28 「あっ、は、はい!?どうぞ。」 と言ってスピカの部屋に入ってきたのは、何とマクリスであった。 「あっ・・マクリス、様!?」 と、マクリスはニッコリ笑顔でスピカにそう言ってきたものだから、スピカはどう答えて良いものか迷ってしまった。 「あっ、え、え〜っと・・その・・・・」 とマクリスが笑顔でそう言ったので、スピカもつい笑みをこぼしてしまった。 「ウフフフッ。はい・・そうですね。」 とスピカはお礼を述べた所で、またレグルスのことを自然と思い出してしまっていた。昔の経験とは一体何なのだろうかと。 「あ、あの、マクリス様。お聞きしたいことがあるのですけど・・いいですか?」 とスピカは言った。だがそれでもマクリスは特に嫌な顔をせずにすぐに返事をしてくれた。 「ふ〜ん、レグルス君のこと?うん!僕が知っていることなら教えてあげるよ。」 考え込んでいるマクリスを見て、スピカは答えが出るのを黙って待つことにした。 「・・・スピカ君。僕はね〜、一応レグルス君やラグリア君のイトコとはいっても、本来住んでる所が全く違うから・・そういう身内話みたいなのはあまり知らないんだよ。でもそうだね〜・・・・・レグルス君は、昔もうちょっと違う人だったとは思ったよ。」 思いがけないことを言われてスピカは驚いてしまった。 「レグルス君はね〜、あぁ見えても結構硬派だったんだよ?今では僕に似ちゃって随分無節操になっちゃったけどね!!アハハハハッ!!・・だから・・・そーゆー点では違うと思うんだよ。つまりね、スピカ君・・・これは僕の推論だよ?でも・・仮にレグルス君が失恋したとしよう。その人のことがとっても好きだったんだよ・・・あまりにもその想いが強すぎて・・・・でもそれは失恋だから、悲しいかな。レグルス君がどんなに想っても相手の女性はレグルス君を見てくれないんだ。自暴自棄になってしまったレグルス君はその報われない思いを、他の女性と接することによって消化している・・・と考えれば、今のようなレグルス君になってもおかしくはないよね?」 マクリスからはいつもの軽い雰囲気が感じられなかった。スピカの質問したことに対して真剣に考えてくれているようである。 「うん・・・・僕にはレグルス君のそーゆーコトはよく分からないんだけど・・・・・僕に言えることはそれ位かな?アハハハハッ!他に質問は?」 何だかマクリスにせかされているような気がしてしまって、スピカは少しあせってしまった。何かもっと他にもマクリスに聞いてみたいことが一杯あるような気がする。レグルスのことでも、マクリス自身のことについても、それ以外のことについてでも・・・・・ 「え〜っと・・・その・・お聞きしたいことが、たくさんありすぎて・・・・」 このマクリスの妙に広い心にスピカは感謝してしまった。 「あ、はい。ありがとうございます・・・・えっと、それじゃあ・・・・」 と、スピカは少し気になっていたことをマクリスに尋ねた。少しだけプライバシーに関する質問だから嫌がるかと思っていたのだが、マクリスは全然そんなそぶりを見せずすぐに答えてくれた。 「うん、そうだね。結婚もまだだし、付き合っている彼女もいないよ。アハハッ!だから・・僕の心を埋めてくれるのは、君のような娼婦さんだけなんだよ、スピカ君♪」 マクリスはそう言ってスピカを強く抱き締めた。スピカもつい嬉しくなってしまってマクリスの背中に腕を回す。 「・・・・そういえば・・・君には好きな人がいないんだよね?」 ふと、少しの沈黙の後、マクリスがスピカにそう尋ねてきた。 「あ、えっと・・・はい、そうですね・・・」 スピカは思ってもみないことを言われて驚いてしまった。マクリスは苦笑している。 「アハハッ、僕らしくもない!こんな辛気臭い話やっぱり似合わないよね!・・・でも、人間の心って複雑だよね。ないものねだりが激しくて・・・アハハッ!取り分け僕はずーっと幸せな生活をしていたからね・・・・それまで、欲しいものは全部手に入れてたんだ。でもそれはね、他力本願で、僕自身が苦労して手に入れたものじゃないんだ・・・・だから幸せだったけど、確実に穴が空いた幸せ。実感なんて伴ってなかったよ。だからね・・・こんなに夢中になって誰かを好きになるってことが、とっても苦しいことだって初めて分かったよ・・・・ねぇ、スピカ君・・恋って、ドキドキするものだよね?」 とマクリスに言われ、スピカは小さく頷いた。 「はい・・そう、ですね・・・・」 いつになくため息をつくマクリスを見て、スピカは少し驚いてしまった。いつも軽いノリのマクリスであるが、今は本気で悩んでいるっぽいのだ。スピカは試しに聞いてみることにした。 |