03 - カゴの外へ


 ジェイクはシャンルの身体がバイブに慣れるよう、次の日もそれを試した。目覚めて間もない少年の身体には刺激が強すぎるとわかったのか、指を入れて慣らすだけでなく、ゼリーをたっぷりこすりつける。
 そのあとの挿入でも、シャンルは身を痙攣させて苦痛の声を絞り出した。ベッドの上で震える様子を、貴公子は相変わらず、仮面のような顔で見下ろしている。
「ん……っ……くぁ……あ!」
 痛みに、その頬を涙が伝う。背中を丸め、唯一の頼りであるかのように、シーツを握りしめていた。
「う……やぁ……っ!」
 不意に、立ち尽くしているだけだったジェイクが動いた。背中から手を回し、少年を後ろから抱える形になる。
「ヤアァァ――――ッ!」
 振動が奥に伝わって、シャンルは反射的に声を上げる。
 ジェイクは後ろから手を回し、腕でシャンルの足を持ち上げた。左の膝の下を通った大きな左手が、ゆっくりと伸ばされる。
 あえて今まで触れられることのなかった、両足の付け根にある性の象徴へ。
 ジェイクはそれを、軽く握った。
「……ッ!」
 今まで感じたことのない衝動が、身体の中心を駆け抜けた。背中が後ろ、ジェイクのほうへと反らされる。
 ジェイクは何も言わず、手に力を込める。
「はああああああッ!!」
 ぴくんと身体が跳ねた。どうしようもない快感が突き上げる。触れられている部分とその奥のほうが、焼け付くように熱い。そして、その熱い部分に、反対側からバイブの先端が押し付けられていた。
「っくあっあぁん!!」
 痛みは、さらに熱い、鋭い感覚に取り込まれた。ジェイクの手に強く弱く刺激され、下腹部の衝動は大きくなる。
 頭が真っ白になりかけた時、ジェイクがリモコンのスイッチを叩く。
「あッあッあああぁぁッ!!」
 バイブが彼の感じやすいところを刺激する。
「あうぅあぁーっ!! もうーっ!!」
 身体の前後、外側と内側からに責め苦に、細い身体は波打つように揺れた。経験したことのない快感に流され、何も考えられない。
「おっお願い、お願いぃーっ!!」
「いかせて欲しいか?」
 言いながら、ジェイクは激しく手を動かす。強く握っては力を緩め、親指でこすり上げてはぐりぐりと横にねじった。
「ひぁあん!! ふぁっ!! やぁう!!」
 ジェイクは軽く爪をたて、一気にこすり上げた。
「ぁ……んん――――ッ!!」
 嬌声を上げて、少年は果てた。白濁した液体が大きな力強い手のなかに吐き出される。
 ジェイクは道具を回収すると、いつも通り、失神したシャンルを残して部屋を出た。

 気を失ってから、何時間経った頃か。
 ようやく意識を取り戻したシャンルは、慎重に身を起こした。鈍痛と、快感の余韻が体内に残っている。少しでも振動が伝わると、腰が抜けそうな衝撃が走った。
「う……っ」
 めまいを感じながら、ベッドから降りる。彼は壁を伝いながら、ふらふらと部屋の端のドアを開けた。
 そこには、シャワーと、それに浴槽もあった。ただ、いつも湯を溜める気力がないので、湯につかったことはない。
 半透明なガラスを張り合わせたドアを閉め、シャワーの栓を捻ると、ややぬるめに調整した湯が降り注ぐ。心地よい液体の感触が、少年の白い肌を洗い流していく。
 少しほっとした表情でその感覚に身を任せていた彼は、ふと、半透明なドアの外に目を向けた。実際に何かが見えるわけではないが、彼はそこにある光景を思い描く。
 そこには灰色の棚があり、タオルが重ねられて置いてある。十枚近くはあっただろう。
 シャンルは湯を止めてシャワー室から出ると、タオルの一枚で身体を拭いた。そして、そのタオルすべてを抱え、窓際に近づく。
 窓から下をのぞくと、花が植えられた庭と、川が見えた。岡の上に流れる川だ。岡の下には街の灯が見える。色とりどりのネオンに、その背景を行き交う光。個人用や団体用の航空機や、宇宙船か。
 決して手が届かない、切り離された世界。
 記憶にある映画やドラマのように上手くいくと、楽観的にはなれなかった。それでも、彼は希望を持とうと努力して、タオルやベッドのシーツの端をきつく結んで、繋げ始める。
 やがて彼の前に、一本の細いローブができていた。つなぎ目を強く引っ張り、強度を確かめる。丈夫そうではないが、短期間少年の軽い身体を支えるだけなら、耐えうるかもしれない。
 余ったタオルを身体に巻きつけて、ロープの端をベッドの足に巻きつけると、窓を開けた。周囲に人の目がないことを確認してロープをたらす。
 シャンルは、つばを飲み込んだ。
 身体の痛みをこらえながら、ロープをしっかりと握って、窓のふちに足をかける。
 夜風が彼の肌を撫でた。建物の壁が靴も履いていない足の裏に冷たい。
 ロープに体重をかけ、壁を軽く蹴るようにして、少しずつ、下におりていく。明かりが洩れる窓の横を通る時には、さらに緊張が大きくなった。
 音を立てないよう、慎重にロープを伝っていく。かすかにぎしぎしという音が彼の耳に届くと、不安が増す。ロープはもってくれるだろうか、という疑念が湧いた。
 しかし、あと五メートルを切ると、ほっとして、少し気を緩める。
 そのとき、突然、浮遊感が彼を襲った。
「……!」
 とっさに悲鳴をこらえるシャンルの身体は、草むらの上に落下した。



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