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それまで2人とも特に何も話すことなく、ただ寄り添って夜の街を歩いていた。
レグルスはフードを被っていてどのような表情をしているのかよく分からなかったし、スピカ自身アトラスとの突然の別れに涙してしまったこともあり、心が現実から離れてしまっていて話す所ではなかった。
・・・・・そうして歩いていく内に見えてきたのは大きなお城であった。そう、フェルディナン城である。そしてレグルスは間違いなくこのお城に向かって歩いていたので、スピカは「まさか」と思いつつ今まで守っていた沈黙を破ってレグルスに尋ねた。
「あの、レグルスさん。もしかして・・・私たち、お城に向かっていますか?」
「ん?あぁ、そうだね。フフッ・・何せ、この城こそが私の住処だからね。」
「えぇっ!?あ、あの・・まさか、レグルスさんは・・・!」
「あぁ、そんなにお偉い身分ではないよ、私は。この国の大臣をしているだけだから。」
「ええぇぇ〜〜〜っっ!?だ、大臣様なのですか!?わ、わわ、私!!し、失礼では・・・・!?」
まさかレグルスがそんなエリートな人物だとは知らなかったスピカは大いにパニックに陥ってしまった。しかもレグルスはまだ若そうだ。スピカよりは年上だろうが、それでもあまり年齢差はない気がする。こんな若い美男がこの大王国の大臣なのかと思うと本当に驚きである。
しかもこうしてマントの中に入れてもらったり、泣いてた時にとても優しくしてくれたり・・・・・失礼極まりないことだとスピカは思ってしまった。
「フフッ、どうしたんだい?スピカ。取り乱してしまって。そんな大したことではないだろう?」
「そ、そそ、そんな!!とっても大したことですよ!?あ、あの、私!やはり失礼ですから、「様」付けを・・・・」
「あぁ〜、まぁそんなに謙遜しないで。「さん」付けしてくれて、せっかく新婚っぽい雰囲気だったのに・・・・」
「えぇっ!?で、ですがそんな!!私・・・!」
「フフッ、冗談だよ・・・・あぁ・・でもね、スピカ。そんなに人を、身分で区別してはいけないよ?」
「えっ?」
「私もおまえも、同じ人間なんだから。おまえはもしかしたら「身分」や「自分の置かれている立場」というのを気にしてしまうのかもしれないけれど・・・私はそれ以前に、1人の「男」としておまえと接したいんだよ。だから・・・私に謙遜することはないし、普通に話しかけてくれて構わないんだよ。フフッ、何せこの城には・・それこそ私より身分の高い者も多く住んでいるからね。そういう人達にだけ、距離を置いて振舞っていればいいさ。少なくとも、私には普通に、1人の「女性」として接するように。いいね?これは、私とおまえの約束だよ?」
と、丁度城門に着いた所でレグルスは立ち止まってフードを取ってそう言い、スピカを見た。
スピカは本当に驚いてしまっていた。ずーっと小さな町でしか生活したことのないスピカが急にこんな大王国に来て、しかも自分を買ってくれたお客が王国の大臣だったなんて。
だがこんなにスピカに優しくしてくれる。「身分差を気にすることはない。」と気を遣ってくれて・・・・それにアトラスは言っていた。「お客との決まりごとはどんなことでも守れ。」と・・・・・
スピカ自身納得いくものではなかったが、レグルスが「約束」と宣言し、更にアトラスから「約束を守れ」と教わっている以上スピカには抵抗することが出来なかった。
「あの・・・・はい、分かりました。レグルスさん・・・ですけど私・・本当に、悪いことをしていないでしょうか・・・?失礼がないのか・・私にはそれが心配で・・・・」
「・・おまえが何をしたというんだい?何も失礼なことなんてしていないだろう?」
「あ、あの・・そう、かもしれませんけど・・・・あの、私・・・こんな大王国に、今まで来たことがなかったものですから・・・・よく、分からなくて・・・・」
「フフッ、なるほどね。それに、アトラス様以外と迎える男との夜は・・緊張するものかな?」
「!!あ・・え・・っと・・・・」
図星だった。スピカはついレグルスから視線を逸らしてしまう。
「フフッ、図星だったみたいだね。まぁ・・無理もないかな?おまえは見るからに、素直で純粋そうな女性だからね〜・・・・フフッ、まぁ・・アトラス様からしっかり教育はされてる筈だろうけど・・・・大丈夫だよ、優しくするから。」
レグルスに優しくそう言われてしまってはスピカも何も言うことは出来ず、素直に「はい、ありがとうございます・・」と返事をした。
「フフッ、おまえは本当にいい子だね・・・・それじゃあ、おいで。中に入ろう。」
「あ、はい。」
そうして2人はお城の中へと入って行った。スピカはそれまでかけていた飾り眼鏡を外して広がる世界に圧倒されてしまっていた。
スピカの想像以上に城の中は広かった。訳が分からないまま、スピカはレグルスの横にくっついて歩くだけだった。
さすがにこの時間の城には見回りの兵士しかおらず、レグルスに敬礼をしていた。レグルスも手を挙げてそれに答えていたが歩みを止めることはなく、スピカもそんなレグルスに着いていくだけだった。
そして改めて広いお城だとスピカは思った。思わず迷子になってしまうのではないかという考えがスピカの頭の中をよぎったが、すぐに傍にいるレグルスのことを考えると、初仕事だからがんばらなければいけないと気持ちを改めた。
階段を上り、しばらくまっすぐ歩いた所でレグルスは少し大きなドアの前で止まり、そのドアを開けた。
「さ、どうぞ。ここが私の部屋だよ。」
「あ、は、はい・・お邪魔、致します・・・・」
すぐにレグルスが部屋の電気をつけた。スピカも中に入り、レグルスの部屋を見回した。とても広くて、見るからに高級そうな家具やらベッドやらが目に入ってくる。
ベッドには天蓋がついていて、とても上品なものだった。スピカはまさかと思ったのだが、恐らく今日レグルスと一緒に寝るのはこのベッドなのだろう。しっかり奇麗に整えられていて、何か汚すようなベッドではない気がする。
「フフッ、スピカ。どうしたのかな?この部屋は、気に入ってくれたかい?」
「あ、は、はい。その・・・とても、豪華すぎて・・・・私なんかがこんな所にいて・・・場違いのような気がしてしまいます・・・・」
「おや・・ということは・・あまり気に入ってくれなかったかな?」
「あっ、いいえ!そんなことはないです!あの、ですが・・とても高級すぎて・・・・もったいない感じがしてしまって・・・・」
「フフッ。本当におまえは可愛いね・・っと・・」
「キャッ!?」
「ちょっと失礼するよ、スピカ。」
レグルスはいきなりスピカを抱き上げた。お姫様だっこ状態である。
「あ、あの・・・レグルスさん?」
レグルスはそのままスピカをベッドにそっと寝かせた。それからレグルスがスピカに覆いかぶさる。
「フフッ、スピカ・・・あらかじめ言っておこうかな?私が、おまえを買ったんだけど・・・・悔しいことにね。おまえの相手は・・何も私だけに限定されないんだよ。」
「えっ!?」
そんな話今までまるで聞いてなかった。もちろんスピカは驚くしかなかった。
「本当は、私1人だけでおまえを独占したい所なんだけど・・・・どうもこの城の男は私を含めて、女好きが多くてね・・・・そんな連中も相手にしなければいけないと思うけど・・・・まぁ・・仕事だと思って、我慢してくれるかな?」
「えっ!?あ、あの・・・・はぁ・・・・」
「フフッ。でもね、スピカ。最終的におまえを惚れさせるのは、この私だよ?・・さ、それじゃあ余計なお喋りはこれ位にして、そろそろ始めようか・・・服を脱いでごらん。」
「!あっ・・はい・・・・」
いよいよスピカの仕事の始まりだった。レグルスは何も手出しはしなかったが、ただひたすらにスピカのすることを見つめていた。
レグルスに見つめられていることが恥ずかしかったが、「服を脱いで」と言われたからには脱がなくてはならない。恥ずかしさを押さえてスピカはゆっくり服を脱ぎだした。
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