反る。反って突き出すような形になった乳首を摘まれ、背中の手が今度は太腿を撫でる。やんわりと触れるか触れないか微妙なタッチで、下から上へゆっくりと。 背筋にぞわっとした不快とも快感とも違う感覚が、這い上がってくる。ハァハァと呼吸を荒くして、その感覚を追い出そうとしても、どうにも上手くいかない。太腿に置かれた手に、そこではなくと心が訴えた。勃ち上がったペニスを触って欲しくてしょうがないのだ。 しかし、上まで伸びてきた手は肝心の中心には触れずに、また下の方へと移動する。膝頭を掴まれ、緩く足を開いてみせてもその内側を何度も何度も撫でるだけ。 もどかしい。 その行為が何を意味するのかわかっているが、焦らされるだけの行為というのはハッキリ言って辛い。 が、それにも今は耐える他、術などなく――― 「って、我慢してられっか、このボケがっ! ねちっこい真似してんじゃねぇよ!」 言い出したのは自分とはいえ、大層辛かった。 *** 「なぁ、ゲームしようぜ」、と。 言い出したのはサンジの方からだった。部屋に入り慌しく服を脱ぎ、さてこれから致そうというその時に。 「は?」 何を言い出すんだコイツは。 相変わらず理解出来ない思考回路を持つ野郎だと、いつものようにゾロはそれを軽く聞き流していた。そんなことより、今はさっさとサンジの上に乗り首筋に吸い付く方が重要なのだ。 「ちょ、ちょっと待てって!」 「嫌だ」 「嫌だじゃねぇ! ちょっと待て!」 もう一度嫌だというのも面倒なので、ゾロは一旦首筋から顔を離すと、うるさく言うサンジの口を塞ぐことにした。これなら文句は言えないだろう。と、思いきや、髪の毛を引っ張られ、チョップをされる。しかもしつこく、チョップチョップチョップ。 「うるせぇ! なんだ!」 「てめぇが人の話聞かねぇからだろ!」 「だったら早く言え! 溜まりまくってんだよ!」 「俺だって溜まってんだよ! だから、黙って話を聞け!」 そして、トドメとばかりに、話を聞かねぇなら今日はヤらねぇとサンジは言う。 仕方無しに、渋々、本当に渋々ゾロは「待て」な姿勢で話を聞くことにした。目は血走ってて全身殺気立っているが、ヤらないと言われれば待つしかない。ほぼ一方的に事を中断させられ非常に面白くなかったが、殴って縛って犯すという案は、ギリギリのところで止めていた。 今怒らせると、後々面倒になるからだ。 「早く言え」 「簡単なゲームだ。先に挿れたいですって言った方が負け、言わせた方が勝ちだ」 「わかった」 これで文句はあるまい。話は聞いたし、了承もした。 なので、ゾロは首筋にもう一度顔を埋めて、シャツの中に手を突っ込んだ。肌の触り心地に頬が緩み、やっぱりコイツの触り心地はいいなぁと、興奮し始めた下半身を押し付けた。 「いや、わかってねぇだろ! 最後まで聞けや!」 が、それも束の間の幸せ、ゾロは再び額にチョップをくらった。 つまりこういうことだった。 引っ叩かれ、抓られ、詰られ、引掻かれ、顔を傷だれけにしながらゾロが聞いたところによると、今からセックスするにあたり、挿入までの過程で相手より先に突っ込ませて下さい、もとい突っ込んで下さいと言った方が負け。その間の挿入は一切なし。指も入れては駄目。それ以外の攻撃ならばなんでもあり。とにかくどちらかが性器による挿入を申し出た時点で、ゲーム終了、だそうだ。 聞いてるだけで、なんともアホらしくなってくるゲーム内容だ。 用は言わなきゃいいんだろが、と問えば。そうだ言わなければ勝ちだ。言わずにいられれば、の話だがな。とサンジは意味ありげに笑う。 そして、ここからが重要らしい。 ゲームに負けた方は、現在ご利用中のこの宿の代金を全額負担。勝った方は払わなくて良し。すなわち勝者はタダでご宿泊出来るが、敗者は二人分の宿代を払わなければならない。 「まぁ、いいけどな。最初から勝負が見えてるし」 「どういう意味だ」 「俺が勝つに決まってるだろ。どうせお前の方から泣いて突っ込んで下さいって言うに決まってる」 「てめぇは、どっからそんな根拠のねぇ自信が出てくんだよ。言っとくがな、こっちの方がかなり有利だからな。俺のケツを前にしてお前が突っ込まずにいられるわけがねぇ」 「そっちこそ、どっからそんな自信が出てくんだよ。ケツ掘られるのが好きなくせしやがって」 「ケツ掘るのが好きなホモ剣士に言われたくねぇんだよ。俺のケツにメロメロなくせしやがって、強がってんじゃねぇぞ」 「強がってんのはそっちだろ、ホモ眉毛が」 「お前がホモだろ、このホモ」 「おめぇがホモだ、ホモ」 「ホモ」 「ホモ」 いや、どっちもホモだと、突っ込みを入れる人間はこの場にはいない。しかも、話が微妙に逸れている。 「とにかく、ゲームは受けるってことでいいんだな?」 「ああ」 「なら、てめぇに俺のケツの有り難味を徹底的に教え込んでやるぜ」 「言ってろ、思いっきり泣かせてやる」 二人、同じような笑みを浮かべた。 とまあ、そんな経緯で二人は今に至る。 ゾロはサンジの尻たぶを掴むようにギュッギュッと揉み、サンジはゾロの頬をギュッギュッと掴んで引っ張る。 心なしか二人とも涙目で。 もう何がしたいんだか、わからなくなっていた。 2005/06/03掲載 |contents|back|next| |