欲しがる人々 3



 サンジがゲームなどと言い出したのには、それなりに理由がある。ケツの有り難味云々ということも、まぁ少しはあるが、きちんと本人なりに正当な理由が。
 欲しいものがあったのだ。
 昨日、例の騒動の後、サンジは一人で町の市場へ出かけていた。船長の件で大分、船の経営状態が悪くはなったが、船に積む食料は必ず買わなければならない為、ざっと市場を下見しに来たのだ。
 どこよりも安い店、新鮮な食材がある店をリサーチしておいて、少しでも多くの食材を買うために、だ。
 今回は特に念入りに。
 そんなこんなで、市場をぶらぶら歩いて、此処がいいなぁとかこっちの店の方が安いなぁと見て歩いていると、食料とはまったく関係ない、あるものが目に留まった。

 ―――ゴールドネックレス。

 いかにも、どこぞのチンピラが装着しそうな、ゴテゴテしてごついデザインのそれに、彼は一目惚れした。見た瞬間、さぞかしアレは自分には似合うだろう、なんて目が輝いたほどだ。
 曰く、男の色気を引き出すセクシー且つダンディーなアイテム。一般的な見解からすると、どうしたって頭の悪さを醸し出してるチンピラアイテムとしか思えないのだが、サンジ本人は甚くそれを気に入ってしまった。ハデな縦縞のシャツがあるから、あれの前を全開にしてこのネックレスを付ける。その格好で、両手にナミとロビンを連れて三人でデートしたらどんなに楽しいだろう。想像しただけで顔が緩みそう、というか緩んでいた。ものすごく。
 しかもなんと

 『今ならお買い上げの方全員に、ネックレスとお揃いの指輪を差し上げます』

 だそうだ。
 麦わら海賊団に所属してからというもの、すっかり貧乏性になってしまった彼としては、当然その言葉にも多いに惹かれた。ネックレスを買うだけで、さらに指輪も手に入る。なんてお買い得な。これはもう絶対に買わねばなるまい。
 だが、気持ちに反して懐は非常に乏しかった。コツコツ溜めていたお小遣いを集めに集めて、今回分のお小遣いを足して、それでやっと買えそうな金額なのだ。いや、もしかしたらそれでも足りるかどうか。何しろ、ただでさえ、日頃少ないお小遣いが、ルフィの件でさらに減額されることは間違いなかった。
 そこで、思いついたのがあのゲームである。
 いつもなら、二人で宿に泊まる時は折半が基本だ。お互い限られたお小遣いしか与えられていないし、どちらかが宿代全部を負担するなんて、そんな太っ腹なことはまずない。だから今回もそういうことだと、暗黙の了解で決まっていた。
 ところが、ネックレスを買うとなると、その半額負担分の宿代が払えない。でもネックレスは欲しい。しかし、懐の具合が寂しい。だからと言って、ゾロと宿に行かないという選択肢はこの場合浮かばない。
 だから、考えに考えた。そして、出した結論がこのゲームなのだ。
 無論、勝算はあった。
 なぜならこのゲームを思いついたその日、サンジは自分で一度抜いておいたのだ。姑息と思いつつも、これも計算の内と幾分軽くなった身体で密かに計画を練る。
 ゾロとはここ数週間、やっていない。
 島に近づき安定した気候に入る前、船は立て続けで時化に遭っていた。そんな大忙しの中、ゆっくり触れ合うことなど出来るはずもなく。
 故に、数週間ぶりに興奮するであろう魔獣を上手い事あしらうことが出来れば
「俺の勝ちだな」
 いつもなら嫌がるシックスナインを今日は特別にやってやろう。上に乗ってやってもいい。フェラだって、べちょべちょになるまで舐めてやる。ノリと勢いで善がって喘いで。そして、言わせてやるのだ。「挿れさせて下さい」と。
 その時のゾロの顔を想像すると、顔がニヤけてくる。あのむすーっとした顔がもう辛抱できません、お願いです、みたいなことを自分に言うのだ。高笑いしたくなるってものだ。
 勝利に酔いしれ、同時にあのネックレスを手に入れている自分を夢に描く。
 素晴らしい計画だった。自分でも驚くほど完璧だった。笑いが止まらなかった。
 そう、大きな落とし穴があるとも知らずに。
 ゾロはゾロで欲しいものがあって、サンジと同じようなことを考えていたなどと、当然サンジの計画の範疇にはなかった。

 実はここだけの話、ゾロにも買いたいものあったのだ。
 ゾロが買いたいもの。それは言わずと知れた、酒である。
 サンジと一緒にこの宿に来る途中、酒屋の店先でちらりと見かけた酒。以前、一度だけ飲んだ酒。いかにも熟成しましたよ、という雰囲気のラベルが付いているその酒は本当に美味かった。
 しかも、今ならなんと

 『店の三周年記念につき、通常の値段より三割引』

 だった。
 瓶を手に取り値段を確認すると、手持ちのお小遣いと同じ金額。
 通常、船に積む共有のラム酒やワイン以外の酒は、基本的には個人購入だ。つまり、この酒を手に入れる為には、自分の持ち合わせから購入する以外方法がない。
 だから、ゾロは割りとあっさりと、あの馬鹿馬鹿しい提案に乗ったのだ。宿代を払わなければ、あの酒が買える。単純な頭が、単純な答えをはじき出す。
 しかも丁度、今日はいつもすっ飛ばしがちな前戯という前戯を、ゆっくりしてやろうと思っていたところだった。そんな気分なのだ。
 何しろ、狭い船の中では、なかなかゆっくり触る機会が少なく、今が挿入チャンスとなれば、早く突っ込んで出しておかないと、いつ誰かに邪魔されるとも限らない。
 だが、今日は邪魔などされずゆっくり出来る。
 ゆっくり出来るのなら、普段我慢していることをやれるだけやってやろう。そんな含みがあって、実はゾロも、此処へ来る前に余裕を持とうと一度抜いてきたのだ。
 これで最初から飛ばすことなく、じっくり出来るはず。
 とにかく満足するまで弄り倒し、あの生意気コックに「挿れて」と言わせ、「しょうがねぇな」と笑ってやる。そして、勝利の美酒に酔おう。

 つまり、それぞれの思惑が思惑を呼び、ゲームは成り立っていた。
 もし誤算があるとするなら、相手がここまで粘ると予想できなかったことだろうか。



2005/06/04掲載

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