18
それから4日後のことだった。スピカはプレアデスの部屋に遊びに行っていた。
大食堂で初めて顔を合わせて以来プレアデスと仲良くなったスピカは、お城探検も一通り終えてこうしてプレアデスの部屋に遊びに行っていたのだ。
娼婦はどうしても午後のお昼は暇である。プレアデスがミルクティーとクッキーをスピカにご馳走してもてなしてくれた。
「うわぁ〜っ、ありがとうございます!いただきま〜す。」
スピカはつい嬉しくなってしまった。それというのも、スピカはミルクティーが大好きなのだ。
「ホ〜ント、あなたって単純ね〜。そんなに嬉しくなるものかしら〜?」
「そ、そんな・・・・大好きな物が出ると、嬉しくないですか?」
「ン〜まぁ、気持ちは分かるけど〜?あたし、あなたほど子供じゃないから。」
とあっさり言われてしまい、スピカは苦笑してしまった。
「あっ・・アハハハ。そ、そうですよね!あ・・ですが・・・・失礼ですが、プレアデス様は今おいくつでいらっしゃるんですか?」
「えぇっ?あたしは22よ。ウフフッ!レグルスと一緒なのよ。」
「あっ、そうなんですか。それじゃあ本当に・・何もかも私の先輩さんです。」
「そういうあなたは、今いくつなの?」
「20になりました。」
「あっ、そうなの!?あたし・・もっとお子様かと思ってたわ・・・十代だとばっか思ってて・・・・」
「えっ、本当ですか!?・・・私、そんなに子供っぽいのでしょうか・・・・」
そう考えてしまうと娼婦としてのイメージがマイナスになってしまう気がする。プレアデスは長い髪をサラッと手ではらいながら口を開いた。
「あなた・・そんなに胸大きくないものね。」
「うっ・・・・」
「ウフフッ!レグルスはね、巨乳好きなのよ〜?知ってた?ま、あなたなんかじゃあライバルにもなりゃしないし・・こんなコト教えたってどうしようもないけど。」
「あ、は、はぁ・・・・・」
まぁやはり男性なんてそんなものなのだろう。少し複雑な感じだが・・・確かにプレアデスやアルビレオに比べれば明らかにスピカの胸は小さいので反論することが出来なかった。
「最近レグルスはずっとあたしの元に来てくれてるのよ〜、ウフフフフッ!嬉しいったらないわ〜!!レグルスがあの日やたら嬉しそうにしてたからあなたのコト注意して見てたんだけど・・・・どうやらレグルスはあなたのコトあまり気に入ってないみたいね〜、ウフフフッ・・・ま、あなたはレグルス以外の男を相手にしていればイイのよ。噂では、あなたマクリス様と仲イイってゆーじゃない。」
「あっ・・アハハハ・・・そ、それは・・・え〜っと・・・・」
そう、マクリスと関係を持って以来、マクリスはまるでスピカの恋人のように振舞ってくれていた。
たまたまどこかで会うと「今日のキス」とか言われて人前構わずにいきなりディープキスをされて・・・・・何となく嬉しかったが・・スピカとしてはそれ以前にとても恥ずかしかった。
マクリスも冗談交じりにやっていることがよく分かっていたし、スピカの方もマクリスのことを決して嫌っている訳ではなくむしろ好きなのだが・・・恋としての「好き」とは程遠い感情の為、何だか・・・・妙といえば妙な2人の仲なのである。
だがプレアデスみたいに周囲では完全に恋人同士だと思われているみたいで・・・・・悪いことだとは思わないのだが・・・・何となく居心地は良くない。
「そういえば・・この間も大食堂でキスしてたわよね〜。ウフフフッ!まぁイイんじゃないの?マクリス様って、あぁ見えて次期王様なんだってんだから、世の中分からないわよね〜。」
「えぇっ!?マクリス様が・・ですか!?」
スピカは驚いてしまって、危うく飲んでいたミルクティーを吐き出してしまいそうになった。
「そうよ〜。何?あなた・・まさか知らずにずっとマクリス様と接してたワケ〜!?信じらんない!!あなた娼婦だったらもう少し自分を抱いてくれる男のこと位調査しなさいよ〜。アトラス様に言われたでしょ〜?「相手を知れ。」って・・・・」
「あ・・・そ、それは・・そうなんですけど・・・・私・・そういうのが・・苦手で・・・・・」
「「苦手」ってあなた・・・・苦手でも娼婦になった以上やらなきゃいけないわ。まぁ・・こーしてあたしと世間話して情報掴むのもイイけど、今みたいに都合よく情報があちこちから出るワケじゃないんだし・・・・もっと相手してくれてる男から直接聞き出しなさいよ〜。」
とプレアデスに少し怒られてしまい、スピカは反省した。確かにプレアデスのいうことは最もであるし、アトラスにもそのことで怒られたことがある。
「は、はい・・・・精進、します・・・・」
「・・・ま、あなたなら努力すればもっと光るわよ。で〜も!!あたしのレグルスはずうぇ〜ったいに渡さないんだからね!!」
「ア、アハハハ・・そのことに関してなら大丈夫ですよ〜。本当に私・・初日以来、レグルスさんのお相手をしていませんから。あ、なんでしたら・・私、プレアデス様とレグルスさんの恋応援しますか?」
「えぇっ!?ホント〜!?ちょっとあなた・・それ冗談じゃないわよね〜?」
「はい・・・・その、こんな私でよろしければ・・応援したいです。」
「気持ちは嬉しいけど・・・それだったらあなたはどうなの?やっぱマクリス様狙い?手伝うわよ!」
「えっ?あ、私は・・え〜っと・・・・」
いきなり自分自身の恋の話になってしまってスピカは困ってしまい、どう答えようか考えたその時だった。
コンコンとプレアデスの部屋のドアをノックする音。プレアデスは「はーい、どうぞ〜!」と言ってそれに応じた。カチャッとドアを開けて入ってきたのは・・・・・・・・
「あっ!!レグルスじゃな〜い!!!キャーーーーッッ!!!こんなお昼から会えるなんて、あたし幸せよ〜!!レグルス〜!!」
「!・・・・・・」
そう、何とそれはレグルスだった。
時間は午後の3時過ぎ。本来なら執務中の時間の筈だ。スピカもこれには驚いてしまった。だがプレアデスはそんな驚きを退いて真っ先にレグルスに抱き着いた。
「やぁ〜プレア〜。私も、おまえに会えて嬉しいよ。フフッ、スピカも・・探したよ?ここにいたんだね。」
「えっ!?あ、はい・・・わ、私を・・ですか?」
スピカはますます驚いてしまった。一体今更自分に何の用なのだろう?
「そう、おまえをだよ。いや〜、最近おまえと一緒にいなかったから・・・・大食堂で時々会ってはいたけど・・気になってしまってね〜。」
「・・ねぇ、それよりレグルス〜。あなた・・仕事は大丈夫なの?」
「フフッ。しばらく残業が続いていたからね。これから4、5日は午後がフリーなんだよ。」
「えっ、ホントに!?それじゃあレグルス・・・・」
「あぁ〜。2人揃っているから、まとめて面倒を見てあげようか?」
と、いきなりそんな風に話が展開されると思っていなかったので、スピカは慌てて立ち上がった。それにプレアデスとついさっき約束したばかりである。「レグルスとの恋を応援する」と・・・・
「あ、あの!!わ、私はいいです!!その・・お2人のお邪魔になってしまいますし・・・・」
「・・スピカ?」
驚くレグルスを尻目に、プレアデスは親指を密かにガッと上げていた。
「あ、あの、プレアデス様。ご馳走様でした・・・その、お片づけは・・・・」
「あぁいいのよ〜、後でしておくから。まったね〜、スピカ〜!」
「あ、は、はい!それでは失礼して・・・・」
「待ってスピカ!!」
と言って、慌てて部屋から出ようとしたスピカを後ろから抱きとめたのはレグルスだった。
「え・・・っ・・・?」
これにはスピカはもちろん、プレアデスも驚いていた。
「・・言っただろう?私は・・おまえに用があったんだけどな〜。最近のおまえは本当に冷たいよ?私が・・おまえの元に行っていないせいかい?」
「!え、えっと・・・・・」
「・・・・悪いねプレア。私は・・スピカとちょっと話したいことがあってね。おまえは・・また明日にでも・・ね。」
「!レグルス・・・・・」
レグルスはそう言ってスピカが逃げられないようにお姫様だっこをしてしまった。
「えっ!?あの・・レグルスさん!?」
「じゃあ、お邪魔して悪かったねプレア。またね。」
そう言ってレグルスはスピカをだっこしたまま去って行ってしまった。プレアデスは唖然としてしまった。
「何なのよ、レグルス・・・・でも・・レグルスがあの子を必要としてるなら・・仕方ないわ。今日だけは諦めてあげるわよ・・・・どうせ、あの子が敵になんてなるワケないんだもの・・・・」
|