02 - カゴの中の世界


 初めて目を開けてから数日、シャンルは、部屋から出たことも、ジェイク以外の人間と出会ったこともなかった。ただ、窓から見える景色だけが、少年と外界との接点だった。
 部屋には、トイレとシャワーがあった。脱出できるような出入口はない。窓から見下ろすと部屋は3階にあり、川が見えたが、飛び降りて無事な深さがあるかどうかはわからなかった。
 それ以前に、彼は脱出すべきかどうかもわからなかった。脱出したとして、頼るべき宛もない。だれも、彼を知らないのかもしれない。彼が、ジェイク以外の人間を知らないように。
 食事は、いつもジェイクが運んでくる。正午、ジェイクはシャンルが食べ終わるまで待ち、食器を持って一旦姿を消すと、決まって2時間後、再びやってきてシャンルの身体の感度を計った。少しずつ刺激を強められて、感覚は敏感なまま、少年が絶頂を迎えるまでの間が長くなっていった。
「ふッ……あ、あう……やぁんっ」
 感じやすいところをいたぶられて、高い、可愛らしい声が洩れる。
「ん……っ……いや……ぁ……」
「なかなか、いい声で鳴くようになってきたじゃないか」
 ジェイクは言い、なかをなぶっていた指を引き抜いた。
 今までは、指だけで絶頂まで責め上げられていた。中途半端なところで止められて、軽いうずきを感じながら、シャンルは喘いだ。必死に衝動をおさえつけようと、股を閉じてシーツを握り、耐えようとする。
 ジェイクが上着の内側を探っているのに気づき、シャンルはそちらを見上げた。そのとたん、大きな目がさらに見開かれる。
 ジェイクは、リモコンのようなものとコードで結ばれた、先が細くなった筒状のものを手にしていた。記憶はなくとも、それが何なのか、どういう意図で使われるものなのかはわかる。
「いや、やめてください! やっ!」
 離れようとするシャンルの足首をつかみ、ジェイクは無理矢理足を開かせた。身を乗り出した貴公子の周囲に、不思議な、甘い香りが漂う。
 その香りを吸い込んで、シャンルは頭がぼうっとなった。そして、身体の芯が熱くなる。
「行くぞ……」
 気がつくと、バイブレーターがつぼみにあてがわれていた。慌てて制止の声を上げようとした瞬間、バイブの先端が奥にもぐる。
「やっ、やめてえぇーッ!」
 メリメリと音がした。うつぶせの身体の上体が大きく反らされ、高く跳ねる。
「あうっ、あっ、ああぁーっ!」
 慣らされたにしても、あまりに大き過ぎる異物、大き過ぎる衝動だった。バイブは無理矢理肉壁を押し広げて、少年の体内に隠されていく。
「あとは一気に入りそうだな」
 ジェイクは言い、力を込めて一押しする。バイブはぬるりと滑るように奥に飲み込まれ、見えなくなった。
「イヤアアアァァ――ッ!」
 痛々しい、甲高い絶叫が上がる。あどけない少女のような顔は、先ほどまで紅潮していたにもかかわらず、今は青白かった。
 バイブを押し込まれた時に跳ね上がって以来、少年の身体はただ細かく痙攣する。脂汗が頬を流れ、シーツを濡らした。そのシーツをかきむしり、シャンルは激痛に悶絶する。
 喘ぎに混じって悲鳴を洩らしていたのが、徐々に声もかすれ、喘ぎだけが激しくなっていく。身体の奥を膨張させる重い物体はまだ微動だにしないが、少年の小さな身体に衝撃を与えるには充分だった。
「ゃ……ん……ぁ……ッ!」
 ジェイクが、細い腰に触れた。わずかな振動が、少年に脳天まで突き抜けるような激痛を与える。
「ひぃ……ッ! ぁふ……っや、やああぁあっ!」
 ジェイクは、鎖を少年の腰と手足に回した。それを、天井から降りてきたフックにかける。急に身体を引き上げられて、シャンルはかすれた悲鳴を上げた。
 鎖の長さが違うため、天井に尻を突き出す格好になる。
「っうわああぁぁ――ッ!」
 じりじりと彼を責め立てていた痛みの波に、変化が生まれる。重いバイブは、少しずつ、肉を押し広げて奥にずり落ち始めた。
「いやあぁっ! も、もうっ!」
「さあ、もっと可愛い声を聞かせてくれ……」
 ジェイクの声は、もうシャンルの耳に届いていない。頭のなかが真っ白になったシャンルは、ただ痛みが突き上げるのに反応し、かすれた声を絞り出すだけ。
 いつになったら、この責め苦が終わるのか。
 かすかに残る理性が薄らとそんなことを考えた途端、彼は、信じられない感覚を体験する。
 太いドリルが、身体のなかをえぐる激痛。
「うあああぁぁ――!! やめてええぇぇぇ――ッ!!」
 すでにかれたはずの声が、長く、高く響く。
 凄まじい痛みが、残っていたひとかけらの理性をも吹き飛ばしていた。
「あうっぅうぁあァー!! やぁああっ!! いやあぁ!!」
 中のどこかが切れたのか、つぼみが生ぬるい液体を吐き出した。奥で、ぐりぐりという痛々しい音がする。
 ジェイクが、手にしたリモコンの上で指を跳ねさせた。
 直後シャンルの腰も大きく揺れる。
「あっあっあっああぁぁぁ―――――ッ!!」
 声の限りに叫び、つぼみから溢れた液体で床を濡らす。
 暴れ続けるバイブに責め立てられながら、シャンルは気を失った。

 

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