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「大丈夫!?スピカちゃん!!あぁ〜、え〜っと応急処置は〜・・・・」
「これを使ってごらん?ほら。」
そう言ってこの男性が差し出したのは絆創膏だった。
「あ、助かります〜。お借りしていいですか〜?」
「あぁ、もちろん構わないよ!フフッ・・君たちのお役に立てるというのなら尚更、ね。」
と言ってこの男性はウインクした。アルビレオはそれを流して無視し、スピカの応急処置に努めた。
幸いスピカはちょっと膝をすりむいただけだった。血もそんなに流れていないし傷はとても浅かった。
「ごめんね、スピカちゃん・・・消毒液ないからさ〜、今はホント・・絆創膏あてがうって感じでね!後は医療センターで何とかしてもらってね、スピカちゅわん。」
「あ・・はい。すみません・・ありがとうございます、アルビレオさん。あの・・・ありがとうございます。」
スピカはアルビレオとこの絆創膏を差し出してくれた男性に礼を述べた。
「どう致しまして!とっても可愛い君のお役に立てて光栄だよ?レディー。名前は?」
「あ・・私は、スピカと申します・・・あの、あなた様は・・・・?」
「僕かい?僕はマクリスだよ。スピカ君、か・・・・君は本当に可愛いね。君と僕は今初めて出会った訳だけど・・・・つい最近ここに来たのかな?」
「あ、はい。そうなんです。」
「へぇ〜。職業は?」
「はい。えっと・・・・」
「ストーーップ!スピカちゃん!!・・・あんまマクリス様のゆーコトまともに聞かなくていいからね?スピカちゅわ〜ん。」
「えっ?」
「おやっ!また君はひどいことを言うね〜、アルビレオく〜ん。僕との約束を破ったばかりか、僕とスピカ君の愛の語らいの邪魔をするなんて!!」
「してませんしてません。ただあたしは最善の策を取っているだけです。スピカちゃんのよーな純粋な子にあなた様のよーな汚れが混じっちゃうといけないですから〜?」
「おやおや。僕が振り巻いているのは「汚れなき愛」なんだけどな〜?」
「・・・駄目ですねこれは・・・・」
そう言ってアルビレオはため息をついた。スピカも驚いてしまった。
どうやらこのマクリスという男性、相当なフェミニストなのであろう。どの女性にも「レディー」と言って女性を立てて、優しい言葉をかけている。どうやらあの熱い愛の言葉はアルビレオだけに振舞っている感じではないようだ。
レグルスと違い、優しい言葉をかけられてもスピカの胸の鼓動が高鳴らないのは・・・・・マクリスに本気さが感じられないからだ。フェミニストとしてすっかり女性に優しくすることに慣れきってしまっている感じだ。本気に恋する女性にはどうか知らないが・・・・そのような誠実さがマクリスからは感じられなかった。
「ねぇ、それよりスピカ君。怪我の手当なら医療センターなんかより、僕の方がうまいよ?さ、一緒に来ないかい?」
「えっ?あ、え〜っと・・・」
「駄目です!!あたしがスピカちゃんの保護者なんですから!あなた様だけにはスピカちゃんを渡す訳にはいかないんです!!」
「アルビレオく〜ん?どうしてそう君は僕とスピカ君の仲を邪魔するのかな〜?そんなに僕とスピカ君を遠ざけるなんて・・・・あからさまに僕に彼女に興味を持って欲しいって言っているのと変わらないよ〜?」
「ムッ・・・・どこをどーすればそーゆー解釈になるんですか、マクリス様・・・・」
「アハハッ!ウラの心理ってヤツだね。さ、アルビレオ君。観念して、僕とスピカ君に時間をくれないかな〜?君がそこまで僕に手を出して欲しくないレディーなら・・・ますます興味があるよ?」
「!マクリス様!!それだけは駄目です!!」
とアルビレオは一点張りに否定し、スピカを守るように抱き締めてくれた。スピカは少し驚いたものの、アルビレオがマクリスから守ってくれているのだろうと分かったから何も抵抗しなかった。
「まぁまぁアルビレオ君!スピカ君のことは、僕が責任持って面倒を見るよ。彼女を怪我させてしまったのには、僕にも少し原因があるのだし・・・・だから、今日だけ。お願い!!僕に、スピカ君を譲ってくれないかな〜?ちゃんとスピカ君の傷の消毒もするから!!」
「・・・・ほんっと〜に・・・今日だけですか?」
アルビレオはジトーーッとした目でマクリスを見て、更には「今日だけ」という部分を強調してマクリスに尋ねた。
「うん、今日だけだよ。だから、お願い!アルビレオ君!!!・・僕がこんなに一生懸命君に頼み込んでいるんだよ〜?たまには僕のお願いを叶えて欲しいんだけどな〜?」
そのマクリスの態度には誠実さがあまり感じられなかったが・・・・アルビレオは難しい顔をしてスピカを抱き締めたまま考え込む。
「・・・・まぁ・・あなた様とのお約束破っちゃいましたし〜?あたしだって一応鬼じゃないですから〜?今日だけは特別に許して差し上げますよ。さ、それじゃあスピカちゃん。行っておいで♪」
「あ、アルビレオさん・・・・」
そうしてアルビレオはスピカから離れた。だがその次の瞬間すごい勢いでマクリスがスピカのことを抱き締めてきた。
「あっ!キャッ!!」
「良かった!!良かったよスピカく〜ん!!!今日は僕とずっと一緒にいてくれるんだね!?さ、じゃあ早速行こう!!僕たちに残された時間は少ないよ!・・って、あ。君は足を怪我してしまっているんだよね・・・よし!それじゃあこうすればイイね!」
と言ってマクリスはスピカを抱きかかえた。お姫様だっこ状態である。
「あっ!!あの・・マクリス様。私、歩けます!!」
「アハハッ!そんなことを言ってももう駄目だよ?僕はね、君とこうしていたいんだ・・・・・それじゃあね!アルビレオ君!!僕はますます君のことが大好きになってしまったよ!」
「そーゆーデタラメ言わないで下さいってば!!後、くれぐれもスピカちゃんに変なコトだけはしないで下さいよ〜!?」
「アハハハハッ!それじゃあね〜!!チャオーーーー!!」
そうしてマクリスはスピカをお姫様だっこしたまま、早足歩きでアルビレオの前から去っていくのだった・・・・・・・・・・・
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