男を抱いたことはない。
 抱きたいと思ったこともなかった。
 しかし、天志に触れているだけで、今まで感じたことがないほど身体が熱くなるのがわかる。
 天志の身体をベッドに横たえ、俺は、覆い被さった格好で再び彼の唇を塞いだ。
「ん…っ」
 濃厚なキスで蕩けさせながら、Tシャツの裾から手をしのばせて、彼の小さく立ちあがった突起に触れた。少し擦っ
ただけで、天志は甘い息を吐き、身体を快感に震わせる。
 俺は天志のTシャツを脱がせると、直接、彼の突起に舌で触れた。
「ゃっ…」
 天志のうっすらと開いた唇から吐息まじりの声が漏れる。
 片方の手で彼の脇腹を撫でながら、もともとぶかぶかだったジーンズを空いた手で難なく脱がすと、彼の半分勃ち
あがったものに直に触れた。
 不思議と、触れることに抵抗は感じなかった。
「佳成さん…っ」
 天志の色っぽい声に誘われるように、ゆるく握り、すっと敏感な部分を撫で上げると、あっという間に張り詰めた。
「ああっ…つ…っ……もう…!」
 彼を放出ギリギリまで追いつめると、もう片方の手を後ろに滑らせ、彼の入口を探った。ピクンと天志の身体が小
さく跳ねる。
「あ…っ」
 俺は、彼の胸の突起から唇を離すと、彼の白い首筋を辿ってから唇を合わせ、舌で敏感な口腔を探りながら、彼
の下の入口にゆっくりと指を挿し入れた。
「…っ…!」
 眉根を寄せた彼の、内部の壁の感触を確かめるように指をめぐらせ、
「っ、あっ……やぁ…んっ!」
天志が一際高い声をあげる部分を探し当てた。
 何度も何度もその一点を擦りあげ、指を増やし、生理的な涙を浮かべた天志を悶えさせる。
 わずかな愛撫にも素直に反応し、もう耐えられないというふうに首を振り、俺に必死にしがみつき、喘ぐ彼が愛お
しくてしようがない。
 彼から指を抜き、俺はシャツを脱いでジーンズの前をくつろげると、すっかり熱く勃ちあがったものを取り出した。
彼の両脚を開かせ、入口に堅いそれを押し当てる。
「力、抜いてろ」
 怯えたような表情の天志の髪を梳き、彼の中心に伸ばした手をゆるりと動かした。彼が息を吐いた瞬間、自分を
彼の中に埋め込んだ。
「っ……痛っ…!」
 天志の苦痛に歪んだ顔に気づいていながら、俺は、衝動を抑えきれず、そのまま貫いた。
「あぁぁっ…! っ…くぅ…」
 彼の中はたまらなくキツかった。
 俺は完全に収めてしまうと動きを止め、彼の萎えかけている中心にそっと触れ、敏感なところを執拗に刺激する。
 天志が頬を紅潮させて、熱い息を絶え間なく漏らしはじめると、俺は堪らなくなってゆっくりと動きだした。
「ひぁっ…やっ……はぁ…ッ」
 俺が夢中で刻むリズムにあわせて、天志の細い身体が何度も小さく跳ね、彼の中が収縮する。
 天志が俺の腕にきつくしがみつき、甘くかすれた声をあげる。
「天志…!」
 天志の体温を感じ、肌に触れ、声を聴き、めまいがしそうなほどの充足感に包まれながら、俺たちは二人同時に
快感の頂点を迎えた。
 
 
 ちょうど、乾かしたシャツのボタンをつけ終えたころ、天志が目を覚ました。
「佳成さん…?」
 まだ寝ぼけたような瞳でタオルケットに包まれた身体を起こし、床のクッションに座っている俺をのぞきこむ。
「起きたか? その……身体の方は、どうだ…?」
 俺の遠慮がちな言葉に、さっきまでの自分の痴態を思い出したらしく、天志は面白いほど真っ赤になり、
「だ、大丈夫…」
消え入りそうな声で答えた。
 そんな反応のひとつひとつが、可愛くてしようがない。
「…あ、この曲」
 ラジカセから流れている曲に、天志は反応を示した。
「今日発売の『ENDRESS』の新曲じゃない!?」
「そう。このバンド好きなんだ」
「佳成さんも? 僕も好き!」
 ベッドから乗り出して嬉しそうに天志が言う。
「おい、落ちるなよ」
 俺は慌てて、落ちそうになる天志の身体を下から支えた。
 間近で目が合うと、ごくごく自然に唇を合わせた。
 タオルケットがずり落ちかけて彼の白い肌がのぞく。さっき俺がつけたばかりのキスマークがわずかに見えた。
 俺は慌てて揺れそうになる理性を抑え込んだ。これ以上抱いたら、彼を家に帰せなくなる、と。
「着ろよ」
 俺は、彼の顔を見ないようにしてシャツを押しつけた。
「……うん」
 少し消沈した様子で、天志はのろのろとシャツに袖を通した。
 
 
 
 時刻表を見ると、電車の到着まであと三十分ほどだった。
 入場券を買ってホームに入ると、ベンチに座っていたり荷物を手にして電車の到着を待っている人たちが、数人
いただけだった。
 俺たちは空いているベンチに座り、会話のないまま線路の向こうに見える夕陽を眺めていた。
 別れの時間が近づくにつれ、離れがたい気持ちがどんどん強くなっていく。
 数時間前に初めて会ったばかりなのに、何年も前から知ってるような気がするほど、すでに彼を身近な存在とし
て感じていた。
「佳成さん」
 ふいに、天志が口を開いた。
「佳成さん…」
 少しの間のあと、再び、俺の名前を呼び、何かを言い出しかけて口をつぐむ。俺を真っ直ぐ見つめながら、言うか
言うまいか迷っているのが窺えた。
 もしかしたら、彼も同じ気持ちなんじゃないかと思わずにいられない。
「携帯、持ってたよな?」
「え、う、うん」
 俺の言葉につられるように、天志は胸ポケットから携帯を取り出した。
 メールができると知って、俺は自分の携帯のアドレスを口にした。
「え、ちょっと待って」
 慌てて携帯に登録しはじめる天志に、もう一度ゆっくりとアドレスを言う。
 登録したのを確認して、俺は自分の携帯を取り出す。
「メール送ってみな」
 天志が携帯に何やら打ち込んで顔をあげたと同時に、俺の携帯からメロディが流れだした。
『届いた? 天志』という簡単なメッセージを確認して、
「これで、また会えるな」
届いたメッセージを彼に見せながら、嬉しさを隠しきれずにそう言った。
「…うん」
 天志が、自分の携帯を微笑みながら見つめる。
「また、会えるね」
 電車がホームへと滑り込んできた。
 
 
 
 携帯から、すっかり聴き慣れたメロディが流れる。
 一ヶ月前、天志と出会った日に買った、彼も好きだと言っていたバンドの曲。
 天志からのメールだ。
 クラスメートとの会話を中断して、メールの内容を確認する。
 今日アパートに行ってもいいか、という、いつもどおりの短いメールだった。
 文面はいつもとたいして違わないのに、繰り返し読んでから、OKの返事メールを送るのが習慣になっていた。
「嬉しそうな顔しちゃって。恋人から?」
 クラスメートの中條が、からかい口調で俺に言った。
「まあ、な」
 一応肯定する言葉を口にするけれど、そう聞かれるたびに、俺と天志は本当に恋人同士なんだろうか、という
疑問におそわれる。
 身体からはじまった関係。
 お互いに、『好き』とか『愛してる』とかの言葉は口にしたことがない。
 最近は、このままでいいんだろうかと思うようになっていた。
「俺、幸せそうに見えるか…?」
 思わず口をついて出たのは、そんな言葉だった。
「幸せじゃないのか?」
 中條は小さく苦笑して、逆に問い掛けてきた。
 『好き』と告げること、イコール、振られる、という方程式が、俺の中にイヤというほど染みついている。
 想いを告げることが、怖い。
 天志が自分のそばからいなくなるのが、怖い。
「お前だって、恋人くらいいるんだろ?」
 中條は、小さく光る右ピアスが示すとおりの同性愛者だった。
 背中までのばした緩やかなウェーブの茶髪と、整形美容のプロが見たらサジを投げそうなほど整った一見優し
げな容貌に、どこか妖しい雰囲気を持ったヤツだ。
 そんなヤツだから、共学にもかかわらず、遊び相手には不自由していないように見えた。
「特定の恋人はいないよ。俺は、健全なる片想い中だからね」
 冗談とも本気ともつかない口調で中條が言う。
「健全ね…、お前に一番似合わねー言葉だな」
 俺の方も、いつものように言い返す。
「高梁(たかはし)だって同類だろう? このごろ、女の匂いがしなくなったじゃないか」
「…!」
 にやりと悪戯っぽく笑った中條は、いきなり心臓が止まるようなことを言ってのけた。
 絶句した俺は、よっぽど驚いた顔をしてたんだろう。中條がプッと噴き出した。
「ダテに何年もゲイをやっているわけじゃないさ」
 匂い。天志も同じことを言っていた。
「実際は、恋人同士になれないことの方が多いんだ。君はラッキーだよ」
 どこか遠い目をして、中條は諦めたような口調でそう言った。
 中條も、苦しい恋をしているのかもしれない。


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