3 「・・・・スピカ・・・・」 レグルスの腕の中はとても優しく暖かかった。スピカはつい身を任せてしまう。 「ッ・・・・す・・み、ません・・・レグルス、様・・・・」 スピカは驚いてしまい、思わず顔を上げてレグルスを見てしまった。レグルスは優しい微笑を浮かべて口を開いた。 「フフッ。いつでも、アトラス様から来た女性には言っているんだよ。私に敬語を使う必要はないし、「様」付けもする必要ないから、とね・・・・私はそれほど偉い身分の者でもないんだよ。だから、普通に呼んでくれて構わないからね。」 スピカはそれっきり泣くことしか出来なかった。抱き締めてくれるレグルスの存在が本当に優しくて暖かくて。ずっと、泣いてしまっていた。 「・・大丈夫だよ、スピカ・・・・大丈夫だからね・・・・」 スピカは泣いてしまって返事をすることしか出来なかったが、レグルスの優しさが本当に嬉しかった。お礼が言いたくても泣いてしまってなかなか言えない。 「・・・あぁ、忘れていたよ・・・ほら、ハンカチでその涙を拭いてごらん。」 レグルスが懐から奇麗な水色のハンカチを取り出してスピカに手渡した。スピカはそれを借りて涙を拭く。だがそれでもまだその瞳から涙があふれてきて。今度はレグルスに対しての迷惑を考えたのとその優しさからきたものだった。 「・・スピカ。いいんだよ・・・・悲しい時は、我慢せずに泣いてごらん・・・・その代わり、今度はとびっきりの笑顔を見せてね。」 やはり泣いていて返事をすることしか出来なかったが・・・・レグルスは本当に優しく励ましてくれた。再度レグルスはスピカの頭を撫でた。 「・・・・スピカ。少し落ち着いたらここを出ようね・・・・あまり長居はしていられないから・・・・」 こうしてレグルスが傍にいて励ましてくれるのが何よりも嬉しかった。もっと性格の悪いお客だったら立ち直れるきっかけもなかったかもしれない。その点このレグルスは本当にスピカのことを気遣って優しくしてくれた。それまでのアトラスとのやり取りを見ていても、レグルスを信頼していることがよく分かったから・・・・スピカも自然とレグルスを信頼していた。 「・・あの、レグルス・・さん・・・・?で、いいですか?」 スピカはコクンと頷きながら返事をした。 「うん・・・それじゃあ、行こうか。夜の街は寒いからね・・・この中に入ってごらん。」 と言ってレグルスはフードを被り、同時にマントをバサッとスピカにかけて、スピカの肩を抱き寄せた。 「!・・レグルス、さん・・・・?」 先ほどまでは抱き締められ、今度もまたこうして傍にいることでドキドキしてしまった。既に目深にフードを被ってしまったレグルスがどんな表情をしているのかはよく分からなかったが、その口元は笑みを作っていた。 「フフッ・・・私のエスコートはお気に召しませんか?お姫様。」 そうしてレグルスはお金をカウンターの前に置き、最後にマスターに軽く手で挨拶してから歩き出した。 |