スパイクは肩に沈んでいたフェイの顔を指で持ち上げて自分の方へ向かせ、再度唇を深く合わせた。
「ぅん……」
火照りも冷めやらぬ繋がったままの体はキスだけにも微かなしなりを見せ、スパイクが差し入れてくる舌にも段々と自ら応えてくるようになる。
唇を離すとスパイクは向きを変え、少し体を離して自分の両肩に乗っていたフェイの腕を取った。
脱力したフェイの体を支えながら、今度は自分が下になるようにゆっくりとベッドに体を倒していく。
「んっ…」
フェイの眉がぴくりと動き、自分の中で動く熱い塊りが与えてくる圧迫感に唇を震わせる。
「…フェイ。自分で動けよ」
「………え?」
気だるそうに顔が上がり、ぼんやりと潤んだ瞳で見つめられると、スパイクの中でむくむくと別の欲求が顔を出す。
フェイは最初何を言われているのかわからない、といった表情で彼を見返していた。
「今度はお前が動いてみろよ。…ほら、欲しいんだろ?」
そう言うと彼は彼女の腰を掴み、微かな動きで揺すり立てて刺激を与えた。
「はぁっ……んんっ……」
膣内を小刻みな振動で擦られ、フェイの眉がきゅっと寄せられる。浅くゆっくりと与えられる刺激は収まりかけたフェイの官能をちりちりとくすぶらせ、けれども決して決定的な快感には至らない程度に弄ぶ。
「んん……あん……」
縛られた両手が握り拳を作り、形のいい唇が噛みしめられる。ぴくぴくと体が反応するたび、つんと立ち上がった乳首がスパイクの胸板に擦れて甘美な疼きを生み出す。
「……もっと感じたいんだろ? ほら」
スパイクの掌がフェイの腰を揺すり、埋まったままの怒張で膣内をやんわりと撫で回す。
「んっ…!」
頬を染めて堪えるようにうつむいていたフェイだったが、じりじりと続くもどかしい刺激は、彼女の体の奥に否応なく染み込んでいき、ついさっきまで味わった蕩けるような恍惚感を呼び起こす。
頭の先まで突き抜けるような甘い痺れ、何もかも真っ白な渦に呑み込まれる絶頂の極み。男のたたみかけるような責めによって完全に快楽に染められつつあった体は、新たな快感を欲して疼く。
スパイクはあくまでフェイからの行動を待つつもりらしく、浅い刺激だけを送り続ける。
「んん……んっ」
奥歯を噛みしめて堪えようとするも、彼の手によって淫らに開かれた体は言うことを聞かず、中をゆっくりと掻き回されるもどかしさにとうとう根負けし、フェイはのろのろと上体を起こすと両手を彼の胸に押し当てた。
「くぅ…んんっ……あっ……!」
彼女の中はぴったりと熱い塊りで満たされ、彼の剛直が脈打っている感覚まで伝わってくるようだった。その感触に、既に何度かイってしまっている体はそれでも新たな快感を紡ぎ出す。腰を前後に動かすたびに沸き起こる甘美な波は再び彼女の意識を掻き乱す。
(やだ……あたし、なんで…こんなに……)
霞んだ意識の底でもう一人の自分が呟くが、快感の虜となって走り出してしまった体はもう止めようがなかった。
「あんっ……あんっ……!」
快楽を求める本能のままに腰を前後に滑らせ、そこから遡ってくる甘い電流に、白い喉が悦びに仰け反る。
スパイクは目先で弾む豊かな膨らみに両手を伸ばし、少し力を入れて揉みしだいた。掌の中で柔らかな果実が形を変えるごとにフェイの声色が変化する。その反応を見ながら無骨な指先で硬くそそり立った紅い蕾を摘み上げてこりこりと転がす。
「ひんっ! ああっ……あっ、ひゃぅっ……んんっ…!」
彼女の体が大きくしなり、涙混じりの喘ぎが発せられる。
自らが呑み込んでいる焼けた鉄棒のような楔と、無遠慮に乳房を這い回る掌。最も女を象徴する二つの部分を鋭く突き刺す官能の波に、彼女の性感は加速的に高まっていく。
髪を振り乱し、我を忘れて快楽を貪る表情は、下から見ていると更に淫靡さを増して見えた。苦痛を堪えるようにひそめられた眉と裏腹に、紅潮して色づいた頬と唇は何かをせがむように艶めいている。
自分の上で淫らに体を躍らせるフェイの痴態が男の雄を煽らないはずもなく、スパイクは喉を鳴らすと彼女の腰を掴んだ手に力をこめ、自らも下から突き上げる。
「あんっ! はぁ……ああっ!」
不意に下からの突き上げを受けてフェイの背中が反り返る。浮き上がった腰が沈むとまた苦しげに喘ぎ、それでも更なる快感を得ようと艶めかしく体をくねらせる。
「あっ、あっ……そこ……いいっ……はぁんっ…!」
羞恥も忘れてひたすら突き上げる欲求のままに腰を蠢かせ、蓄積されていく快感のさざ波にさらわれ、フェイはまた昇り詰めようとしていた。
「いいっ……あっ……イく……イくぅ……あぁっ…!」
ぴん、と両腕が伸び、背中がぶるぶると引きつる。
「……はぁっ……はぁ……」
切れ切れの息を消え入りそうな声と共に押し出した後、力が抜けた体はくたりとスパイクの上に倒れこんだ。
ぐったりと彼の胸に頭を預け、達した余韻に身を委ねるフェイ。
彼女の腰を掴んでいた手を片方背中に回し、しっとりと湿った黒髪をもう片方の手で梳く。女の甘い汗の匂いがふわりとスパイクの鼻をくすぐった。
普段は勝手気ままな自分本位の傲慢な面しか見せない女が、華奢な体を彼に寄せて震える瞼を閉じている姿は、それまでの行為の結果とはいえ、まるで甘えているかのような仕草を思わせる。
体にかかる彼女の重みを心地良いと感じ、柔らかな肌の温もりと胸元にかかる悩ましげな吐息に、愛おしさにも似た感情すら覚える自分がいることにスパイクは一瞬戸惑ったが、それも薬のせいだろうと思い直す。
そうでなければ、あり得ない。自分が、この女を可愛いと感じることなど。
もやもやした感情を吹っ切ろうとするように、スパイクはフェイの体を抱きかかえて上半身を起こした。
体を預けたままのフェイの背中を撫でながら彼女の手を取り、まだ手首を縛っていたネクタイの結び目を引っ張って拘束を解く。
するりとネクタイがベッドに落ち、ようやく自由になった両手首には、もがいた時にできたのだろう紅い跡が筋のように走っていた。
拘束を解かれ、少し顔を上げてフェイが快感の名残に潤んだ空ろな目で自分を見返す。薄紅色に火照った頬に湿り気をまとった黒髪が張り付き、艶っぽさを強調するかのようだった。瑞々しい唇をもう一度塞ぎながら、背中と肩に手を回し、汗で張り付くようにしてまだ未練がましく引っかかっていたシャツとトップス、そしてサスペンダーを払い落とす。既に本来の役目を失っていたそれらは難なく彼女の肌から離れていった。
一糸纏わぬ姿になったフェイの裸身を抱きしめ、更に深く口づける。
「んん…ん」
彼の逞しい腕の中に閉じ込められ、熱い唇の感触に弄られて閉じられた睫毛がぴくりと震えた。
差し入れられる生温かいぬめりに自らも舌を差し出し、ねっとりと絡めていく。
もつれ合った舌を通して行き交う唾液の立てる音が、聴覚をも刺激して二人の体を熱くする。
角度を変えては何度も深く唇を合わせながら、両手をフェイの背中から腰、腹から胸へと移動させて愛撫する。
「ぅん……」
掌が触れたところから伝わるくすぐったさにも似た心地良い感覚に、塞がれた口から出ることを遮られた声は鼻から抜ける。
長く深いキスの後、名残惜しそうに離れた唇からねっとりと透明な糸を引く舌を引き抜き、頬から首筋へと順に唇を這わせ、強く吸う。紅い跡をところどころに残しながらきめ細やかな肌の感触を味わう。背中に回った手が緩やかな背骨のラインを上下になぞる感覚に、フェイの体がぴくんと跳ねる。
「っん……あっ……!」
胸の膨らみへと移った愛撫の手は、下から持ち上げるようにして双乳を揉みほぐす。張りのある乳房がスパイクの手の中でひしゃげ、瑞々しい弾力を持って彼の手を押し返す。その感触を楽しみながら両の乳首を指先で挟み、押しつぶしては引っ張って擦り上げる。
「やん……んんっ……あぁっ…!」
力の入らない両手が縋りつくようにスパイクの肩を掴む。
掌の愛撫に加えて唇も双丘に這わせ、紅い真珠を唇の中に含んで転がし、舌先で何度も舐っては強く吸う。
自分の施す刺激に素直に反応してくるフェイの甘やかな声と誘うようにくねる体に、スパイクの中で再び激しい欲情の渦が滾り始める。
半ば押し倒すように彼女の体をベッドに横たえ、両足を持ち上げてV字の形に開かせる。
「あ……やっ……!」
いきなり大きく脚を開かされ、フェイが恥ずかしさに弱々しい抵抗の声を上げるがスパイクは気にも留めず、膝立ちになってしっかりと彼女の両脚を抱え、そのまま律動を開始した。
「あぁん! あっ……あっ、んん……くぅっ…!」
再開された抽送によって送り込まれる甘い刺激が、乾いた砂に染み込む水のように、次々とフェイの体に吸収されていく。
力なくシーツの上を滑った両手はぎゅっと食い込むように握られ、男の剛直が深く捻じ込まれるたびに腰がびくびくと浮き上がる。
スパイクは脚を持ち上げて力強い抽送を続けながら徐々にテンポを上げていく。両手で掴んだフェイの脚を時折揺すっては腰を回し、角度を変えて打ち込むと彼女の鳴き声はより甘く耳に響き、掻き回される肉襞は彼を奥へ迎え入れようとしてざわめき、絡み付いてきた。
根元まで深々と突き入れるたび形を変えて彼に応えてくるかのような締め付けに、スパイクはますます昂揚して行為に没頭していく。
視線を落とせば、ぐっしょりと濡れてヒクヒク蠢く秘裂を出入りする自身が、愛液にまみれていやらしくてかっているのが見える。それは言いようもなく淫猥な光景だった。
「…見ろよ、こんなに嬉しそうに銜え込んでるぜ。もっともっと欲しそうにな」
「!! ん、んんっ! ぃやっ…ぁっん、やぁっ、ちが……ああん!」
荒い息の下から聞こえる愉しげな男の声に、快楽に翻弄されていたフェイの意識が現(うつつ)に引き戻される。咄嗟に頭を引き上げるが瞬間彼女の目にも結合部のそれが映り、顔が耳まで真っ赤に染まる。
思わず押し出そうとした否定の言葉は、それを遮るように深く打ち込まれた衝撃によって喘ぎに変わってしまい、持ち上げた頭は再び枕に沈み込む。
「イヤ、いやっ…ダメ…んっ、んぁあっ!」
「何が嫌なんだよ。こんなに悦んでるくせに」
彼女の反応を愉しむように、動きを緩めず抜き差しを繰り返しながらスパイクはなおも続ける。
「ち……あぅ! …や、め…あんっ! や……ひぁあっ!」
フェイは嫌々をするように首を振りながら必死に否定しようとしたが、彼女が言葉を紡ごうとするタイミングをことごとく狙い打ってくる男の意地の悪い責めに苛まれ、抗議の言葉はすべて途切れ途切れの喘ぎと変わってしまう。
じゅく、にゅるっ、ぬぷっ。
男が腰を打ちつけるたびに洩れ聞こえる卑猥な音が、ますます彼女の羞恥心を刺激して追い詰める。
「あぅっ、はぁっ…ああっ! ダメっ、こんん…なのっ…ひゃぅっ!」
きつく閉じた目尻に涙すら滲ませ、懸命にかぶりを振る女の乱れようが荒ぶる情欲の炎を加速度的に煽る。
開かせた彼女の両脚を腰ごと持ち上げるようにぐっと引きつけ、自らの腰を激しく打ち付けて埋め込んだ怒張で深奥を抉り抜く。
「っは…、んんっ……ん───っ…!!」
息を詰めて全身をわななかせるフェイの膣がぎゅうっと収縮する。その断続的な締め付けに男の背筋を愉悦の波動が駆け上る。
ざわざわと温かくまとわりつくぬめりの感触は、引き絞るような悦楽の後に彼を抱き包むような快さを与えてくる。
その感覚は久しく味わったことのなかった心地良さを彼にもたらし、いつまでも包まれていたいような恍惚感を呼び起こす。そして同時にそれはもっともっと彼女を味わっていたいという欲求へと変換されていく。
激しく胸を上下させている女の視線は焦点の定まらないまま宙を彷徨い、開いた唇は酸素を取り込む役目のみを最優先しているようだった。
それでも彼を受け入れたままの膣壁は達した余韻を残してぴくぴくと痙攣し、収縮を繰り返す。
一度大きく息を吐き出し、ベッドに手をついた姿勢でしばらく間を置いた後、男は組み敷いた女の惚けたような表情を見つめ、頬に手を添えると少しだけ口の端を上げて言った。
「…まだまだ、だぜ。こっちはまだ全然満足してねえんだからな」
その言葉にフェイの瞳が怯えにも見える色を孕んで揺れ、力なく左右にかぶりを振る。
「……だめ…、お願い…、もう……」
縋るように見つめる表情が何とも艶っぽい。それが逆に男の劣情の火に油を注ぐ結果になるとは知るよしもなく。
言葉が終わらぬうちに男の顔がぐっと近づき、その雄の色をぎらつかせた瞳に言葉を途切れさせた女の唇を、無骨な指先がねっとりとなぞる。
「駄目だ。お前が播いた種なんだからな。今日はとことん最後まで付き合ってもらうぜ」
愉しそうに笑う男と、抗う術もなく、男の腕の中に囚われた女。
「い、いや……んっ…!」
男の胸に押し当てようとした力の入らない腕はあっさりと捉われ、男が貪るままに唇を奪われる。
これ以上は耐えられないと怯える心に対し、刺激を与えられれば奥まで濡れた体はすぐに悦びに反応してしまう。
それでもわずかな意思を示そうとするかのように嫌々をする女の耳元で、低い声が囁く。
「逃がさねぇよ」
笑みを含んだ男の言葉が、冷たく彼女の耳に谺する。
けれど、どこか遠くから聞こえるようなその声に、体がぞくりと震えてしまうのはなぜなのか。もう彼女にも、わからなかった。 |