いつものように保健室の戸をノックすると、少しの間のあと、ドア越しにほんの少し緊張した声が返ってきた。
 戸を開けた先では、いつもより顔色の良くない先生がイスから立ちあがったばかりの様子で、何事もなかった
ふうに問い掛けてくる。
「どうしたんだ、またケガか?」
 俺は室内に他に誰もいないのを確認すると、後ろ手で鍵を掛けた。
 カチリという音が耳に届いたのか、先生の表情が一瞬だけ強張った。
「別の用。昨日、忘れ物しちゃってさ」
 できるだけ明るく言った俺は、
「…なんだ、そんなことか。何を忘れたんだ? ビデオだったら、明日…」
いくらか警戒をといた先生に近づき、書棚に追いつめ、ボタンが二つ外されているシャツの衿をグイと開くと、
無邪気を装って言った。
「今、回収するからいい」
「!?」
 俺の腕から逃れようとする先生の両腕を壁に抑えつけて、鎖骨に顔を寄せると、強く吸いつく。わざと音をたて
て。
「バカ、やめ…っ!」
 すぐに唇を離し、彼の鎖骨の上に残った赤い跡を確認すると、にっこりと笑ってみせた。
「回収終了」
 先生が呆気に取られたように俺を見上げてくる。次の瞬間には視線が反らされ、
「…終わったんなら、手を離せ。力づくなんて、するのもされるのも好きじゃない」
彼の体温が離れていった。
「だったら、先生からして」
 自分の唇を指さして、ほらほら、とキスを誘う。
「何を言ってるんだ…?」
「キスくらいいいじゃん、恋人同士なんだから」
「こ、恋人…!?」
「エッチしたんだから恋人だろ。まさか、そんなつもりもないのに誘ったの?」
 呪縛の呪文を唱える。
 先生が答えられないのをいいことに、唇を合わせ、彼の逃げようとする舌を捕らえ、自分のそれを絡めた。
 延々と続くキスに息のあがった先生が腕を突っ張って離れようとする隙を見て、彼の白衣とシャツのボタンを
ひとつずつ外していき、白い肌に口づけた。
「もうやめろ、校内だぞ」
「校内じゃなかったら、いいの?」
 彼が抗議の声をあげようとしたところを、彼の下着の中に指を這わせ、弱い部分に爪を立てる。
「あ…! やめ…っ」
 遮るものなくこぼれた彼のうわずった声に、身体の芯が熱を持ちはじめる。
 予想もしなかっただろう自分の声に、先生は慌てて右手のひらで口を覆った。
 抵抗が弱まったのをいいことに、彼の胸の突起を舌と指でいじり、同時に熱く硬くなり始めている彼のものを
責めたてた。
「っ…ん…!」
 ゆっくりと壁をすべり落ちる彼を追いかけながら、指の隙間から漏れる色っぽい声と、必死でイクのを我慢しよ
うとしている表情に、自分でも驚くほど猛烈に鼓動が速まっていく。
「先生…」
 手の中のぬるぬるとすべる硬い感触と、自分のものとは違う熱さに、めまいがしそうだ。
 彼の温もりを、意識のある彼を、今この腕に捕らえている。
 興奮と、夢のような現実に、彼に触れる指が震えた。それが快感として伝わってしまったらしく、彼の指が俺の
腕にくいこんでくる。
 俺は全てをごまかすように、彼を解放に導いた。


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