27

「ラグリア様。準備が整いましたよ。」
「そうか・・・・ではスピカ。私はここを離れるが・・・そなたはまだここにいるのか?」
「えっ?え・・っと・・・・」
「一応・・私はいるけどね、スピカ。フフッ・・・私と、イイことでもするかい?」

と、いきなり色っぽい瞳でレグルスがスピカを見つめてきたのでスピカは驚いてしまった。それをラグリアが厳しい眼差しで見る。

「・・レグルス。そなたは・・・・」
「あぁ、すみませんラグリア様。私の性分で・・・・」

と、レグルスがウインクしてラグリアにそう言った。

「全く・・・・そなたといいマクリスといい、なぜそれほど無節操なのだ・・・・?」

と、ラグリアが眉を吊り上げてレグルスにそう言った。スピカは声にこそ出さなかったが、つい苦笑してしまった。

「無節操、というか・・・・私とマクリス様を一緒にしないで下さいよ。私が誰にも変えられないほど愛しているのは、スピカだけなんですから。」
「・・・・そなたは・・どうやら本気らしいな・・・・」
「えぇ。そうですね・・・」
「・・・まぁ良い。ではな。」

と言ってラグリアは奥の部屋にミャウと共に行ってしまった。明らかにラグリアは何か言いたそうだったが、ミャウが甘えていることもあったので急いで行ってしまった。スピカはそんなレグルスとラグリアのことを見ていて少し驚いてしまった・・・・何だか妙な感じがする。ラグリアが言いたそうにしていたことは何だったのだろうか?

「フフッ、スピカ・・・・本当に、ここに残るのかい?そうだとしたら・・今すぐ、おまえを抱いてしまうよ・・・?」

と、レグルスがスピカに近付きながらそう言った。スピカはラグリアが何か言いたげだったのが気になってしまったのとレグルスが妙に色っぽい瞳で見つめてくるものだから困ってしまっていた。

「えっ!?あ、え、え〜っと・・わ、私は、その・・・・」
「フフッ。まぁ、今日はおまえと過ごすことを強要はしないけど・・・・おまえさえよければ、今すぐ一緒にいたいね・・・どうかな?今日はこれから仕事の予定もないし・・・・」

レグルスにそう言われてしまうとスピカも弱い。もちろんスピカだって今夜誰と過ごすかなんて予定は全くない訳で全然OKなのだが・・・・・ふと思いついたのはプレアデスだった。
そういえば最近スピカはレグルスと一夜を共にすることが多くなった。プレアデスはそのことを知っているのだろうか・・・・・?一応スピカはプレアデスにレグルスとの仲を応援すると宣言してしまった以上、ここは先輩のプレアデスの肩担ぎをするべきだろうか・・・・・?スピカは悩んでしまった。

「え〜・・っと〜・・・・」
「・・迷っているのかな?」

スピカの様子を見たレグルスがそう尋ねてきた。

「あ、その・・はい。えっと・・・レグルスさん。最近・・プレアデス様とは、どうですか?」
「どうって言われてもね〜。別に、プレアとはいつも通りだけど?」
「あ、は、はぁ・・・・・」

馬鹿な質問をしてしまったとスピカは思ってしまった。そうではないだろうと自分に言い聞かせても、一度出てきてしまった言葉は取り返せない。

「フフッ、どうしたのかな・・・?もしかして・・・プレアに頼まれているのかな?私との仲を取り持って欲しいって・・・・」
「えっ!?」

スピカは驚いてレグルスを見てしまった。

「おや?図星かい?」
「えっ!?い、いえ、違います!!その、ですけど・・・・あの、レグルスさんは・・プレアデス様のお気持ちは・・・・」
「あぁ・・・プレアは私のことを愛してくれているみたいだね。その気持ちは、とてもありがたく思っているよ。」
「!!」

レグルスはプレアデスの気持ちを知っているのか。だとしたら、なぜスピカのことを「愛している」などと言ってくるのだろうか?プレアデスの気持ちはどうなっているのだろうか?スピカは気になってしまった。

「おや?何をそんなに驚いているのかな?スピカ。」
「あの・・プレアデス様のお気持ちを知ってらっしゃるのなら・・・・プレアデス様の所に行くべきだと思うんですけど・・・・」
「あぁ・・・でも、私が愛しているのはおまえなんだけどな〜?」
「・・あの・・・・なぜ、私なんですか?私は、そんな・・・・レグルスさんにとって・・そんな大きい存在だとは・・思えないんですけど・・・・」
「そうかい?・・・う〜ん。おまえには・・・まだこの私の気持ちは・・理解してもらえないのかな・・・・?」
「えっ・・・・・?」

そう言われるとスピカはドキッとしてしまう。スピカはついレグルスを見つめてしまった。レグルスもまた、微笑を浮かべながらスピカを見つめていた。だがその微笑はいつものレグルスの余裕ある微笑とは違う・・・・悲しげな微笑だった。

「・・・・ねぇ、スピカ・・・おまえは・・アトラス様のことを、愛しているんだろう?」
「!!!」

スピカは驚いて目を見開いてしまった。レグルスはスピカのアトラスに対する恋心を分かっていながら、それでも尚こうして自分に愛の告白をしてくれていたことになる。

「フフッ・・そんなに驚いた顔をしてしまって・・・・私がおまえの気持ちに気付かないとでも思ってたのかい?」
「あっ、あの!!!ですけど私・・・そんな、こと・・・・レグルスさんの前で、お話したことは・・・・」
「あぁ・・おまえとアトラス様の話をしたことはほとんどなかったね。でも・・・・アトラス様と別れる時、おまえは本当に寂しそうな顔をしていたよ・・・・?それは、今まで育ててくれた人と離れるという寂しさもあったんだろうけど・・・・1人の恋をする女性として悲しかっただろう?私には・・それが分かってしまっていたから・・・・・」
「!・・・・は、はい・・・・」

自分でも何となく分かっていた。昔確かにアトラスに対してスピカは恋をしてしまっていた。最初の印象は最悪な人だったのに・・・・いつの間にかそれが、恋に変わってしまって・・・・・
でもアトラスを見ていて、すぐにこんな自分の気持ちに応えてくれる人じゃないことが分かっていたから・・・・だからスピカは何も言わず、ただアトラスのされるがままになったのだ。アトラスの為なら何をしても良かった。
だが今のスピカは・・・・・アトラスと離れたことで気持ちを新たにしていた。正直言って、アトラスとの恋は元から諦めていたことだからそれほど強い想いを抱いている訳でもなかった。ただやはり未練がないかと言われればそれは違くて・・・・・・

「・・フフッ。だから私はアトラス様にも言っただろう?おまえを手放すのが惜しくないのかってね・・・・」

とレグルスは言ってスピカのことを優しく、暖かく抱き締めてくれた。

「!はい・・・・」
「フフッ・・・ねぇ、スピカ。おまえは・・・アトラス様にもう1度会いたいかい?」
「えっ?」

レグルスはスピカを抱き締める手に力を込めてそう尋ねた。

「・・・・もしアトラス様に会えれば・・・おまえはその体を・・アトラス様に委ねるだろう?」
「!それは・・・アトラス様が、望んで下さるのなら・・・・・」
「・・・ハァ〜・・・・アトラス様はずるいよね・・・・おまえの気持ちをこんなに弄んで・・・・私にこんなつらい恋をさせて・・・・」
「!・・・レグルス、さん・・・・」
「・・・私は・・どうやらまだ、アトラス様に勝てそうにないよ・・・・・おまえのその気持ちを・・聞いてしまった以上はね・・・・フフッ。もちろん諦めるという訳ではないよ?ただ・・・今日はもう・・これ以上、おまえの姿を見ていられなさそうだから・・・・」

とレグルスは言って急にスピカから離れて後ろを向いた。スピカは突然レグルスがこんな態度を取ったのでどうしたのかと思った。

「あ、あの・・レグルスさん?」
「・・・・そうだね・・・今日はおまえのアドバイス通り、プレアの所に行こうか・・・・じゃあね、スピカ。」

そうしてレグルスはマントを翻して、スピカの方を見ないまま謁見の間を出て行ってしまった。

「えっ!?あの・・レグルスさん!?」

スピカはいきなり去って行くレグルスに呼びかけたが、レグルスは振り向きもせずそのまま行ってしまった。いきなり底なし沼に落ちてしまったような感覚に捕らわれたスピカだったのだが、その時奥の部屋からミャウを抱えてやって来たのはラグリアだった。

「・・スピカ・・・・」
「!!あ・・ラグリア、様・・・!?」
「・・・・今はレグルスの名を呼ばぬ方が良い・・・・あの者は・・激しい嫉妬に駆られている・・・・・」
「えっ?」
「・・・自らの愛を否定されたも同然なのだからな・・・・フッ・・スピカ。あの者は泣いていた。」
「えっ!?」

スピカは驚いてしまった。レグルスが・・・泣いていた・・・・!?

「あぁ・・・最後の方、そなたの方を見ようとしなかったのは・・そなたに気取られたくなかったからだろう・・・・・あの者は常にそうだ・・・・常に余裕を見せてはいるが・・あれは見せ掛けだ。あの者の心はとても脆い・・・・・過去の経験が、そうさせているのだろうな・・・・」
「えっ?過去・・に?」

スピカは驚いてラグリアの方を見た。ラグリアもまたスピカの方を見たが・・・・その表情は気高く、また厳しいものであった。

「そうだ・・・・・未だにあの者にとっては・・深い心の傷となっているようだ・・・・・」
「・・ラグリア様・・・・・」
「ミャ〜ッ・・・・」

ミャウも何だか寂しげに小さく鳴いた。やはり言葉を解しているのだろうか?それともこの場の雰囲気を読み取っているのだろうか?
スピカはそのレグルスの過去の話を聞きたいと思ったが、ラグリアのこの冷たく整った眼差しを見ていると怖くなってしまって・・・・聞けなかった。それと同時に、スピカは何だか無性にレグルスのことが気になり出していたのだった・・・・・・・・・・・・・


  

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