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部屋に戻ったスピカはドキドキしてしまうばかりだった。
いきなりラグリアが来るだなんて・・・・・仮にもこの王国で一番偉い人の相手をするだなんて・・・・スピカは想像もしていなかった。
元々このような王国、といったような所とはまるで無縁だったスピカは自分でも驚いてしまっているのだ。自分がこうして大王国に来て娼婦をすることになったことを。
いや、元からいえば、自分が娼婦になることも予想だにしていないことだった。アトラスとの出会いはスピカの人生を大きく変えることになった。
あの時スピカは18歳・・・・アトラスと出会ったのは2年前のことだった。スピカはさらわれたような感じでアトラスに連れて行かれたのだった。馬車の中に押し込まれて、猿轡をされ、縄で縛られて・・・・・本当に怖かった。抵抗してもまるで駄目で・・・・・あのまま殺されてしまうのではないかと思ってしまった位だった。
だがアトラスの家に着いてから、アトラスはスピカに自由をくれた。ただし「娼婦」として教育されることを条件にして・・・・・・
それまでスピカは小さな村で、極普通に生活していたただの平民の娘でしかなかった。アトラスに「逸材だ」と言われてしまい、「俺が最初からおまえを育ててやる。たっぷりと、時間をかけてな・・・」と宣言をされ、それからスピカはアトラスに強姦されたのだ。
あの時のことを考えると今でも震えが止まらなくなる。もちろんこのような行為に及んだことはスピカにとって初めてのことだったから・・・・・・本当に悲しかった。あんな形で処女を失ってしまったこと・・・・・娼婦として教育されてしまったこと・・・・・・
だがもう時は経ってしまった。スピカはアトラスに何度も抵抗したが、それは叶わなかった。アトラスは出かけることが多かったので、その目を盗んでよく逃げたりもした。だが必ず即日に発見されてしまうのがオチで・・・・・その後たっぷりお仕置きをされた。縄で縛られて薬を飲まされ、ただアトラスの玩具にされるままで・・・・・・
それでもこうして今までアトラスについてきたのは・・・・逃げても連れ戻され、抵抗出来なかったのもあるが・・・・時折見せてくれるアトラスの優しさが嬉しかったのもあるのだろう。
いつも暴力を振るっていたアトラスが時に優しくしてくれたことがスピカは嬉しくて・・・・・・アトラスにもっと自分を感じて欲しくて・・・・・そう、あれは恋だったのだ。決して叶うことのない恋。
アトラスが自分のことをただの玩具として、娼婦として教育していることが分かったから。こんな気持ちを抱いた所でアトラスがまともに応えてくれることがないと分かっていた。それでもスピカは・・密かにずっと、アトラスに恋をしていた。
だが今はよく分からない。レグルスとこうして出会い、初めてアトラス以外の男性と触れ合って・・・・・しっかり感じてしまっている自分がいたから・・・・アトラスと離れたこともあって、その気持ちが少しずつ薄れてしまっている気もする。
そして今日はラグリア・・・・・スピカはラグリアのことを考えて、また緊張感を覚えてしまった。
ラグリアが苦手な訳ではない。ただあの眼差しが冷たく少し怖いのだ。それに「王様」と考えただけでスピカとは天と地ほども違うことを考えてしまうと、複雑な気持ちにならずにはいられなかった。
それをいえば大臣職にあるレグルスもそうなのだが・・・・レグルスはあらかじめ「身分差を気にしないで欲しい。」と言ってくれていたので何とか「自分らしさ」を出していられたものの・・・・本当にラグリアのことを自分は満足させてあげられるだろうか?アトラスに育てられた娼婦として・・・仕事をこなせるのだろうか?
スピカがそんな不安を抱いていた時、ドアがノックされた。

「は、はい!?どうぞ。」
「失礼する。」

カチャッとドアを開けて入ってきたのは、その考えていたラグリアだった。お昼時に会った時とは違う薄手の衣装であったが、放つ高貴さは誰よりも気高かった。

「あ・・ラ、ラグリア様。ようこそ、いらっしゃいました・・・・」
「あぁ・・・・・」
「え、えっと!お茶でも、どうですか?」
「・・そうだな。もらえるか?」
「あ、は、はい!」

スピカは慌ててバタバタとしながらクローゼットからお茶の葉とポット、ティーカップを取り出す。
お湯は既に入れていたのですぐにお茶の葉を入れ、コポコポと注ぎ込む。ラグリアは何も言わず、黙ったまま椅子に腰掛けていた。微動だにしていない。
スピカは緊張しながら淹れたお茶をラグリアに差し出した。

「どうぞ。少し熱いと思いますが・・・・」
「あぁ、構わぬ。」

そうしてラグリアはゆっくりと静かにスピカの淹れたお茶を飲んでいた。スピカもラグリアの隣に腰掛け、お茶を飲む。
緊張していてどう話を切り出せばいいか分からなかった。そのような話術も一応アトラスに教育されてはきたのだが、どうもスピカは内気な面があり、自分から話し出すことが元から苦手だったりする。
どうしようかとスピカが考えている間にラグリアが横目でスピカを見ていた。

「・・・緊張・・しているのか?」
「えっ!?」
「そこまで気を遣わずとも良い・・・・そなたは、私が怖いか?」
「えっ!?あ、えっと、その・・・・」
「怖がらせているつもりはない・・・・だが、これが元からの顔ゆえ・・悪いが諦めてはもらえぬだろうか?」
「あ・・え、えっと、そんな・・・・大丈夫です・・・」

というかむしろラグリアは美男である。ラグリアの顔が怖いのではなく、むしろ怖いのはラグリアの放つ独特の冷たいオーラなのだ。

「・・あまり大丈夫そうな顔をしているように見えぬが・・・・」
「えっ!?そ、そんなことはないです!す、すみません・・私の方こそ、何だかとてもお気を遣わせてしまって・・・・」
「・・構わぬ・・・・先ほどアルビレオに、謝るよう言われてきたのでな。」
「えぇっ!?アルビレオさんから・・・!?」

スピカは驚いてしまった。

「そうだ。あの者は何かにつけてうるさいのだが・・・・まぁ、言うことが的を射ているのでな・・あの者には誰も逆らわぬ・・・フッ。この私でも、だ・・・・」

とラグリアは言って初めて微笑を浮かべた。スピカはラグリアが初めて微笑んでくれたのでドキッとしてしまった。
ラグリアの微笑はとても優しかった。それと同時に一気に冷たく怖い雰囲気がなくなる。スピカは思わず見とれてしまっていた。
そして改めてよく見てみて・・・・ラグリアとレグルスは何か似ている気がしてしまった。髪の毛の色や瞳の色が同じせいもあるのだろうが・・・・微笑んでいる時の目元がとてもよく似ている気がしたのだ。
失礼かもしれないが、試しにスピカは聞いてみることにした。

「そうなんですか・・・・あ、あの、ところで・・・いきなり失礼かもしれませんが・・・ラグリア様とレグルスさんは・・・よく「似ている」って言われませんか?」
「・・・・私と、レグルスがか?」
「はい、そうです。何となく、なんですけど・・・・特に微笑んでらっしゃる時の目元が、よく似てるなって思ってしまって・・・・」
「・・・いや、そなたの目に狂いはないだろう・・・・これでも私とレグルスは、血の通った兄弟だ。」
「ええぇぇ〜〜っっ!?」

思ってもみなかったことを言われてしまったスピカは驚いてしまった。いや、初めて見た時からラグリアとレグルスが似ていると思ってはいたが・・・・まさか本当の兄弟だとは思わなかった。
それにしては放っている雰囲気があまりにも違いすぎる。それに・・・それならレグルスは・・大臣?おかしくないだろうか?ラグリアと兄弟だというのなら・・・・レグルスは間違いなく王族ということにはならないだろうか?

「フッ・・・それほど、驚くようなことか・・・・?」
「は、はい。ビ、ビックリしてしまいました・・・・とても、意外です・・・・」
「だが・・私とレグルスが似ていると言ったのは、そなた自身だぞ?」
「あ・・・それは、確かにそうなんですけど・・・アハハハハ・・・」

それを言われてしまうとスピカも苦笑せざるを得ない。ラグリアもまた微苦笑しながら口を開いた。

「・・まぁ・・そなたが驚いたのは・・・なぜレグルスが私の臣下なのか、ということだろう?違うか?」
「あ、は、はい。あの・・・レグルスさんは・・・・」
「・・そなたの察し通り・・あの者は元々私と同じ王族だ・・・・本来ならば、王子として君臨する者だ・・・・」
「・・・どうして・・・大臣様に・・・・?」
「・・・・占いの結果だ。」
「えっ!?」

これまた思ってもみなかったことを言われてしまい、スピカは驚いてしまった。

「この王国では、占いが重要な力を持っている・・・・その者に定められし運命を見るのは占いだ・・・・その占いで、あの者は・・・・王族としてこのままいたら、運が悪くなると判断された・・・・その対処法が・・臣下への下りだ。」
「!・・は、はい・・・・」
「・・・元々あの者は、身分などあまり気にする者ではなかった・・・・ゆえに大臣職をあっさりと受け入れ、今に至っている・・・・・だが本当は・・心のどこかで私のことや、占い師を憎んでいるのだろうな・・・・・」
「あ・・は、はぁ・・・・・」

まさかレグルスにそんな過去があったなんて・・まるで分からなかった。本当は王族だったのに退けられ、大臣になってしまったなんて・・・・・あのレグルスの優しさと暖かさを考えても想像出来なかった。
初めてレグルスを見た時から常人とは何か違う印象を持ってはいたが・・・・・それは王族としての名残なのだろう。


  

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